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後輩

 

 自分にとって一番大切な物を聞かれた時に臆面もなく金とか恋愛と答える奴が居るが、そんなことはない。一番大切な物は時間だと思う。何をするにも時間は必要だし、誰か忘れたが偉い人も時は金なりと言っている。

 そしてその貴重な時間を九条今宵の友達作り(笑)のせいで無駄にしているという事だ。かれこれ30分以上は校舎を歩いている。

 何が悲しくて放課後に一人で学校をうろつかねばいけないのか。人生の中で最も無駄な時間と言っても過言ではないだろう。


「文句も言い飽きたし、そろそろ休憩するか……」

 

 このまま廊下を進んで、視聴覚室を右に曲がって階段を上がると屋上に着く。屋上までの距離も近いし、さっさと休もう。

 意外に放課後の屋上は人が居ない。大半の奴はすぐ帰るから屋上には来ないし、学校に残っている奴も大体が部活か委員会のどっちかだ。だから俺みたいなぼっちの休憩所としてはかなり適している。逆に昼休みの屋上は人がちょくちょく居るから近づかないけど。


「きゃっ」


 曲がり角を進んだ所で、軽い何かに衝突する。


「ご、ごめん」


 目の前で転んでいる女子に謝る。

俺は人にぶつかる能力でも持っているのだろうか。よく人にぶつかってる気がする。前世はぬりかべとして人を転ばせていたのかもしれない。


「いえ、大丈夫です」


 前髪が軽く目にかかる黒髪のショートヘアで、少し眠そうな女の子は落ちついた声で言うと、スカートについた埃をぱんぱんと叩き、ぺこりとお辞儀した。何気ない仕草だが、そのひとつひとつの動作におしとやかさがある。九条今宵とは大違いだ。

 うちの学校では一年生は赤、二年生は青、三年生は緑のネクタイを着けるのが決まりなのだが、彼女は赤いネクタイをつけているので、一年生だろう。


「失礼しました。では」


 眠そうな女の子は再びお辞儀し、平坦な足取りで歩いていく。

礼儀正しい子だな……。待てよ、年下相手なら、重度のコミュ症のあいつでも気楽に話せるんじゃないか? 見るからにおとなしそうだったし、この子となら会話出来るだろ。


「あ、ちょっと待って!」


 呼び止めようと後ろを見ると、すでに姿はなかった。

足音を立てずに一瞬で消えているとは、まるで幽霊みたいだ。いや、まさかね。

 幽霊とかオカルト系の話は信じていないが、少し気味が悪い。百パーセントあり得ないが、疑いを払拭するためにも、歩いていった方向に行ってみるか。


「あ」


 探しだしてすぐに、図書室へ入ろうとしている後ろ姿を発見した。やっぱり考えすぎだったか。よかったよかった。

 図書室へ入った眠そうな女の子と話すために、俺も図書室に入る。


「あれ? 居ない……」


 誰も居ない。確かにさっき、入ってたよな?

本棚がずらりと並んでいるだけで、本を読んでる奴も、受付に図書委員も居ない。

 本当に幽霊だった……? いやいや、んなわけないだろ!

何故か身体全体に気持ち悪い冷たさを感じてきた。早くこの部屋から出よう。


「何か用ですか?」

「うわぁ!?」


 死角から声をかけられ、尻餅をついて倒れてしまう。

情けなく地面に転んでいる俺を、幽霊は覗きこむ様に見ている。


「悪霊退散っ! 成仏してください!! よろしくお願いします!!」


 気がついたら頭を下げ手を合わせ、必死にお祈りしていた。


「なんですかそれ」


 よく見ると幽霊ではなく、眠そうな女の子が不思議そうに見ていた。

 

「え? 君が幽霊だったの?」

「違います」

「あ、そうなんだ。ふーん……いや、べ、別に知ってたし! ギャグだし!」


 全くの嘘だけど。高二にもなって幽霊にビビっていたと言うのは恥ずかしいので、精一杯見栄をはってしまう。自分の事ながら情けなさすぎる。


「はぁ、そうですか……」


 眠そうな女の子は興味が無さそうに、ダンボールに入った本を本棚に並べている。

ふと彼女が手に持っている本を見てみると、表紙に『タンスの角に小指をぶつけた際の対処法』と書かれていた。そんな需要が限定的な本を学校の図書室に置くな。しかもやたら分厚いし。ちょっとした国語辞典くらいはあるんじゃないだろうか。……っと、本題を忘れていた。


「頼みがあるんだ。聞いてくれないか?」

「はい? 何でしょうか?」


 眠そうな女の子はこっちを見ずに、手を休めることなく本を並べていく。

 

「ちょっとだけでいいから付き合ってくれないか? 嫌なら断っても大丈夫。君に危害は加えない。ついてきてくれ」


 精一杯、無害だと主張する。言い回しが誘拐犯みたいな気がしないでもないが、今は気にしている暇は無い。


「それは……告白でしょうか? ごめんなさい、無理です」


 告白してないのにフラれた。しかも律儀に本を並べていた手を止め、丁寧なお辞儀つきだった。それはそれで傷つく。俺の繊細なガラスの心が金属バットで粉砕された。


「違う違う違う! そうじゃなくて!! 話をしてほしい奴が居るんだ!」


 何故かフラれて泣きたいが、その気持ちを押さえ、必死に誤解を解く。

すぐにでも訂正しなければ、俺のメンタルが破壊されてしまう。


「話? 巧みな話術で高額商品を売りつけられるのでしょうか? 怖いです」

「いやいや、悪質なセールスマンじゃないから。つーか、その発想が怖いわ!」

「冗談です。察してください」


 眠そうな女の子は顔色一つ変えずに、抑揚の無い声でそう言った。


「なら少しは笑ってくれ……」


 真顔で言われても、冗談かどうかの判断に困る。

その点で言えば九条今宵も冗談か本気かわかりづらいが、この子の場合はロボットが漫才してるのを見せられている感じだ。感情を読み取るのも難しい。


「わかりました。笑顔を練習しておきます」

「うん、そうしてくれると助かる。それで話の続きなんだけど……」

「誰かと話してほしいと言ってましたね。ごめんなさい」


 眠そうな女の子はペコリと頭を下げた。

やはり断られたか、そりゃいきなりすぎて無理だろうなとは思ったが、少し期待をしていたので残念。


「本を整理しなければいけなくて、帰宅時刻ギリギリだと思うので」

「あ、なら俺も手伝うからさ。早く終わったら考えてくれないか?」


 収穫も無しに九条今宵の待つ部屋に戻っても、多分無能と罵られるか、新たな面倒事を押しつけられるだけだ。手伝う方が精神衛生上良い。というか戻りたくない。


「それなら大丈夫ですけど、少し悪い気が……」

「いや暇だから、別に気にしなくていい。身体動かしがてらだから」

「そうですか。ありがとうございます」

「あっ、そういえば名前聞いてなかった。俺は白井優紀」

楠木詩乃(くすのきしの)です。詩乃って呼んでください。変人さんの事は何と呼べばいいですか?」


 変人呼びかよ。よく初対面の人を変人さんと呼べるな。つーか変人じゃねぇ。


「とりあえず変人さんとは呼ぶな。名乗ってんだから適当に呼んでくれ。常識的な呼び方なら何でもいいぞ」

「了解です。では変態さんで」


 話が通じてない。変態さんが常識的な呼び方だと思ってんのか?


「変人も変態もたいして変わらねえだろ! 普通に呼んでくれ!」

「じゃあ先輩で」

「!? お、おう」


 急に真面目になられると反応に困る。それまでふざけていたから尚更だ。

ぼっちで帰宅部の俺は下級生と関わることがほぼ無いので初めて先輩と呼ばれたが、気分的には何とも言えない気持ち良さがある。


「なぁ、もう一回呼んでくれないか?」

「は?」

「いいから」

「わかりました。先輩」

「くぅ~」

「何ですか気持ち悪い」


 詩乃は冷めた目でこっちを見ている。そんな目で見られても関係ねえ!

後輩良いなぁ。後輩属性に目覚めそうだ。あ、さっきフラれたんだった。はあ……。


「この本をあっちの本棚に並べてください。わからなければ聞いてください」


 詩乃は山積みのダンボールを俺に託し、パソコンで何やら作業をし始めた。そういえばそうだった。完全に手伝う事を忘れていた。


「了解。すぐにやるよ」


 量は大体ダンボール15個ぐらいか。学校の図書室に置くにはけっこうな量だな。校長か誰かが読書好きなのか? そのわりには誰も読まなそうな本ばかりだけどと、『絶対に負けるジャンケン必敗法』を棚に入れながら考える。


「あ、これ」


 ふと手に取った本が目には入る。というのも、その本のタイトルが『魔女に巻き込まれた少年』だったからだ。自称魔女の九条今宵に振り回される自分と重なってしまい、読んでもないのに少年に同情してしまう。……強く生きろ、少年!


「『魔女に巻き込まれた少年』ですね。興味があるなら貸し出し可能ですけど……」

「あ、じゃあ頼むわ」


 普段はもっぱら漫画ばかりで活字だけの本は読まないが、何か運命的なものを感じたので、借りることにする。


「魔女に興味があるんですか?」


 詩乃は眠そうな(まぶた)を擦りながらを聞いてきた。


「いやまぁ、ちょっとだけな」

「そうですか……」


 詩乃は深く頷きながら、呟く。

真面目な様子だし、詩乃も魔女に興味があるんだろうか。まぁいいや。


「なぁ、他に図書委員は来ないのか?」

「はい。私以外には誰も来ないです」


 詩乃はパソコンを操作しながら、素っ気なく返事をした。

一人に任せるには作業量が多すぎるだろう。用事があるなら日にちをずらして、後日やればいいのになぁと思う。


「一人で放課後の図書室に居るのは好きなので、全然いいんですけどね」


 朝一番乗りで誰も居ない教室につくと、なんとなく爽快な気分なのと同じか。

他の図書委員が作業を詩乃に押しつけている様で少し気になるが、詩乃が嫌がってなさそうなので今は言わないでおこう。


「そうか、手伝ってほしければいつでも言ってくれ。暇なら手伝うから」


 九条今宵に意味のわからない理由で呼び出されるよりは何倍も有意義だ。


「いいんですか? では、その時はよろしくお願いしますね」

「おう」


 気になったことも聞いたし、真面目に本を並べるか。

タイトルを見ると気になるので、見ないように本を取っては並べるのを繰り返す。

 それにしても不思議な感覚だ。いつもなら帰って風呂にでも入って、テレビをかけながらダラダラと寝ているくらいなのに、後輩と図書室で作業しているのだから、久々に人とまともに関わった気がする。


 間接的に九条今宵が理由で現在の状況になっているし、良くも悪くも九条今宵が俺の生活の歯車を狂わせているのは間違いないだろう。そう考えると、たまにはこういう日があってもいいかもしれない。


 ……この後に九条今宵と会わないならだけど。


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