第11話 威力偵察
アビゲイルが領主に呼ばれてから暫くして、不機嫌を隠さない表情でアビゲイルが戻ってきた。
「まったく……御領主様にも困ったものだ……騎士団は御用聞きではないというのに」
「団長……お言葉に注意して下さい」
副団長が周囲を見回しながら、さりげなく団長に諫言する。
「分かっておる……」
アビゲイルが副団長の耳元に顔を寄せる。
「例の女どもについてだ……アンソニー殿への謝罪を断ったそうだ」
「普通はそうでしょうね……相手が貴族でなければ」
「……御領主様はえらく御立腹だ……すぐにでも何とかしろと仰っておる……まだ女どもが何者かも分からぬのに……」
「探らせておりますが……かの者たちは街の中には留まらず、城壁の外で野営をしているようです」
「……野営か……それはまた厄介だな」
「歩哨の技術が高く、冒険者どもも近づけないとの事です」
「うーむ、ますます謎が深まるな……何者なのだ、奴らは」
「騎士団には警戒を厳にせよと伝えております。何かあれば、些細な事でも半鐘を鳴らせ、とも」
「それで良い。警戒しすぎるぐらいが丁度よいだろう」
そして二人の距離が離れた時だった。
馬場のある方向の城壁から、半鐘の鳴る音が聞こえてきたのだった。
◆
城壁の上で半鐘を鳴らす騎士に、複数の騎士が駆け寄ってきた。
「何事かっ!?」
「はい。馬場の方向に、怪しい人影を発見しました。二人組で、一人が何か魔道具のようなものでこちらを観察していたので半鐘を鳴らしました」
「わかった。すぐに探索させる」
その言葉に二人の騎士が反応し、すぐに踵を返す。
「下にいる連中にも声を掛けろ。すぐに追いかけるんだ」
「承知しました」
そして残った騎士が半鐘を鳴らした騎士に尋ねる。
「まずは状況を聞かせろ。団長たちに報告するからな」
「はい。わたしが見たのは薄い茶色の上下を着ている二人組でした」
「なるほど。副団長から聞いていた風体と一致するな」
「半鐘に気付くとすぐに後方の草原に逃げ込んでいきました」
「わかった。引き続き見張りを行え。何かあれば半鐘を鳴らせ」
「はい、承知しました」
騎士は踵を返し、団長のもとに向かうのだった。
◆
一方のユーリとヴァスケス。
森と草むらが混じったような場所を、身を隠しながら移動していた。
「なんだか、騎士団の動きが速いような気がするんですけど?」
「気がするんじゃなくて、本当に速いんだよ。やつら、相当に訓練されているぜ」
そう言ってヴァスケスが立ち止まる。
「……やりたくはねえが、仕方ねえ。クレイモアを使う」
「えっ?」
「足止めしなきゃ、こっちがやられる。あっちは大人数なのに対し、こっちはたった二人だからな」
「イエス、マム」
「点火は電気スイッチにしておけ……ワイヤー式だと引っ掛からない可能性があるからな」
ユーリは背負っていた大きなリュックを地面に下ろすと、中から弁当箱ほどの大きさのクレイモアを二つ取り出す。
そして一つをヴァスケスに手渡す。
「時間差を作りたいな……ユーリはそこに設置しろ。道の方に向けておけ」
「イエス、マム」
ユーリはクレイモアを地面に設置する。
「……道の方に向けて……角度はこんなものかな」
そしてクレイモアに電気スイッチのワイヤーを取り付ける。
ワイヤーを解しながら、ユーリが後方に移動する。
ユーリが窪地に身を隠すのと同時に、ヴァスケスも戻ってきた。
微かに前方から馬の走る音が聞こえてくる。
「……素早い対応だ……もう追ってきやがった……」
「でも、良いんでしょうか……こっちから戦端を開いて」
「仕方ねえだろ。お前、あの連中がオレ達に手加減すると思うか?」
「思わないです……それでなくてもハーグもジュネーブも関係なさそうですもんね」
「ああ。だから覚悟を決めろ……殺したくは無いが、殺されるよりはマシだろ」
「……はい」
二人がそんな話をしているうちに、馬の足音が激しく聞こえるようになってきた。
「いいか、オレがヘルメットを叩いたらスイッチを押せ」
「イエス、マム」
ユーリがクレイモアのスイッチを握り直す。
馬の激しい足音がさらに近づいてきた。
そして先頭の騎士の姿が、窪地の向こうに現れた。
「今だっ!!」
ヴァスケスがユーリのヘルメットを叩く。
ユーリがクレイモアのスイッチを押す。
ドカーンッ!!
激しい爆発音とともに、クレイモアが鉄の礫を周囲に飛び散らかせる。
先頭とその次を走っていた騎馬が犠牲になり、後続の騎馬たちが止まり切れずにその場に突っ込んでしまう。
「うおおおおおおっ!!」
「馬がっ、馬があああっ!!」
「何事だあっ!?」
騎士達の絶叫が周囲に響く。
「次を爆発させたら、退却するぞ」
ヴァスケスはそう言って、もう一つのクレイモアを爆発させる。
ドバーンッ!!
再び金属の礫が混乱している騎士達に襲い掛かる。
馬が嘶きながら地面に倒れる。
騎士が棹立ちになった馬から叩き落とされる。
そして不幸にも礫を受けてしまった騎士は、その場に崩れるように倒れ込む。
「ユーリ、逃げるぞ」
「は、はい」
二人は戦果を確認することなく、後方に走って行く。
騎士団はその姿を見つける事が出来なかった。
◆
「これは何事だっ!?」
先行する騎士達を追ってきた小隊長が絶句する。
五騎が爆発に巻き込まれた。
馬三頭は即死し、残る二頭も倒れて動けない。騎士五名も全員が重傷だった。
「何が起きたのだ……」
小隊長は生き残った騎士達に事情を聴く。
「分かりません……突如前方から爆発が襲い掛かってきたのです……爆風の中に礫を飛ばす魔法が掛けられていたようで、馬が悲鳴を上げて崩れ落ち、騎士は馬体ごと地面に投げ出されました」
「……うーむ……それは真か?」
「はい」
周囲の騎士達も同時に頷く。
「まずは怪我人の救助が優先だ。おい、本部に至急救援要請を行え」
「はい」
騎士の一人が素早く騎乗して騎士団の本部に戻っていく。
「追撃部隊を再編成する。動ける者はこちらに集まれ」
「「「はい」」」
「まずは簡潔に状況を話せ……同じ手を二度とは食らわん為にもな」
小隊長はそう言って追撃部隊の立て直しを行うのだった。




