48 紅き竜と放浪少女
宿屋バニランテが新しく開業してから大体3日ほどたった。リベアムールからの仕事の呼び出しがくるまでケルトたちは宿屋の仕事を手伝っていた。宿屋の増築を聞いた常連の人から一度泊まってみたかったと遠くからやってきたものまで客層は様々だった。俺はガクトと一緒に受付を担当している。
「じゃあね~~また来るよ!!」
「はい!! ありがとうございました」
いつも仕事の合間に食事に来てくれている常連さんの狩人のおじさんに俺が笑顔でお辞儀して、お帰りを見送る。隣でも静かにガクトが姿勢よくお辞儀をする。
今日お帰りになるお客様はこれで終わりであるといわれていたため今回の仕事はこれで終わりだった。
「ふぅ~~終わったねぇ、何かガクトも様になってきたじゃん」
「まあな。お前も少しは接客うまくなってるぞ」
「そりゃあねぇ、私はラミーさんのとこでも仕事してたから経験の差ってやつ??」
「まぁ……あっちの世界ではバイトしたら負けだとか言ってたやつがここまで成長してるのは認めてやるよ」
「ううう……うるさいよぉ!!!」
「ふ……じゃあ俺は少し外の空気でも吸ってくる」
頬を膨らませてハリセンボンのようになっている顔の俺を無視して、ガクトはつけていたエプロンを受付台の上に置いて店の外へと出た。
外は少し薄暗くなっており、西の空には沈みかけた夕焼けの日が雲を赤く染めていた。平原を優しくなびく風がガクトの頬をかすめていく。
「今日も……生きたな……」
ガクトはポツリとそうつぶやくとゆっくりと歩き出す。少し散歩がてら外の様子でも見に行くことにした。何度も思うがここワンス地方の自然の豊かさは良いものがある。田舎とはちょっと違うちょっとしたワクワク感、ガクトはそんな冒険心あふれるところを見かけとは裏腹に抱いているのだった。気が付けば宿屋から300メートルほど離れたところまで来ていた。
「ふう……中々良い気分転換になった。さて、戻るか」
そう後ろを振り向こうとしたとき正面から何かの足音が聞こえてくる。ガクトがそちらのほうを向くとぼろきれの布を纏い、木の棒をついてよろよろと歩いてくる小柄な何かの姿を見つけた。放浪者か? そう思ったガクトは急いでぼろきれの塊へと向かっていく。
「人か? おい! 大丈夫か!!」
ガクトが近づいていくと、そのぼろきれから出てくるとは考えられない、細くてきれいな腕がガクトに延ばされる。
「たす……け……て……」
助けを悲願した声は何ともかわいらしいが、か細く弱った声をしていた。その伸ばした手はガクトに届くとそのまま手をつかみ、ガクトの体に倒れこんだ。
そのぼろ切れから顔を見せたのは10代前半の中学生程の明るい紫色の艶のあるショートヘアの褐色少女だった。
ガクトはその倒れこんだ少女に触れた瞬間、何かを感じた。それは、自分の中にあるエネルギーが震え上がる、何かパワーがあふれ出てくるようなそんな感覚が電流のように体中にはじけ飛んでくる。
「なんだ? この感覚?」
それと同時に空が少し暗くなり、バッサバッサと風を切る音が聞こえてきた。大きな雲でも日にかかったのだろうか? いやこれは……そう思ったガクトが上を見上げると、上空には大きな羽が生えた大型の爬虫類が上空からこちらを見ていた。
赤いうろこ、鋭い目、大きく長い赤い舌、図太いしっぽ……そう、目の前にいたのは紛れもなくドラゴンだった。ドラゴンが明るい西日を塞いで空で翼をはばたかせている。
「ドラゴン!? この地方にいるわけがないはずだ!?」
「ワギャオオオオオオオオオーーーー!!!!!」
<<発動:雄叫び>>
<<誘発発動:ショックブラスト>>
ドラゴンはガクトに向かって大きな雄叫びを上げる。その雄叫びは大地を揺るがし、立ち止まっていたがガクトが吹き飛ばされそうになるがしゃがみ込んで、それに耐える。しかし、雄叫びの威力によって衝撃波が生まれると音波の渦がガクトのいる方向へと迫ってきていた。
「まずい……」
ガクトはよけようとはせずに衝撃波の渦を背にして少女を庇うように抱いた。そしてそのままドラゴンの攻撃をもろに食らうと大きな砂煙が上がる。
<<発動:身体硬化>>
しかし、ガクトはとっさの判断でスキルを発動することができ、間一髪のところで攻撃を防ぐことに成功できた。黒く変色したその肌には一切ダメージを受けている様子はない。
もちろん、腕の中にいる少女も無事だった。
「くそ……このままじゃ動けん……」
ドラゴンはどんどん高度を下げて、陸に降り立つと背を向けているガクトにじりじりとにじり寄ってくる。ガクトもドラゴンのグルグルと喉を鳴らす声と大きくなる荒い鼻息から自分のもとへ近づいてきていることを悟った。
(どうするか……)
「グギャギャアアアアアアァァーーーー!!!!」
考えていたその時、後ろから大きな雷鳴音が鳴った後、ドラゴンの大きな悲鳴が聞こえた。後ろを向くと、ドラゴンの肩に黒く焦げた跡が見えた。しかし、その傷は自らの力で再生していき、元の赤いうろこに治ってしまった。
そして、ドラゴンは大きく翼を広げ、激しく羽ばたかせると空高く飛行して、北の方角へと飛んで行ってしまった。
「おお~~い、大丈夫か~~?」
「近くから何かヤバイ声聞こえてきたけど大丈夫か!?」
「ガクト大丈夫!?」
いいタイミングで増援が来てくれたみたいだ。さっきの雷鳴はアマの能力だろう。今日の増援はアマとユシリズとケルトだった。3人はガクトのもとへ駆け寄る。
「ありがとうアマ、助かった」
「ガクト、お前何てもの連れてきてんだよ……」
「俺が連れてきたんじゃないぞユシリズ。それとケルト、この子の事、エルマさんに伝えてくれないか?」
「え? この子って?」
ガクトは俺に少女をお姫様抱っこをして見せる。
「この子どうしたの?」
「拾った」
「拾った!?」
「大分疲労で弱っている。あの竜のことも気になるがとりあえずこの子を休ませてあげよう」
「分かった! 急いで行ってくる!!」
早々とした足取りで宿屋へと戻っていくケルトの後に続いてガクトは少女を抱えて、アマとユシリズとともに宿屋へと戻るのだった。





