↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/78

第15話 敵を知る

 トラバスタ辺境伯領にある、辺境領騎士団の本部。


 その会議室には暗い空気が立ち込めていた。



 部屋の中央には大きな机が置かれていて、その天板にはトラバスタ辺境伯領の地図が広げられている。


 その机を六人の騎士達が取り囲んでいた。


 騎士団副団長のアダムスが今回の報告書の束を机の上に投げる。



「これを御領主様に報告するのか……?」



 参謀格の騎士がアダムス副団長の方に視線を送りながら口を開く。



「事実は事実として報告された方が良いでしょう……下手に繕うと碌なことになりません」


「くっ……確かに……」



 団長のアビゲイルが机の上の報告書を手に取って、めぼしい所を読み上げる。



「最終的に、軍用犬二頭、軍馬五頭が死亡。騎士は十三人が負傷、死者無し。但し重傷者が九名……しかも、被疑者には逃げられた……と」



 その言葉が重く彼らの心に伸し掛かる。



「で、被疑者は何人だったのだ?」


「……四人との報告がありました」


「たった四人でこの戦果……恐ろしいものだ」


「「「「「……はい」」」」」



「魔導士たちは何と?」


「はっ、魔導士たちはこのような魔導は見たことも、聞いたこともないと言っておりました」


「確かにあの爆風と金属の礫は一系統の魔導では説明できんからな……」



「ただ、連中が魔導杖のような物を使用しているのは確認できております」


「ほう……どのような物なのだ?」


「礫が射出される前に、杖の先端から火が噴き出すのが見えたと申す者がおります」



「魔道具か……それはそれで厄介だな……」


「……それでこれはまだ調査中なのですが……例の金属の礫……『鉛』で出来ているようです」


「……『鉛』だと? あのように柔らかい物が使い物になるのか?」


「はい。死亡した軍用犬の体内からこのような物が摘出されました」



 そう言って参謀格の騎士が、折りたたまれた布を机の上に置く。



「……勿体をつけるな。さっさと開け」



 副団長がイライラしたように参謀に命令する。


 参謀が布を開くと、そこには潰れたキノコの様な形状の金属が現れた。



「……これが『鉛』だというのか……」


「はい。どのような形で射出されたのかは分かりませんが、命中すればその体内でこのようにひしゃげてしまうようです」


「何という……残酷な兵器だ」



 アビゲイルが呟くと、参謀も大きく頷く。



「何故これが残酷なのです?」



 副団長は理解できていなかったようで、アビゲイルと参謀の顔を見つめる。



「推測だが……この礫は硬い金属で作られた矢じりとは違う。人体に入り込めば、容易に形を変えるのではないか……」



 その言葉を聞き、副団長の顔色が青くなる。



「な、なんと卑怯なっ……騎士道に背く様な事をっ!!」



 副団長が憤懣やるかたないといった表情をするが、アビゲイルと参謀は冷静だった。



「奴らは騎士ではない……騎士道など関係ないのだ」


「団長っ!!」



 アビゲイルは報告書を持ったまま、全員に語り掛ける。



「御領主様には私が報告する……また、ここで見た事、聞いた事はまだ他言無用だ……よいな?」



「「「「「はい」」」」」



 全員の声が重なる。



「よろしい……一度解散する。御領主様から新たな命があるやもしれん。各人、それまで待機だ」



 アビゲイルはそう言うと、他の者たちに背中を向ける。



「御領主様……」



 アビゲイルは小さく呟くのだった。


 ◆


 トラバスタ辺境伯領。


 その周囲には草原地帯が広がり、その更に奥には鬱蒼たる森林地帯が控えている。


 ユーリ達はトラバスタ辺境領騎士団からの追撃を逃れ、秘かに宿営地としている場所まで戻る事が出来た。



 今はコリンのテント内で、今回の一件の報告が行われていた。


 テントの中には小さな折り畳みの机が置いてあり、その上にはトラバスタ辺境伯領を上空から撮影した写真がノートパッドに表示されていて、大きな航空写真のようになっていた。



「へへ、ドローンを使ったのさ。ユーリ以外にも使える奴がいないと困るだろ?」



 アグネスが少し自慢そうに胸を張る。



「うん。良く撮影できてるよ……短時間でよくぞここまでだよ」



 ユーリが手放しでアグネスを褒める。


 その様子をコリンとヴァスケスが生暖かい目で見ている。



「お前ら……もういいか? 真面目な話をするぞ」



 ヴァスケスが先にしびれを切らし二人を注意する。



「えー、今のだって真面目な話なのに」


「ユーリ……黙れ」


「……イエス、マム」



 ユーリが黙ったところで、コリンがレーザーポインタでトラバスタ辺境伯の屋敷を指し示す。



「此処が領主の館だ……そして此処がお前たちが言っていた騎士団の練兵場、そして馬の訓練場だ」


「なるほど……上空から見ると位置関係がはっきりするな」


「で、どの辺で最初の遭遇戦になった?」



 ヴァスケスはノートパッドの上に指を置き説明する。



「この辺りでユーリが城壁の撮影をしていて、監視兵に見つかった……そこから退却したんだが……この辺りで追いつかれることを認識、クレイモアでの足止めを図った」


「クレイモアを出す必然性はあったのか?」


「騎馬は徒歩より速い。遮蔽物も少なかった。あのまま走っていたら追いつかれていた……やり過ぎかとは思ったけど、今となっては正しかったと考えている」


「うむ。わたしもヴァスケスの判断を支持する」



 コリンは大きく頷いた。



「此処で結構時間を稼げたんで、この辺りか?」



 ヴァスケスは地図をスライドさせて草原地帯を表示する。



「あー、それ以上はデータが無いっす」



 アグネスがヴァスケスに話しかける。



「仕方ねえな……まあいい。この辺りで休憩を取得……その時軍用犬に襲われた」


「軍用犬か……厄介だな」


「悔しいが有能で勇敢な奴らだったよ……その騒ぎを嗅ぎつけられて、二度目の遭遇戦になった」



 コリンが視線だけでヴァスケスに話を進めるように促す。



「此処では武器を選ぶ余裕が無かった……M4で撃退……死人は出てないと思う」



 ユーリがそこで追加の報告をする。



「そう言えば、此処で笛が鳴りました」


「笛? ホイッスルみたいなものか?」


「はい。結構特徴的なリズムで吹いてました」


「彼ら独自の連絡手段なのかもしれんな」



「で、其処から更に後方に退却……此処で『釣り針』を仕掛けてみた」


「成果は?」


「上手くいった……いや、いき過ぎだな……奴らに余計な情報を与えたかもしれん」



「ただ、敵も相当数索敵を行っていたようで、情報収集中に三度目の遭遇戦になった」



 その言葉にアグネスが苦笑する。



「やっぱりユーリが厄介の種を蒔いてんじゃん」


「ひどっ、そんな事無いよ」


「黙れ、ガキども……此処ではユーリが信号弾を使って煙幕を作ったのが功を奏した」


「なるほど……」



「後は、アグネスが救助に来てくれたんで、撤収できた……以上だな」



 報告を聞いてコリンが考え込む。


 しばらくの沈黙の後、コリンがヴァスケスに尋ねる。



「ヴァスケス……お前の所感を聞かせろ」



 鋭い視線でヴァスケスを見つめるコリン。


 ヴァスケスがゆっくりと口を開く。



「奴らは強い……集団行動に慣れている……今はまだオレ達の武器の優位性で何とかなっているが……全面的な殴り合いになったら……負けるとは言わないが……キツイ」



 ヴァスケスの言葉が意味することはとても重く、全員の心の中に深く浸透するのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。