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信用


 昨日の体育で、九条今宵は俺以外の奴に危害を与えない事がわかった。

正確には水沢の顔面にボールを当ててたから危害を与えてはいるが、わざと攻撃をしていないという事だ。

 俺に対しては暴力的で横暴のくせに、その他の人間には風当たりが弱いらしい。

その理由ははっきりとわからないが、猫を被って良く見られようとしているのか、不特定多数の人が居る場所では強気になれないのどちらかと考えている。

 何にせよ俺への風当たりが強いので迷惑この上ないが、あの様子ならクラスに溶け込める日も近そうだ。


「あれっ、何か入ってんな」


 真面目に九条今宵の考察をしていると、靴箱から一枚の手紙が落ちてきた。

こ、これはもしかして! 青春の甘酸っぱい想いを伝えると噂の、俺の中では都市伝説に認定している、……ラ、ラ、ラブレターでは!? マジかああああああ!!!

 幸運は空から落ちてくると聞いたことがある気がするが、本当の幸せは靴箱から落ちてくるのを今知った。 彼女居ない歴=年齢の俺には奇跡と言えるだろう。

 メールなりSNSなりで伝えればいいのに、わざわざ手紙を送ると言う事は、俺と関わりが薄い人間だと予想出来る。


「……いや、俺の連絡先なんて知ってるわけないか」


 いつもの軽い自虐をしながら、周囲に誰も居ないのを確認する。

よし、誰も居ない! 手紙の封を急ぎながらも丁寧に開き、中に入っているブツを取り出す。

……ごくり。生唾を飲み込む。心拍数が上昇しているのがわかる。緊張が極限まで達した自分の胸を押さえ、深呼吸で落ち着かせる。そして手紙の中身を確認した。


『クジョウコヨイニカカワルナ』


 ぐちゃぐちゃの汚い字で、そう書かれていた。


「…………は?」


 告白じゃなくて……脅迫?


「はああああああああああああああああ!?」


 ラブレターだと思ったら脅迫状とかふざけんな!! どこのどいつの悪戯だ! 俺のピュアな感情を返せ! くそっ!!

 天国から地獄へ真っ逆さまだ。垂直式パイルドライバーで落とされた様な気分だ。

九条今宵に関わるなという内容自体はまぁいい。俺だってそうしたい。素直に脅迫に従いたいさ。俺が推理小説の被害者なら物語が終了しているし、探偵の出番は無い。

 誰がどういう思惑で俺に脅迫状を出したかはわからないけど、そんな事はどうだっていい!

犯人はいたいけな俺の純情な気持ちを弄びやがった! 許せねぇ!!


「絶対に見つけてやるからな! 覚悟しろよ!!」


 宙に向かって決意を叫ぶ。

周りに人が居なくて良かった。白い目で見られるから。

 とはいってもだ。情報は皆無に等しい。

筆跡をわざと汚くしてるあたり、警戒心が強い犯人な事は確かだ。脅迫状以外に手がかりはない。

 俺に心当たりは無いから九条今宵が原因なのは間違いないけど、本人に聞くのもなぁ……。話が無駄に大きくなると面倒くさい。


「でも他に手がかりもないしな。聞くしかねぇか……」


 勿論、脅迫状をラブレターと勘違いしてはしゃいでいた事は伝えない。

すげぇバカにされそうな気がするから。大口開けて爆笑する姿が目に浮かぶ。

 九条今宵とは放課後に毎日会っているのでその時にでも聞けばいいけど、一刻も早く犯人を見つけたいし、昼休みにでも聞いてみるかな。





 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「こんなのが届いてたんだけど、心当たりはあるか?」


 昼休み。屋上で一人焼きそばパンを頬張る九条今宵に脅迫状を見せる。

昨日の体育の時はクラスの女子と仲良くやっていた様に見えたが、たいした進展もなかったみたいだ。結局一人で飯食ってるしな。


「家来を脅迫するなんて許せないわ!」


 九条今宵は激昂して立ち上がった。


「家来じゃねぇよ」


 九条今宵の間違いを訂正する。忠誠を誓った覚えはない。

むしろ協力してやってんだから、立場的にはこっちが上と言える。


「で、どうだ? 些細な事でもいいから教えてくれ」

「知らないわよ。でもそうね……敢えて言うなら」


 九条今宵は口に含んだ焼きそばパンを飲み込み、何かを言おうとしている。

お、何か手がかりになりそうな情報でも持ってんのか?


「何だよ」


 呑気に焼きそばパンを食べているので、催促する。


「嫉妬じゃないかしら」


 嫉妬? あの文章をどう読めばそうなるんだ?

九条今宵に関わるなとしか書いてなかったぞ。


「私を好きな男子からすると、あんたは私にまとわりつくゴキブリだから、邪魔なのよ」

「……他には?」


 こいつの妄想に付き合うだけ時間の無駄だ。適当に流しておく。

俺をゴキブリ扱いはムカつくけど置いておいて、お前を好きな奴は確実に居ない。顔を隠さなければ沢山居るだろうがな。


「それにしても不思議ね」

「何がだよ」


 九条今宵は口に手を当て、考えている。

さらに焼きそばパンを一口、パクっと口に入れた。


「もぐもぐ、字を汚く書く必要があるのかしら。あんたも私も友達が少ないのに、人の字体なんか見る機会ないでしょ? それにどこかで見られてたって事だけど、空き部屋以外であんたと話したのなんかごくわずかよね。かなり注意深く見てなきゃ気づかないでしょ。ごくん」


 食うか喋るかどっちかにしろ。

でも九条今宵の言うことも一理ある。それは確かにそうだ。俺と九条今宵はお互いに距離を取っているから、他の場所では極力話していない。

 今こうして屋上で話しているのも用事があるからであって、そうでなければ昼食の時間に会うことはまずない。


「という事は身近な奴の仕業か」


 友達の居ない俺の身近な奴といえば大分限られてくる。

クラスメイト以外は俺の存在すら知らないだろうし、クラスメイトも置物ぐらいにしか思っていないだろう。


「誰かに私の事を聞かれたりとかしてないの?」


 九条今宵は紙パックの野菜ジュースをストローで飲み、そう言った。

……九条今宵の事を聞いてくる奴か。といっても腫れ物扱いだから聞こうとする奴なんて……


「あ、そういえば、丸山にはお前の事をよく聞かれるな」


 九条今宵と二人で掃除をした時も詳細を聞いてきたし、事あるごとに九条今宵の事を聞いてくる気がする。ついでに身近な奴という条件にもぴったり当てはまる。


「決まりね」

「いやいや! 流石にないだろ!」


 丸山は野次馬体質で悪ふざけは好きだけど、冗談にならない事をするような奴ではない。

庇うわけではないが、丸山が犯人の線はかなり薄いだろう。もしそうなら軽蔑してしまう。


「そう思うなら聞いてきたら?」


 他に犯人候補が思いつかないのも事実だ。

疑いを晴らしてやるためにも、とりあえず確認しとくのはいいかもしれないな。


「お前は?」

「バカね。脅迫状の差出人が私に恋心を抱いていて、あんたが邪魔だから切り離そうとしたかもしれないでしょ。逆上する可能性があるから私は行かない方が良いわ」


 お前が提案したのに来ないんだな……。安心しろ、丸山がお前に惚れてるのは無い。

丸山なら幾分か話を聞きやすいし、九条今宵が居ない方が変に話が拗れる心配が無いから楽だ。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「悪い! お前の事を思ってだな!」


 丸山を問い詰めると、あっさりと白状した。

マジかよ、本当に丸山が犯人なのか。クズはクズでもそういう奴ではないと思ってたからがっかりだ。


「にしたって脅迫状まで用意する事ないだろ」


 丸山はポカンとアホな口を開けっぱなしにしている。


「脅迫状? 何だよそれ」

「はぁ?」


 何言ってんだ、こいつ。謝ったって事は丸山が犯人なんだろ?


「しらばっくれても無駄だぞ」

「いや、確かにお前と九条今宵が近寄らない様に誘導はしてたけど、脅迫状なんて知らねぇぞ」


 丸山は嘘をついてる様には見えない。

いや待て待て、どういう事だ? 脅迫状の犯人は他に居る事になるのか。


「っと、部活に遅れたら先輩達に怒られるからもう行くぞ。またなっ」

「あ、あぁ」

 

 丸山にバタバタと足音を鳴らし、急いで走っていった。

丸山の容疑は晴れたわけだが、真犯人を探す事になったので、良かったのか悪かったのか何とも言えない。いっその事、丸山が犯人なら探す手間が無くて良かったのにと思う下衆な自分も居る。

 

「先輩」


 詩乃がちょこんと肩をつついてきた。

いつの間にそこに居たんだ……? 全く気づかなかった。


「話があるのでついてきてもらえませんか?」

「いや、今は忙しいからごめん」


 詩乃には悪いが、また犯人を探さなければいけない。

唯一の候補が違っていたので、犯人探しは振り出しに戻ってしまった。


「脅迫の事ですよね?」

「な!?」


 脅迫の事は九条今宵と、さっき話した丸山以外には言っていない。

九条今宵が話したとは思えないが、何故詩乃が知っているんだ。


「ついてきてもらえますか?」


 詩乃は眠そうなものの、人懐っこい笑顔で見ている。

俺が脅迫されているのを知っている事といい、この出てくるタイミングといい、脅迫状と何か関係しているのは確かだ。

 犯人が俺の下駄箱に手紙を入れるのを見ていたのか、最悪の場合は脅迫状の差出人が詩乃の可能性もありえる。前者だと思いたいが、俺自身詩乃の事をよく知っていないから何も言えない。たまたま廊下で知り合って、協力してもらっただけだから。


「……わかった」


 なら取るべき行動は一つしかない。

詩乃についていって、思う存分に話を聞く事だ。


「では行きましょっ、先輩」


 そう言いながら詩乃は、無邪気に笑っている。

この笑顔を見てると、詩乃が悪い奴にはどうしても見えない。俺に話があるのだって、有力な情報を仕入れてくれたに決まっている。そうだ、そうに違いない。

 ぼっちの俺に出来た初めての後輩を信じないで、何が先輩だ! 俺は可愛い後輩を信じる!

 

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