第18話 降伏勧告
「おいおい、本当にこんな場所にあいつらがいるのか?」
冒険者たちの中で一番若い剣士の男が、仲間の斥候に尋ねる。
「間違いないはずだ……草むらが不自然に踏み潰されていたろう? アレは奴らの乗り物の跡に違いない」
斥候は辺りを警戒しながら剣士に答える。
「しかし、一人金貨二十枚って本当なのかよ……領主も随分と気前が良いな」
魔法使いらしい男が軽口を叩く。
「領主の倅がコテンパンにのされたからな……見せしめだろう」
冒険者達のリーダーであろう男が魔法使いに答える。
「貴族の面子ってヤツ? バカバカしい……まあ、そのおかげでこんな美味しい仕事にありつけるんだからな」
剣士の男が笑いながら腰の剣に手を伸ばす。
そして鞘から剣を抜いて片手で構える。
「どんな奴らか知らねえが……俺がこの剣でぶった切ってやるよ」
そう言った瞬間だった。
ガキンッ
男の手から剣が吹き飛ぶ。
「えっ?」
剣士の男が唖然とした表情で固まる。
仲間の冒険者たちが、一斉に警戒態勢をとる。
其処にユーリの声が響いた。
『止まれっ!! それ以上の接近は敵とみなすっ!!』
斥候が背中から短弓を掴み取り、草むらに伏せた状態で短弓を構える。
リーダーの男は油断なく盾を構え、大声で誰何する。
『俺達はギルドの依頼によって、お前たちの捕縛に来た……大人しく縛に就けっ!!』
その言葉を聞いて、ユーリが悔しそうに呟く。
「……やっぱり敵なんだ……」
「ほら見ろ……甘いんだよ、てめえは……やるぞ」
「……イエス、マム」
ヴァスケスは伏せていた体を起こすと、中腰のまま棒立ちの剣士に向けて銃を発砲する。
パパパッ
三点バーストで射撃した銃弾が、剣士の身体を貫く。
「ぐあああっ!!」
剣士がその場に崩れ落ちる。
「伏せろっ!! やつら怪しげな術を使うぞっ!!」
リーダーが残りの仲間に声を掛け、全員が草むらに伏せる。
其処に何処からか手榴弾が投げ込まれる。
ドサッ
「え、何?」
不幸にも手榴弾のすぐ傍にいた魔法使いが、それを目で追ってしまう。
ドバンッ
手榴弾が弾け、周囲の草と土砂を巻き上げる。
「……ぎ……ぎゃあああああっ!!」
魔法使いの悲鳴が草原に響く。
「くそッ……どこだっ!!」
リーダーの男が立ち上がる。
其処に銃弾が浴びせかけられる。
バツッ、バツバツッ
リーダーの身体に小さな穴が開くと同時に、反対側に大きな破孔が開く。
「ぐああああっ」
リーダーがその場に崩れ落ちる。
「(何なんだよ……あの女の声がしてからほんのわずかの時間で……)」
斥候の男は襲ってくる恐怖に体を震わせる。
「(俺達は何を相手にしているんだ……)」
そう考えながら、斥候の男は短弓を握りしめるのだった。
◆
「全員やったか?」
「いえ、あと一人残っていると考えられます」
「残った奴は厄介そうだな……一度も姿を現さない」
「斥候なんじゃないですかね……警戒心高そうだったし」
アグネスがコリンに答える。
「下手に近づいて損傷するのも避けたいな……ユーリにやらせるか」
「そうですね……」
アグネスは大きく息を吸うと、反対側にいるユーリに大声で話しかける。
「敵が一人残っているっ!! 降伏するように説得しろっ!!」
暫くして、ユーリからの声が返る。
「了解……やってみまーす」
その声に、他のメンバーは銃の弾倉を入れ替え始めるのだった。
◆
「くそっ……奴ら何を話していやがるんだ……どこの言葉だ……聞いた事がねえ」
斥候は改めて後方に振り返る。
其処には最初に倒れた剣士と、リーダーが地に伏している姿が見えた。
「(魔法使いの姿は見えないが、多分あの爆発でやられたんだろう)」
斥候の男が歯噛みする。
其処に最初に聞こえた女の声が聞こえてきた。
『あなた達に勝ち目はありません。大人しく武器を捨てて降伏しなさいっ!!』
降伏勧告だった。
「(俺達はまだ一度もあいつらの姿を見ていないのに……降伏勧告だとっ!?)」
斥候の男の中の何かが壊れる。
絶対に敵わない相手だと分からせられたのに、納得できないもう一人の自分がいる。
『ふ、ふざけるなっ!! 降伏なんぞ絶対にするものかっ!!』
気づけば斥候の男は叫んでいた。
『俺を殺したいかっ!! 殺すがいいっ!! だがな、これからたくさんの冒険者たちがお前たちを狙うんだ……寝る間も与えない位になっ!! ざまあ見ろっ!!』
そう叫んでから、斥候の男は立ち上がる。
短弓を構えたまま、周囲を見回す。
視界の片隅に、不思議な杖を構えた女の姿を捉える。
「(こいつか……此奴らが、俺の仲間をっ!!)」
斥候の男は即座に短弓を女に向ける。
指先が矢を放とうとした瞬間、斥候の身体に激痛が走る。
はずみで離した矢が、的外れの方向に飛んでいく。
斥候の身体が草むらに倒れ込む。
其処に四人の女たちが駆け込んでくる。
全員が、奇妙な杖を構え、斥候の男を狙っている。
斥候の男は薄れていく意識の中で、彼女たちに嗤って見せるのだった。
◆
斥候の男が目を覚ます。
鈍い痛みが襲い掛かるが、その痛みこそが自分が生きている事の証だと気づく。
男がゆっくり目を開くと、自分が草原に寝かされている事に気付く。
手足が動かないのは拘束されている所為か……。
視界の片隅に、降伏を勧告してきた女を捉える。
『あ、目覚めましたね……あたしの言葉、分かりますか?』
女が冷静な声で話しかけてくる。
『俺は……死んだんじゃないのか?』
『傷は酷いですけど、死ぬほどではないですよ。応急手当もしましたし』
男が視線を動かすと、確かに体の数か所に布が巻き付けてある。
『我々の医療品を提供する訳にはいかないので、あなた達の荷物から使えそうなものを使いました』
男は体を捩って上半身を起こす。
そして注意深く周囲を見回す。
どうやら女の仲間はいないようだ。
『何故……助けた……』
『ギルドの情報を聞きたくて……でも、話してくれないですよね』
『当たり前だっ……貴様らの仕打ちは忘れんっ!!』
『でも、それはこっちも同じですよ。あたし達が何をしたんですか? 領主に踊らされてあたし達の命を奪いに来たくせに……お互い様でしょ』
『ぐっ……それは……領主に逆らったからだろう』
『領主が理不尽な要求をしてくるから突っぱねただけです……しかもあのドラ息子の一件で』
ユーリがそう言うと、斥候の男が押し黙る。
『手配書には書いてないですけど……あたし達は騎士団の追撃を二回撃破しています』
『き、騎士団を……撃破だと……いい加減な事を言うなっ!!』
『別に信じて欲しくて言った訳じゃないですよ……ただ、領主はあたし達の実力を隠して冒険者たちを差し向けた……それは事実です』
『……』
ユーリは斥候の男の目の前に、仲間たちのギルドカード三枚を置く。
『埋葬してあげられませんので、代わりにこれを回収しておきました』
そう言ってユーリは腰に下げていたナイフを取り出す。
『……ッ』
ザグッ……ザグッ
ユーリは男を拘束していたロープをナイフで切断する。
『……という訳で、あなたを解放します……何処へなりとも行ってください』
『……俺がお前たちの情報を仲間に伝えるぞ……』
『構いません……秘密にしたい情報等ありませんから』
ユーリはきっぱりとした口調で言い切る。
男は俯いたまま唇を噛みしめる。
『ギルドに伝えておいてください……不用意に我々に近づく者がいれば、敵と判断して排除する……と』
ユーリはそう言ってナイフをケースに仕舞う。
そして顎を振って、歩いて行けと催促する。
男はよろよろと立ち上がると、ユーリに背中を向ける。
そして深い草むらの中へと姿を消していく。
ユーリはその背中を黙って見送るのだった。




