50 濡れ衣
「焼かれたって……もしかしてだけど……アミュラちゃん、少し話をしてもらえないかしら? あなたのこと」
アミュラの表情が険しくなった理由を探るためにエルマは事情を聞くと、アミュラは重い口を開いて、事の経緯を説明し始めた。
「私はサーティ地方の最西にある<<竜人の里マダン>>ってとこに生まれた……」
「やっぱり……」
「エルマさん、マダンってなに?」
「ケルトちゃんたちは知らないわよね、竜人の里マダンは3か月前に巨大な竜が現れて、その竜に滅ぼされてしまったのよ。そこにいた竜人族は全滅……生き残り何て誰一人いないって言われてたはずなんだけど」
「え? 竜が同族を襲うんですか?」
「竜族は決して同族だからと言って仲間関係ではないの……竜人族は竜族の中で最も弱い分類だから、同族争いでは一番つらいものがあります。神様は別物ですけど」
エルマさんの言葉には矛盾があった。さっき彼女はマダンで生まれたと言ったが、アミュラは全滅したはずの里から生まれたといった。この空間にいたものは誰しもがこの矛盾を疑問に思っただろう。
「アミュラ、続けな」
ガクトはいつもよりも真剣な表情で話を聞いている。胸元からメモまで取りだしている。それに応えるようにアミュラも淡々と説明する。
「それで、皆さんは絶滅した話があるのにどうして私がいるのかってことが変ですよね。それには訳があるんです」
「あのドラゴンだな?」
「え? どうしてそれを?」
「お前を助けたときにお前のそばにいたのがドラゴンだったからだ。俺とお前とあいつしかあの場にいなかったし、この地方でドラゴンが見られないことから導き出した」
「凄いです。その通り、あれが私のお友達です。あの竜が黒い竜から私を助けてくれた」
その時、ガクトのメモを取る手が止まる。
「黒い竜?」
「はい、あの時、私は見ていました。私の里が燃えて、逃げ回っているときに黒竜が私の里を燃やしまわっている姿、周りの同族たちが死んでいって、黒竜が私に攻撃を仕掛けてきたときに目の前に金色の竜が現れました。その金色の竜は不思議なことに様々な色に変化して黒竜を追い払いました。その時の竜が私の友達のグルグルです」
「そうか……だけど、俺が見たときは赤かったぞ?」
「グルグルが言うには金色だと目立ってしょうがないって言って、普通の竜になりすましているらしいです。恥ずかしがり屋さんなんです」
「なるほどな……そして、里は?」
「竜の力も虚しく、里は壊滅、竜人の仲間達も殆ど、いや、私以外、皆殺されました」
殺された……その言葉から出る彼女の悲観な思いが伝わり、空気が少し重くなっていく。
「悲しい話をさせてすまなかった。でも、どうしてあんなにボロボロでここまで来た? 行く宛でもなかったのか?」
「本当の話はここからなんです。私がここに来た理由は1つ、このワンス地方の神様に会うためにやってきたんです。けど、私にはお金が無くて国には入れなかったからしょうがなく別のところに行こうとしたら、1週間何も食べていなかったので……」
「倒れてしまったと……しかし、どうしてリベアムールに?」
「私とグルグルの……誤解を解いてほしくて!」
言葉に熱が入り、手をバンッとテーブルに付く。テーブルが大きく揺れ、水が入った木のコップが倒れ、こぼれ出た水がテーブルを伝ってゆく。
エルマは拭くものを取ってくるために慌ただしく厨房の方に入っていく。しかし、俺とガクトだけは変に冷静を保てた。2人は引き続き話を伺う。
「ア、アミュラ、少し落ち着いて? その話、私たちに詳しく聞かせて? 何か力になれると思うから」
俺はアミュラが少し興奮状態に陥っていることを察し、優しく言葉を掛けた。アミュラはハッとしたような顔をして、強張った顔を和らげようとブルブルと顔を振った。
「ご…ごめんなさい、取り乱しました……ええっと誤解って言うのは里が壊滅してから2ヶ月後に起こりました。私はあれからマダンの近くにあったアナンタ村に引き取られました。しかし、グルグルは竜人たちの前には姿を出そうとはせずに、焼け跡になったマダンの里を住処にして生きているのを見て、かわいそうになった私はグルグルのためにご飯を用意して村の人には内緒で届けてあげていました。しかし、ある時、私の行動に不信感を抱いた村人に気付かれてしまって……グルグルの事をマダンを燃やした厄災だと誤解をしてしまったんです。私が、真実を全て話したのにみんなは誰も信じてくれなくて……逆に私は厄災を操っていた張本人扱いされました。私は村を追い出されて、グルグルと同じところに住む事を余儀無くされました」
俺は話を聞いてから自然と両手に拳を強く握っていた。ガクトは何も言わずに無心に サラサラとアミュラの言葉をメモに残して行く。
「それからは2人で苦しくても楽しい時間を送ってました。でも、ある時、村でお世話になってた家の男の子が夜に私の元にやってきてこう告げました。『お前とその竜は1週間後、神様によって処刑されてしまう! 逃げるなら早く逃げるんだ!』そう言い残して、去って行きました。私は最初その言葉を信じられなかったけどあの竜をグルグルを守ってあげたいと思い…… 思い切ってグルグルを連れ出してここまで逃げてきました」
「で、その誤解をここの神様の力で解きたかったと」
「そういうことです」
「……だそうだケルト、どうする?」
俺は話を聞いている途中からもう次の行動なんて決めていたようなものだった。こんなか弱い少女にこんな大事を起こせるわけがない。きっと別の誰かが仕組んだことに違いない。なのに、誰も彼女の話に耳を貸さない事に怒りが込み上がってくる。俺の答えはもちろん決まっていた。
「アミュラ、あなたの願い、神に代わって私たちが受け持ってもいいかしら?」
アミュラは俺の口から出る言葉とは予想していない様子で酷く驚いた。
「ですが……こんな大事にあなたたちを巻き込むのは……」
「神に迷惑かけるのは良くて、私たちに迷惑はかけられないのかな?」
アミュラは唸りながら頭を少し抱えて悩んでいる素振りを見せる。アミュラが次に顔を見せたのはそこから数分経ってからだった。
「分かりました……出会ってすぐにこんなことになってしまうなんて本当にごめんなさい」
「なんか、こういうのになれちゃったから大丈夫! さて、アミュラの体調が戻り次第行動を開始するからそのつもりで!!」
「は、はい! ありがとうございます」
私の言葉にアミュラは笑顔で俺とガクトに頭を下げた。後ろの尻尾が左右に振られており、とても喜んでいる様子だ。
「あ、あと、済まない。お前の友達……追い払ってしまったんだ……」
今度は後ろからガクトがアミュラに頭を下げる。
「いえいえ、事情を知らないんじゃしょうが無いです。あ……もしかしたら、前のところに戻っちゃってるかも知れない……」
「一足先に戻ってるってことか……ケルト、明日からでも出よう」
「分かった。アミュラもそれでいい?」
「はい! お願いします」
俺たちがあの竜を追い払い、元の場所に帰ったのならば、一刻も早く竜のもとへ行かなくては……
俺たちの次の仕事は竜を追うことになったのだ。





