第14話 煙幕突破
強烈な燃焼音は無事アグネスの元まで届いた。
アグネスはとっさにバギーを停車させる。
「でかい爆発ってこいつの事だよな」
そう呟き、次の爆発を待つ。
ほどなくして再び草原に大きな音が響く。
「十一時の方向だな……距離は一キロは無い」
ハンドルを操作し、アクセルペダルを踏み込む。
「後は索敵しているっていう、騎士達との鉢合わせが怖いな……」
アグネスはハンドルを握りながら助手席のXM-7に視線を投げるのだった。
◆
「何の音だっ!!」
「聞いたことのない音だぞっ!!」
「方角を調べろっ、救援が必要かもしれん」
索敵している騎士達が声を上げる。
「笛の音は聞こえたか?」
「いいえ……誰か笛の音を聞いた者はいるかっ?」
騎士達は横に首を振る。
「救援の要請も出来ぬほどの損害か……くそっ」
騎士の一人が忌々しそうに拳をもう片方の掌にぶつける。
「今はその気持ちを抑えろ……此処にいる者全て同じ気持ちなのだ」
「……はい」
「よし、音のした方向へ進むぞっ、救助が必要かもしれん。あらかじめ用意せよ」
「「「はいっ」」」
ベテランの騎士が先頭になり、音のした方向へ駆け出すのだった。
◆
ヴァスケスは警戒しながら、スタングレネードが爆ぜた現場に向かう。
「先輩……逃げないんですか?」
「奴らの装備とかが知りたい……少々危険だが、得られる情報は無駄にしたくないからな」
「なる」
現場では、馬が落ち着きなく辺りをうろうろ歩き回っている。
地面に落下した騎士達は、一時的に視力と聴力を失っているようで、ゾンビのようにフラフラと動いていた。
「本当に見えてないし、聞こえてないんですよね?」
「ああ……心配なら話しかけてみろ」
ヴァスケスはそう言いながら、油断なく騎士達の装備を観察する。
「金属製の鎧に、脛当て、小手……中世の騎士だな」
そして地面に落ちている剣を拾い上げる。
「両刃の直剣か……で、こっちはハルバードだっけか」
ヴァスケスが爪先で武器を突く。
一方、ユーリはゾンビのように動く騎士の前に立って話しかける。
『本当に見えてないんですか?』
『ううううっ……』
しかし返ってくるのは唸り声の様なものだけだった。
ヴァスケスがユーリに注意する。
「目と耳は利かないが、意識はしっかりしてるからな、触ったりするんじゃないぞ」
「イエス、マム」
ヴァスケスは馬達の装備も確認する。
「毛並みが綺麗だな……それによく手入れされている……大切にされているんだな」
不意にヴァスケスが動きを止める。
遠くからエンジンの音が迫ってくるのが聞こえる。
「アグネスかっ」
ヴァスケスが振り返ると、その前方の草むらがガサガサと大きく揺れ動く。
そして草むらの中から、銀色に輝く鎧を身に纏った騎士達が現れた。
「チッ、騎馬じゃなく徒歩で回り込んできやがったか!」
ヴァスケスの突然の大声に、ユーリも振り返る。
其処に見えたのは、ヴァスケスと対峙する四人の騎士が半円を描くように立っている姿だった。
そして、その向こうの草むらも、不自然に揺れている。
「先輩っ!!」
ユーリが悲鳴のような声を上げる。
「お前はアグネスと合流しろっ!!」
「で、でもっ」
「命令だっ、行けっ!!」
ユーリは二歩ほど走り出す。
しかし振り返ると、ヴァスケスが四人に囲まれている。
「……先輩っ!!」
騎士達とヴァスケスの距離がジリジリと縮まっていく。
「先輩、避けてくださいっ!!」
ユーリが腰にぶら下げていた信号弾を構える。
「ばかっ!! こっちに向けんなっ!!」
ヴァスケスが叫ぶがユーリは止まらない。
「いっけーっ!!」
バシュッ!!
本来は上空に向けて撃つ信号弾を水平射撃する。
信号弾は複雑ならせん軌道を描きながら、右端の騎士を直撃する。
バゴッ!!
「ぐはああっ!!」
金属鎧が変形する音と、騎士の悲鳴が同時に響く。
バシュルルルルッ!!
信号弾はそのまま地面でグルグル回り、そして破裂した。
バーンッ!!
「うおおおおっ!!」
周囲に信号弾の閃光と、赤い煙が煙幕の様に立ち上る。
「ユーリ、逃げるぞっ!!」
「はい、先輩っ!!」
そしてその煙幕を切り裂くようにエンジン音が迫る。
ブホオオオッ
煙の中から、デザートイエローに塗られたバギーが飛び出してきた。
「信号弾は空中で使うんだぞ、ユーリ」
アグネスが軽口を叩く間に、ユーリが助手席へ、ヴァスケスが後部座席に飛び込む。
「とりあえず、逃げろっ!!」
「イエス、マム」
アグネスは思い切りアクセルペダルを踏み込む。
タイヤが空転し、車体が蛇行しながらも飛び出すようにバギーは発進する。
『ま、待てっ!!』
『逃すなっ!!』
騎士達の叫び声が聞こえる。
「待てって言われて待つやつはいないよっ!! はははは」
アグネスは笑いながらその場から離れるのだった。




