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コミュ障とコミュ障は相容れない


 ーーその後、教室に一人残された俺は、九条今宵がサボった分まで掃除を終わらせ、玄関まで歩いていた。


「聞いていた話と随分違ったな……」


 下駄箱から靴を取り、呟く。

事態を飲み込むのは時間がかかったが、ある程度頭は冷えた。心の整理をするという意味で、掃除をするのは案外良かったのかもしれない。

 

 およそ二ヶ月以上、九条今宵は自分の姿を隠し続けている。どう考えても異常だ。何か理由があるはずなのだが、その理由が想像もつかない。あれだけ容姿が整っていれば、普通は見せびらかしたいと思うがなぁ……。

 人によって趣味嗜好の差はあるとはいえ、大抵の人間は九条今宵を可愛いと答えるはずだ。だからこそ、あそこまで徹底して変装する意味がわからない。


「でもなぁ、そもそも何も知らねえんだよな……」


 九条今宵は今日初めて話しただけの関係だ。それ以上でもそれ以下でもない。無干渉を貫いてきた俺が、今更プライベートな事情に踏み込む資格は無いだろう。


「すげぇ気になるけど、考えても仕方ねえか。忘れよう」


 変に考えすぎるのは悪い癖だ。大抵の事を頭でっかちに考えてしまう。

九条今宵が顔を隠す理由を知りたい誘惑をなんとか打ち消し、帰り道の途中にある坂を下っていく。

 外灯は道の途中途中にポツリと何個かあるだけなので、中々に視界が薄暗い。

他に下校している生徒はおらず、人が少ない通り道はどこか冷たい雰囲気が漂っている。


「遅い!!」


 通学路にある短い坂を下り終わった辺りで、聞き覚えのある声が聞こえた。

近くの公園からだろうか。声の聞こえた方向を軽く見ると、九条今宵が顔をマスクで完全に隠した状態で、ブランコに座っていた。

 なんとなく嫌な予感がするので、聞かなかったフリをして帰ろう。

目を合わせないように歩く速度を上げ、わざとらしく口笛を吹きながら遠ざかるように歩く。


「何で無視するのよ!」


 いきなり九条今宵に後ろ襟を掴まれ、反動で首が締まる。


「ぐはっ!? ……殺す気かっ!?」


 喉仏の辺りを押さえながら、文句を言う。

当然だ。意味もわからず生死の境を見せられたのだから。しかもクラスメイトに。


「まぁ、気絶くらいまでなら」

「何でだよ!! 良いわけないだろ!!」


 九条今宵は非常に好戦的な思考をしていた。


「呼び止めればいいだけだろ! あっさり気絶させようとするな!」

「そんなことより、ここじゃ誰かに見られるかわからないから、こっちに来て」


 九条今宵はろくに謝罪もせずに、人の制服の袖を強引に引っ張ってくる。

文句を言いたい気持ちもあるが、少なからず九条今宵の事は気になっている。ここは素直についていく事にしよう。


「わかったから袖から手を離せ。伸びるだろ」

「はいはい、それじゃ行くわよ」


 九条今宵は袖から手を離し、くるくると回転しながら歩き始めた。

俺の家と逆方向に歩いているので、帰りに歩く距離が長くなるのがダルいなー……と、そんなことを考えながら、九条今宵の後に続いて歩いていく。






 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





「ここよ」


 連れられて来たのは、通学路から少し外れた位置にある、よくある分譲のマンションだった。横にはコンビニが眩しく光っていて、暗闇を照らしている。俺の家の近くにはコンビニないから、近くにコンビニがあるのは羨ましい。

 九条今宵はバックから鍵を出し、玄関口で鍵を差し込む。するとオートロックが開いた。


「どうしたの? 早く来なさいよ」


 立ち止まってる俺を見て、九条今宵は玄関の前で待っていた。


「いや、いきなり家に行くのはまずいだろ」

「どうして?」


 九条今宵は不思議そうに首を傾げている。


「いやいやいや、常識的に駄目だろ」

「誰も居ないから大丈夫よ」

「尚更駄目だ!」

「だからどうしてよ?」


 九条今宵は変わらずに首を傾げている。

せっかくセキュリティーがしっかりしてそうなマンションなのに、こいつのガードが甘すぎる。


「色々と気を付けろよ。年頃の女子なら警戒心くらい持った方がいいぞ」


 九条今宵は察したらしく、「あー」と納得した様子で言った。


「そういう事ね。大丈夫よ、あんたなんて見るからに小心者じゃない。そんな度胸ないでしょ」


 確かにその通りだが、そう言われると負けた気がする。

俺が注意したのは、あくまで心配に思ったからだ。他意は特にない。大事な事だから二度言うが、他意は本当にない。


「いいから早く」

「おう!」


 九条今宵の声に反応して、肩が返事と共にびくりと跳ね上がる。

九条今宵は怪訝そうにこちらを見ている。まずい、怪しまれたか。


「それより、お前の家に用事があるのか?」


 話を切り替えることも兼ねて、率直に聞いてみた。


「部屋につけば教えるから。いちいち生産性の無い質問をしないでくれる? 頭空っぽなの?」


 九条今宵はピシャリと冷たく言い放った。

うわー、ちょっと聞いただけなのに煽られてるよ。すげぇ嫌な奴。


「自分から連れてきたくせに、その言い方はないだろ」

「ふんっ」


 九条今宵は不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「可愛くない奴だな」

「あんたに好かれようと思ってない」


 九条今宵の内面は可憐な容姿と違って、かなり棘があるようだ。綺麗な薔薇には棘があるというが、こいつの場合は棘に猛毒があるな。

 九条今宵はエレベーターのドアを開け、それに続き渋々乗り込む。会話が無いので、恐ろしい程に静かだ。エレベーターの稼働音しか聞こえない。

 8階に到達したところで、ドアが開く。九条今宵は8階に下り、俺もそれに続く。


「……ねぇ」


 九条今宵は顔をこっちに向けずに、視線を伏せたまま話しかけてきた。


「あんたって、人のプライベートとか気になるタイプ?」

「は?」

「私が顔を隠している理由とか知りたいのかって聞いてるのよ」


 人には質問するなって言ったのに、自分はしれっと質問しやがって。その質問には生産性があるのか問いただしてやりたい。が、そんな事を言ってもろくな回答は返ってこないだろう。


「話したくないなら話さなくていい。色々と事情があるだろうしな」

「知りたくないならいいわ」

「…………知りたい」


 好奇心に負けてしまった。

プライベートを詮索するのは良くないと思っているが、そりゃ気になるに決まってる。


「初めからそう言いなさいよ。じゃあ聞くけど、顔を隠すのはおかしいと思う?」

「そりゃあな。授業中でも徹底して顔を隠しているのは、常軌を逸している。異常だ異常」

「あっそ。あんたには教えないけど」


 自分から言い出したくせに、教えるつもりはないらしい。

九条今宵は退屈そうに髪の毛先をくるくると弄っている。


「お前が聞いたんだろうが。会話のキャッチボールくらいしろ。俺の投げたボールが宙に浮きっぱなしだ。つーか教えろよ」

「……」


 無視である。基本的に都合の悪いことは無視するようだ。

九条今宵は801号室の前に立ち、ガチャガチャと乱暴に鍵を差し込み、ドアを開けた。


「ほら、入っていいから」

「……おう」


 女子の家に入るのは初めてなので、かなり緊張する。

本人が良いと言ってるとはいえ、誰も居ない部屋に二人というのは意識してしまうな。

 ドキドキしながら家に入ったが、一瞬でその感情は吹き飛んだ。

塵一つ落ちていない玄関に、汚れが全く無い廊下。靴が一足も収納されていない靴棚の上には、謎の壷がぽつんと置かれている。生活感が一切無い家だ。

 スリッパが置いていないようなので、靴を脱ぎ、そのまま上がる。


「……おじゃましまーす」


 案内されるがまま進むと、部屋には家具が一切置かれていなかった。

あるものはというと、人を駄目にする的なクッションが部屋の真ん中に存在感を放っているだけだ。冷蔵庫すら置いてない。

 こんなに何も無い家で、いったいどうやって暮らしてるんだろうか……。


「人の部屋を舐め回すように見るのはやめてくれる?」

「見てねえよ!? 人聞き悪い言い方すんなよ! 確かに部屋の観察はしてたけど、舐め回すようには見てないからな!」


 身体からは冷や汗が大量に出ていた。いや、確かにじっとは見てたけどさ。別に変な意味で見ていたわけではない。不思議に思っていただけだ。


「ならいいけど。準備してくるから、ちょっと待ってて」


 九条今宵は俺を残し、部屋から出ていってしまった。


「よくもまぁ、初めて部屋に入れた奴をほったらかしに出来るものだ。物とか無くなっても知らないぞ。……ってクッションしか置いてないから大丈夫か」


 わざわざ家に連れてきてきたということは、ここでしか見せれない何かがあるのだろう。

といっても、家具すら置いてないような家で、物を隠すような場所があるとは思えないけど。つーかこんな家で生活とか出来んのか?


「おまたせー」


 九条今宵の無駄にハイテンションな声と同時に、ドアが開いた。

どうやら制服から私服に着替えていたようだ。薄いピンク色の可愛らしいパジャマを着ている。

 九条今宵の性格を知ってる俺でも、素直に可愛いなと思ってしまう。(しゃく)だけど。


「お前って、そういう服が趣味なの?」

「私の趣味は別にいいでしょ!」


 九条今宵はクッションにぼふっと座り、だらしなく寝そべった。人が居るってのに気にしてないんだな。つくづく無警戒な奴だ。


「で、話ってなんだよ」

「そうね。うーん」


 言うかどうかで悩んでいるようだ。いや、家まで連れてきたんだから話せよ。


「……絶対に信じるって約束する?」

「するする、約束するから」


 早く聞きたいので、適当に返事をする。

どれくらい適当かというと、遊びに行けたら行くの信憑性と同じくらいだ。


「じゃあ言うわ……。嘘ついたら針千本を口に突っ込むから」


 九条今宵は恐ろしい事を言い出した。

こいつならガチでやりかねないし、俺の首を絞めた前科もあるから。冗談と言いきれないのが怖すぎだ。


「私、魔女なの!」


 そう一言。端的に言った。

勿体つけるから何を言うかと思ったら、そんなことか。ガッカリだ。


「アダ名がだろ? 知ってる」


 友達の居ない俺ですら知ってるんだから、誰でも知っているだろう。

それほどに九条今宵は畏怖の存在として認識されているということだ。


「アダ名? 違うわよ、本当に魔女だから!」

「は?」


 今なんて? 聞き間違いだと思うけど、本当に魔女って言った?

いや、意味がわからない。本当の魔女? 綺麗な熟女を美魔女とか言うのは聞いた事あるけど、それ的な事か?


「だ・か・ら! 私は本物の魔女だって言ってんの!!」


 今度は聞こえた。はっきりと聞こえた。

あー、はいはい。本物の魔女ね……


「…………は?」


 聞こえたけど、結局言ってる意味はわからなかった。

何だよ本物の魔女って。偽物すら見た事ねぇよ。


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