表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

修羅場


「水沢さん!!」


 九条今宵が叫ぶと、戦闘中の水沢と詩乃の手が止まり、水沢は鋭い目付きで九条今宵を睨んだ。


「……うっ」


 水沢の眼力に気圧された九条今宵は、逃げる様に後ずさりする。

話をすると意気込んでいたのに、こんな時でも人見知りコミュ障発動である。まぁあんな敵意丸出しで睨まれたらこうなるのも必然か。俺も怖いし。


「先輩! どうして九条さんを連れてきたのですか!?」


 詩乃は戸惑いながら言った。


「……ごめん」


 全面的に俺が悪いので、謝るしかない。

詩乃と水沢を見比べたところ、詩乃の方がダメージを負っている様に見える。実力はある程度拮抗してるとはいえ、水沢の方が優勢なのだろう。

 やはり俺達が来ても邪魔になるだけかもしれない。まずは九条今宵の安全を確保するべきだった。しかもここに来ると言った九条今宵自身は萎縮して黙っている。


「おい、水沢と話すんじゃなかったのか?」


 下を向いてモジモジと手遊びしている九条今宵に声をかける。

その姿はさしずめ、遊びの輪に入れないで教室の端で見ている子供の様だ。まるで俺の学校生活みたいだな。


「話?」


 九条今宵ではなく、水沢がその言葉に反応した。

完全に戦闘は中断したみたいで、詩乃も手を止めて様子を伺っている。


「えっと……水沢さんは私が目当てなんだよね?」


 下を向いていた九条今宵は、恐る恐る水沢に話しかける。

よく見ると足が震えているが、声を絞り出したようだ。


「そうだけど、それが何?」

「……っ」


 水沢の素っ気ない態度に、九条今宵は押し黙る。

しかし九条今宵は顔を両手でぱちんと叩いて気合いを入れると、震えを隠す様に言った。


「私は素直に捕まるから、詩乃ちゃんの事は見逃してほしい。……ついでにあのバカも」


 九条今宵は俺の方を軽く見た。

捕まる? お前が? コミュ障ぼっちで今も震えてるくらい臆病な奴が、自分を犠牲にして俺達を守ろうとしてんのか? ふざけんな!


「おい、何言ってんだよ! 早く逃げるぞ!」


 九条今宵の手首を引っ張る。

か細い腕だ。掴むと震えが伝わってくる。普段は超自己中なくせにかっこつけやがって……。


「私はどっちでもいいけどさ」


 水沢はしれっと興味無さそうに言う。


「でもさ、白井君。君ってワガママすぎない? だって、今宵から魔女の能力を封印したのは君なんだよ?」

「はぁ?」


 俺がワガママ? それは俺に対する普段の九条今宵であって、俺はノーマルだ。それより今……何て言った? 俺が九条今宵を封印したって言ったのか?


「うちの学校の人間は元魔法使いだよ。生徒も先生も全員ね」


 水沢は当然の事実の様に言った。

九条今宵の中二病はともかく、水沢も同類だったのか。やはり自身が魔法を使えると妄想を拗らせてしまうみたいだ。 そう考えると、魔女の中でまともなのは詩乃だけだな。


「おいおい、魔女ってのは妄想癖がデフォルトなのか? 俺は一般人だっての」

「……先輩、水沢葵の言っている事は本当です。隠した方が良いと思っていたので言わなかったのですが、すみません」


 詩乃も水沢に同調する。

頼みの詩乃も駄目か……正常な人間がここには俺しか居ない。魔女と一般人かつ常識人の俺では考え方が違うか。やれやれ。


「先輩は呆れているみたいですが、事実です。ここに来てから違和感がある事が起こりましたよね。先輩は体験しています」

「違和感?」


 ここに来てから違和感と言われても、違和感なんか九条今宵と関わってから常に感じている。すでに感覚が麻痺してるから見当もつかない。


「水沢が作った骨兵士が先輩に触れた瞬間に爆発した事です。あの現象ですが、あれは先輩が原因です」


 言われてみれば、骨兵士は俺の身体に触れた瞬間爆発している。

爆発していなければ俺は骨兵士に噛まれて死んでいた。運が良かったとしか思ってなかったけど、あれは俺の仕業だってのか。いや、ないない。


「あの状況で先輩以外に理由があると思いますか? 私は何もしていませんし、この世界を作り出している水沢が、たかが人形程度を作り出すのは失敗したと。それはありえないです」

「……百歩譲ってわかった。でも俺はそんな能力が使える事も知らなかったし、最近まで魔法はゲームとかアニメの中だけの物だと思っていた。記憶が無いのは何故だ?」


 その事を俺自身が知らない事があり得るのか?


「先輩や学校の人達は皆、九条今宵の親が治める国の国民です。同時に九条今宵に関わるなとも記憶操作されています。不用意に近づいて記憶に歪みが出来るのは避けたいですからね。おかしいとは思いませんでしたか? 九条今宵はマスクで顔を隠しているだけで、学校中から拒絶されているんですよ?」


 それは……確かに不自然だ。

喋らないから怖い。顔を隠しているから怖い。それはわかる。俺はコミュ障だから九条今宵と関わりたくなかっただけだけど、クラスの連中だけじゃなく学校中の人間から拒絶され、魔女として認識されているのは違和感がある。

 だが、それで俺に特殊な能力がある理由にはならない。

幼少期から今に至るまでの記憶が俺にはある。卒業式の思い出、家でゲームした思い出、ぼっちだから友達と遊んだ思い出は無いが、明確に出来事を覚えている。


「俺には過去の記憶がある。幼い頃から今の記憶まで。それは何故だ?」

「先輩が魔法使いだったのは前世の話です。その記憶は概ね間違っていないと思います。記憶操作も生九条今宵に関わるなとしかされてませんからね」


 何だ良かった。いや良くもないか。記憶を変更されてるのは事実だからな。前世魔法使いは名前の響きがいいから、嬉しい気がないでもないが。

 俺の記憶操作に対してのイメージだと、SF映画の宇宙人に脳を弄られてる映像が一番思い浮かぶから、想像するだけで寒気がする。


「あ、脳を弄ったわけではないので安心してください」


 詩乃に考えてた事を読まれてしまう。

九条今宵の能力がテレパシーとか言ってたが、詩乃もテレパシー使えるんじゃないか? 俺の思考が顔に出やすいだけかもしれないが。


「それよりも現時点で一番大切なのは先輩の能力です。言っておきますが、一人では無能としか言いようが無い役立たずの能力です。雑魚と言っても問題は無いでしょう」

「おい、雑魚とか言う必要ないだろ」


 わざわざ人を傷つける事を言う詩乃に、落ち込みながら注意する。

よくわからんが能力を所持してるってだけで嬉しいのに、雑魚と言われたら泣くぞ。


「それは失礼しました。それで、先輩の能力と言うのは増減です」

「増減?」


 何かカッコ悪い。増減て、技名とかじゃないのか。


「触った物や人の魔力を増やしたり減らしたり出来ます。骨兵士が先輩に触れて爆発したのも、魔力が増えて容量オーバーになったからだと思います。逆に魔力を減らしていたとすれば、おそらく消滅していたでしょうね」

「……それって強くね? 相手の魔法を無効化するんだろ?」

「いえ、減らすと言っても限界があるので、完全に無効化する事は出来ませんし、今の先輩は魔力が無いので、水沢の魔力が充満しているこの世界でしか発動できません」


 なるほど。完全に無効化する事も出来ないなら、たいした能力ではないかもな。


「ですが先輩の能力で九条今宵の魔力を弱めて、その隙に記憶を操作したので、使い道はある能力だと思います」


 元を正せば俺が九条今宵を追い詰めたって事なのか。

記憶を変えるために弱らせるとか最低だな、過去の俺。何だか自分が嫌いになりそうだ。


「先輩の能力を使えば、水沢を倒す事も可能です。私の作戦を聞いてもらえますか?」

「何だよ、作戦って」

「水沢の身体を触って下さい」

「俺が水沢の身体を触……はぁぁぁぁぁぁ!?」


 ただの変態じゃねぇかそれ!


「場所は何処でも良いので、手か肩らへんで大丈夫です」

「あっ、なるほどね。うんうん。勿論わかってはいたよ」


 詩乃は俺の事を軽蔑する様な目で見ている。

そんな目で見るな。字面的にちょっと勘違いしちゃっただけだろうが。


「で、触ったらどうなるんだよ?」


 作戦といっても、ただ俺が水沢に触れるだけ。

それが水沢を倒す事にどう繋がるのかわからない。軽く説明ぐらいしてもらわなきゃな。


「そろそろいい?」


 水沢が話を遮る様に、欠伸をしながら言った。

手には禍々しい鎌の様なものを、ペン回し感覚でぐるぐると回している。あんな馬鹿デカイ鎌を持った奴にどう近づけばいいんだ。丸腰で近づくなんて自殺行為だろこれ。


「とにかく信じてください! 私がサポートして隙を作りますので、先輩は機を伺っていてください!」


 詩乃はそれだけ言って、水沢の方へ果敢に向かっていった。

マジかよ!? シンプルすぎる……そんな作戦無いも同然だろ!


「まぁいい、やるしかないなら当たって砕けろだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ