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黒歴史は現在進行形


 何かで見た事があるが、正式な魔女の意味は昔のヨーロッパで言われていた俗信で、悪魔と契約して魔力や異能力を得た人間の事らしい。魔女はその力を行使して害を与える存在と言われている。

 現代ではゲームの登場キャラとか、漫画の登場キャラ等の創作物で見かける事が多い。敵役で出てきたり仲間で登場したりと、創作の中では幅広く親しまれているキャラクターと言えるだろう。


「同じ事を何度も言わせないでちょうだい。私は本物の魔女よ」


 だからこそ、正気とは思えない発言をしてる九条今宵を、俺は冷めた目で見ていた。


「何言ってんだよ。あくまで創作や妄想の中で存在してるだけで、現実には魔女なんか居ないぞ。じゃああれか? 魔法とか使えたりするってのか?」


 今ここで手から炎を出したり、あるいはホウキに跨がって空を飛んだりしたら、認めてやってもいいが、俺が漫画やアニメである程度耐性がついてるとはいえ、証拠も無いのに魔女と言われて信用することは出来ない。

 

「無理よ。人間界に来る時に魔力は封印してきたから」


 やっぱりな。そんな事だろうと思った。

俺も中学生ぐらいにそういう妄想した事はあるさ。だから気持ちはわからなくもない。

 意味も無く左目を押さえて苦しいフリをしたり、聖剣と呼んだ傘を振り回したり、更には自分の設定を書いた闇のノートを作ったり、今思い出すと、無性に恥ずかしくなる。ちなみに闇のノートは、家の押し入れの奥深くに隠してある。黒歴史だ。


「正式に魔女になるためには一定期間、人間界で留学しなきゃいけないのよ。どうかしてるわ」

「どうかしてるのはお前だ!」


 九条今宵は現実とフィクションの区別がつかない妄想野郎だ。見てると過去の自分を思い出して辛いからやめてほしい。無駄に設定をつけても、後で冷静になった時に後悔するだけだ。俺がそうだからな。


「いい加減に信じなさいよ、事実なんだから」


 九条今宵は、聞き分けがない子供を諭すように言った。

いやいや、俺は正常だから。お前が頭のおかしい発言するから話が進まないだけだ。しかし、このままでは埒があかないな。


「……わかったよ、お前が魔女でいいよ」


 仕方なく妥協してやる事にした。早く帰りたいし。

九条今宵が妄想の夢から覚めた時に、俺の優しさに感動して涙を流すことだろう。


「あー、そうね。じゃあ本題。私が人気者になるために、協力しなさい!!」

「人気者?」

「そう、人気者」


 意外だな。九条今宵が周りにちやほやされたいというタイプには見えなかったが……。

それよりは、一人暗闇で黒魔術の練習をしている方が似合っている。

 まぁ、どちらにせよ俺の答えは変わらない。


「断る」

「どうしてよ!」

「どうしてもこうしてもあるか! 学校における自分の立ち位置を考えたらわかるだろ!」


 九条今宵はスクールカーストのどん底より更に下。低すぎて地中深くに埋まっている。

好感度最低値で全校生徒から避けられている奴が、人気者になるのは不可能だろう。

 そんな願いを叶えれる方法があるとすれば、某猫型ロボットの道具くらいだ。


「私の立ち位置? ……そうね、無口でミステリアスだけど、知的なオーラが溢れていて一目置かれる高嶺の花的存在かしら」


 自惚れが激しすぎる。過大評価にも程があるだろ。

花は花でも高嶺の花じゃなくて、異臭を放つラフレシアの方が近いぞ。人から避けられるあたりが似てる。


「そうか、じゃあ頑張れ。俺は帰る」

「まだ話は終わってないわ! 待ちなさい!」

「がはっ」


 またしても襟の後ろを掴まれ、勢いよく首が絞まる。


「だから首を絞めんじゃねえよ! 死ぬわっ!」


 一瞬三途の川が見えた気がする。

白装束のおばさんが手招きしてたぞ。危ない危ない。


「まだ話が終わってないのに、勝手に帰ろうとしたからよ」

「人気にするって言ってもどうすりゃいいんだよ。無理なもんは無理だから諦めろ」

「無理を可能にするのがあんたの仕事よ! 終わるまで帰らせないわ!」


 んな無茶な。どこのブラック企業だよ。

それじゃ永遠に帰れないじゃないか。はぁ……やれやれ、仕方ない。


「じゃあ俺の必殺技を教えてやる」


 帰るためにはこれしかない。


「必殺技なんてあるの!? それなら初めから言いなさいよ! 大陸を真っ二つにするビーム砲とか、一瞬で世界を焼き尽くすとか? えーでもでも、自由自在に時を操るのも捨てがたいわね」


 その間、僅か十秒。好きな事になると見境が無くなるのか、かなり早口だ。

九条今宵は新しいゲームを買ってもらった子供の様に、目をキラキラと輝かせている。連想していたのが物騒なものばかりだったのが気になるが、俺が教えるのはそういう危険なものではない。


「愛想笑いだ!」

「愛想笑い? 全然カッコよくない」


 九条今宵はわかりやすくテンションが下がっている。

カッコよくはないが、これこそが人気者になるための必殺技と言えるはずだ。

 笑顔というのは、人気者になるには必須スキルだ。まずは印象を良くする事から始めなければいけない。それには笑顔が一番手っ取り早い。


「ほら、俺の後に続け」


 俺は出来る限り自然な愛想笑いをした。


「顔がひきつってるし……。一人でそんな事して悲しくならない?」


 その言葉は中二病のお前にそのまま打ち返したい。

メジャーリーガーばりのフルスイングでな。お前は敗戦投手だ、ざまあみろ。

 それはさておき、そこまで言うお前はどんなもんなんだと、笑顔が見てみたくなる。


「いいから、早く笑えよ」

「う、うん」


 なんか急にしおらしくなったな。


「俺みたいに完璧に爽やかな笑顔を作るのは難しいだろうけど、少し笑うだけで良いぞ」

「あれが爽やかな笑顔? 鏡を百回確認してからもう一度言ってみなさいよ。哀れすぎて拍手してあげるから」


 口が悪いのは変わらなかった。

簡単に俺の心を傷つけるのはやめてくれ。


「じゃあ行くわよ! 見てなさい!」

「あ……」


 九条今宵は照れながらも、軽く微笑んだ。

作り笑顔とわかっていても、綺麗だと思ってしまった。ガラス細工の様に繊細な笑顔だった。

 認めたくはないけど、物凄く可愛い。


「どう?」


 九条今宵は心配そうにこっちを見ている。

やめろ! 上目使いで見るな! 彼女居ない歴=年齢の俺には刺激が強すぎる。


「悪くはない」


 良かったと言うのは恥ずかしいので、そう言い返す。


「ふん、やっぱり簡単じゃない! 元が美少女だからそりゃ笑顔の一つや二つは余裕よね」


 いつもの九条今宵に戻っていた。うーん、やはり性格が残念だ。


「で、これが人気者になるのと、どう関係するのよ」

「仏頂面な奴と笑顔の奴が居たら後者の印象が良いだろ。同じ行動をしても笑顔ってだけで、良く思われるものさ。コミュ障のお前にはわからんだろうけどな」

「ふーん。ならあんたは友達が沢山居るんでしょうね?」


 何も返す言葉がなかった。心臓を抉られた様な気持ちだ。

そりゃ愛想笑いだけで人気者になれるなら、俺だって人気者になってるし、好感度の低いアイドルは存在していないだろう。


「まぁいいわ。力を貸しなさいよ」

「おいおい、首を縦に振ると思うか?」

「うん」

「んなわけねぇだろ!」


 根拠の無い自信満々だった。

その自信だけは凄いと思う。見習う気はないが。


「お前って学校では顔を隠しているだろ?」

「そうね」

「だから魔女って言われてんだよ!」

「だって、私が可愛すぎてクラスから浮いたら困るでしょ。実際に魔女だし」

「逆に浮いてんだよ!! 不審者的な意味で! つーか、お前嫌な女だな」


 たしかに顔は可愛い。性格の悪さゆえに認めたくはないが、内面を隠していれば美少女と呼ばれる部類だ。だが、知れば知るほど残念なのは何故だろう。天は二物を与えずと言うが、容姿に比べて性格のパロメーターが極端に低すぎる。


「嘘っ……」


 九条今宵は膝から崩れ落ちていた。ガーンという効果音が似合いそうだ。

あの不審者スタイルに違和感がないと思ってたのは色々と心配だが、様子から察するに本気だったみたいだ。この隙に帰ろうかな?


「ならっ、尚更あんたに手伝ってもらうしかないわね」


 九条今宵はすくっと立ち上がり言った。やけに立ち直りの早い性格だな。

 

「私がクラスで人気者になって誤解を解けば万事解決じゃない! だから手伝いなさい! ただの人間が魔女に選ばれるなんて光栄な事よ」


 なんつーご都合主義。魔女云々は頭がおかしいからほっとくとして、学校中から避けられてるお前が簡単に人気になれるわけがないだろ。


「自称魔女に付き合うほど暇じゃない」

「暇なんていくらでもあるでしょ。無くても作ればいいだけよ」

「俺に頼るな。勝手にやってくれ」

「器が小さい男ね」


 何故か上から目線だった。頼んでいる側がその態度はおかしい。


「手伝うと言うまで帰さないわよ」


 ドアの前に腕を組み、立ちはだかっている。

通るの自体は容易だろうが、色々と面倒くさそうだ。


「普通に帰らせろよ」

「…………」

「そこで無言になるんじゃねえ!!」

「…………」


 物言わぬ門番のような佇まいだ。無駄な貫禄があり、歴戦の戦士達を選別してきたかのような気迫に溢れている。


「わかったよ! 手伝えばいいんだろ! 手伝えば!」

「交渉成立ね。じゃあ……」


 九条今宵は不敵な笑みを浮かべた。

早速何かやらされるのかよ。手伝うとは言ったけどかなり面倒くさい。でも言ってしまったもんは仕方ないか……何でも来やがれ!


「帰ってくれる?」

「え? あ、あぁ」


 思わぬ肩透かしを喰らった。

用事が済んだからすぐに帰れということか。なんたる自己中な奴。そりゃ友達の一人や二人も出来ないわけだ。……俺も友達は居ないけど。

 床に置いていたバックを九条今宵に強引に渡され、玄関まで案内される。帰れと催促しているらしい。


「お、おい、他には用事はないのかよ?」

「うん。また明日」


 バタンと、俺の体が玄関から出たあたりで、ドアを強く閉められる。その後、ガチャリと鍵をかける音が聞こえた。追い出されたという表現が正しいだろう。

 一つ言えるのは、傍観者気取りの俺の平穏な日常は、崩れさったという事である。


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