49 竜人族の少女
あれから少し時間が経ち、謎の放浪少女は使われていない宿泊部屋の一室で休ませることにした。時間は夕方から夜になり、俺たちの夕ご飯の時間となったため最初に助けたガクトが呼びに行くことになった。その方が、相手も警戒心を持たずにできるからと言うガクトの考えである。
ガクトは少女のいる部屋の前にやってきた。このまま部屋に入るわけにもいかないガクトはゆっくりと優しく木製のドアにノックをした。
「お~~い、夕食だからお前もどうだ?」
しかし、ガクトの声にドアの向こう側から何も反応がなかった。まだ寝てるのだろう。しかし、さすがに起こさないといけないとガクトはゆっくりそのドアを開いて中に入った。
「おい、飯の時間だっ……て!?」
そこにはう~~んと背伸びと大きなあくびをして、少し紫髪に寝癖をつけながらベットから起き上がっている少女がいた。布きれのような服がはだけたほぼ裸体の状態で。寝ぼけ眼でガクトの姿に気づくとベットの脇に出て立ち上がる。
「ふあぁ~~むにゃむにゃ、よく寝たぁ……あ、もしかしてここの部屋貸してくれた人族ですか? あの……ありがとうございました。私、歩いている途中に倒れ……」
「まず! ……服を着てくれ」
ペラペラと物静かな声質でしゃべり出すが、急にガクトに話を止められた少女は首をかしげた後に視線を下に送ると自分の素肌があらわになっているのを見て、驚き、頬を少し赤くしながら両手で胸元を隠す。
ガクトも頬を赤くしながら、片手で両目を隠し処女の体を見ぬよう紳士のふるまいをして、客室の小さな棚からお客様用の部屋着を取り出して少女に渡した。
「ほら……」
「ご……ごめんなさい」
ガクトは早々と退出し、少女が着替えるのを待つ。その間にこの不抜けた顔を優しくはたき、喝を入れた。
少し経つと扉が開き少女が出てくる。見ると、顔だけ出して何か困っている様子だった。
「あの……この服だとこの尻尾が入らなくて……」
よく見ると下の方から、少し細めだが鱗が付いた尻尾が出てきているのが見えた。よく見ると耳も少し大きくて頭にちょっとした角も生えている。
「棚の一番下にガウンが入っていると思うからそれ着てろ」
「う、うん!」
少女はまた部屋の中へと戻り、着替えを済ませて戻ってきた。
長い尻尾がガウンからはみ出てしまっているがまあ、これはこれで良い。取りあえず、少女を食堂へと連れて行くと、今日の料理が並べられていた。今日の献立はとろとろに煮込んだ鹿肉の角煮のようなものと骨付き肉、そしてパンがたくさん入ったバスケットだった。
「おぉ~~…… お肉だ……! お肉お肉……♪♪」
並べられた料理を見て、少女の目は星のように輝き、尻尾を激しく犬のようにフリフリと振っている。
「あ! 来た来た! エルマさん来ました!」
三角巾とエプロン姿で出てきたケルトが、2人が食堂に来たことに気が付いてエルマを厨房から呼び出した。
「あらあら、元気そうで良かったわ♪ お腹すいてると思って元気が出るスパイスをラミーさんに作ってもらったからいっぱい食べてね♪」
「はわぁぁ~~…… い、いただきます!」
少女は挨拶とともに小柄な体とは裏腹に次々と口にお肉を運んでいく。手を伸ばして肉を口に運び、骨を置いてまた口に運ぶを繰り返す。気がつけば五分足らずで5人前ほどを完食してしまったのだ。
「ご馳走様でした」
「おいおい、なんて食べっぷりだ……」
「流石は竜人族の子ね~~、喜んでもらえて良かったわ♪」
「竜の子? わ! ほんとだ」
俺は女の子の耳の大きさや、頭の角、そして下から生えた細い鱗の付いた尻尾からなんとなく竜を連想する事ができた。
「ねぇ? あなたのお名前何かしら?」
エルマさんが少女の目線と同じになって話しかける。すると少女はニコッと笑って答えてくれる。
「私……アミュラ……アミュラ=ガーネット」
「アミュラちゃんって言うのね! 私はエルマで良いわ♪」
「私はケルト! よろしくねアミュラ!」
「俺はガクトだ、よろしく」
「はい! ……よろしく……です(ソワソワ)」
ここにいる人で挨拶を済ませた後にアミュラは食堂を落ち着きがない様子でキョロキョロと見渡し、窓を見つけると窓に近づいて外の様子を見に行く。少し外の様子を見てからこちらに顔を向ける。
「あの! ……この近くにお友達来てませんでしたか!?」
「お友達? ガクト知ってる?」
「いや、心当たりは特にな……ん?」
「アミュラ、お友達の名前は? どんな特徴?」
「名前は『グルグル』、特徴は立派な顔つきで……おっきい身体してる。途中まで一緒にいたのに、どこ行っちゃったんだろう」
「……あ」
ケルトの質問の返答によってガクトは理解してしまった。アミュラの言うお友達ってものに。
「ケルト、ちょっと来い」
ガクトはケルトの腕をつかむと厨房の部屋に強引に引っ張り入れる。俺はガクトの突然の行動に動揺していた。
「ちょ、何? どうしたの?」
「ケルト、落ち着いて聞け。今あの子が言った友達に心当たりがある」
「ほんと!? 誰々?」
「……ドラゴンだ」
「あー!! なるほど!! ……へ?」
状況を理解できていないケルトに対してガクトは詳しくケルトに説明した。あの時、ドラゴンしかその場にいなかったこと。そのドラゴンがアミュラの友達である可能性が高いことを丁寧に説明した。
「それが本当なら……彼女は……能力所有者?」
「いや、まだわからない。でも、もしそうなら使役系なのか、召喚系なのか……」
「注意しておかないといけないわね……たとえ、悪意がなくとも能力者の疑惑がある以上、気をつけておかないとね」
話が終わり、厨房から出てくるとエルマとアミュラが楽しそうに会話をしていた。
「アミュラちゃん、お家はどこなの?」
「お家……お家は友達のところ」
「あらあら~~お泊りさせてもらってるのね♪ でも、アミュラちゃんのお家は?」
その質問を聞いた途端、アミュラの明るい表情は曇っていき、顔をうつむいてしまった。
「アミュラちゃん?」
「……魔族に……村ごと焼かれた……」
その時、エルマはアミュラの着ていたガウンが強く握りしめられている様子に気づいたのだった。





