閑話 森に残された者たち
トラバスタ辺境伯領を取り巻く大森林地帯。
その深層部に異質な集団が現れて既に三週間が経過した。
「アレクシア隊長……高機動偵察車なら何とか通れる道が開通しそうです」
今は二つの班を指揮するジェシカが、隊長のアレクシアに報告する。
「でかしたわね、ジェシカ。一台でも森の外に出られればありがたいわ」
「ありがとうございます」
ジェシカはアレクシアに敬礼をすると、再び現場へと戻っていった。
民間軍事会社ブラッドフィールドに所属する、女性だけで構成された実行部隊。
彼女たちはアフガニスタンでの難民支援プログラムの食糧支援の護衛任務にあたっていたのだが、巨大な砂嵐に巻き込まれた後、気づいたらこの森林地帯の中にいたのだった。
アレクシアが背後に振り返ると、そこには五台の巨大なトラック、二台の兵員輸送車、そして二台の高機動偵察車が、木々の中に鎮座していた。
「(訳が分からないけど……道を切り開かなければ身動きも取れない……)」
アレクシアはトラックの周囲に切り開かれた宿営地を見つめる。
十張りのテントが規則正しく設営されていて、今は隊員達が忙しく動き回っていた。
「どうしたんだ、そんな顔して」
アレクシアに声を掛けてきたのは副隊長のヒルダだった。
「何でもないわ……さっきジェシカから道がもうすぐ開通しそうだって報告があったわよ」
「そりゃあ良かった……偵察を出したくてもこの森林の中じゃ、思うように動けないからな」
二人の会話がそこで急に止まる。
ヒルダがアレクシアに尋ねる。
「やっぱりあいつ等が心配か?」
「まあね……でも、コリンは責任感の強い子だし、ベテランのヴァスケスも一緒だから、新人の二人を含めて何とかなっていると信じているわ」
「そうだな……コリンとヴァスケスがいるんだから大丈夫だろ」
ヒルダの答えにアレクシアが苦笑する。
「それで通信の方はどう? 何か進展はあった?」
「いや、呼びかけはしているんだが、応答が無い」
そう言ってヒルダは両手を広げて見せる。
「でも、森の外に出られれば、交信出来るかもしれないしな」
「そうね……そう願いたいものね」
ヒルダはその答えに眉を顰める。
「何だよ、まだ心配事があるのか?」
「分かっているくせに……コリン達は良いのよ……心配なのは双子の方よ」
「……ああ……そんな奴らがいたな」
「ヒルダ……そんな言い方しないの。あの子達も可愛い部下なんだから」
「お目付け役がセリカとカレンだっけ……確かにこの四人は心配だな」
「まあ、双子に関してはそれ程心配はしてないのよ……不思議とね」
「あいつら野生児だからな……」
アレクシアとヒルダが見つめ合って苦笑する。
「とにかく、今できる事を最大限やりましょう。我々も生き延びなければならないのだから」
「イエス、マム」
ヒルダは小さく敬礼を返すのだった。




