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 ドアを開けてすぐに見えたのは、大きな岩山の上に悠々とそびえ立ち、古風ながらも艶やかな光沢で存在感を放つ、石で作られた洋風の城だった。

 まるで童話の世界から飛び出してきたかの様なファンタジー感溢れる城に、普段なら興奮でテンションが上がっていた所だが、今の俺には極々普通の疑問しか考えられない。


「何で学校の部屋が城になってるんだよ!!」


 水沢が魔法で作った世界なのは知ってるし、部屋にどんな罠が仕掛けられても驚かないつもりではいたが……城って。何故に城?

 ちなみに俺がゲームで一番好きなのはRPGだ。主人公を操って広大なゲーム内を冒険するのは、さながら自分が冒険しているかの様に感じ、休日にほとんど外に出ない俺にとっては気分転換に最高だ。

 洋風の城なんてのはゲームにはよくあるテンプレなわけだが、それでも惹かれてしまう。何かロマンがあるじゃん?

対戦ゲームは嫌いではないが、対戦相手が居ないのが悲しくなるのでやらない。

 話は少し逸れたけど……要するに、ゲーマーの俺には見慣れてはいる光景なのだが、それでも今の現状は謎すぎる。


「まさか、水沢は城の中に居るんじゃないだろうな……」


 城の下にある岩山の高さは30mくらいだろうか、登れない高さではないが、急斜面なので大変そうだ。登らなくていいなら登りたくないが、ドアを開けてすぐに城があったので、明らかに城の中で待っていると言われてる気がする。


「はぁ……ようやく見つけたかと思ったら、また探すのかよ」


 岩山の近くに行き、登れそうな場所がないかを探す。

小石が大量に落ちていて足場は悪そうだが、何とか足の踏み場ぐらいはありそうなので、無茶をすれば登れそうだ。


「いいや、登らなくていいよ」


 岩山に手を乗せ、今から登ろうとしてたが、聞き覚えのある声に話しかけられる。


「水沢!! それに九条今宵!!」


 水沢は木の下の日陰に居た。九条今宵も横の椅子に座っているが、気を失っているみたいだ。


「綺麗な城でしょ? ローデンディフィート城って言うんだよ」

「それはわかった。まずは九条今宵を離せ」

「寝室から見える海は絶景でさ、怒られた時は泣きながら海に叫んでたよ」


 九条今宵の解放を要求するが、無視される。

思い出を話る水沢の姿は、感傷に浸っているみたいだった。


「俺はそんな話を聞きたいんじゃない。九条今宵を離せ」

「そんなに怒らないでよ、話し合いに来たんだよね? それなら私の話を聞いてくれても良いんじゃないかな?」

「それは……そうかもな」

 

 たしかにその通りだと思ってしまったので、口ごもってしまう。

水沢はそんな俺の様子を見て、話を続けた。


「私と今宵は姉妹なの。私が姉で今宵が妹」

「はぁ? 名字が違うだろ!」

「偽名だからね」


 水沢は軽く言う。

言われてみれば目元が似てる様な似てない様な……うーん、わからん。というか信じられない。


「お父さんは国王で、お母さんは王女。私と今宵は何一つ不自由ない幸せな生活をしていたんだよ。あの城でね。いやー楽しかったよ」

「話が掴めないが、要するに自慢か?」

「いーや、今のは前置き」


 水沢は灰色の落ち葉を足でかき集めている。

追いつめられたってのにその余裕、俺一人じゃ警戒する必要もないって事か? 


「その幸せな生活が続いたのも今宵が魔法を使える様になるまではだけどね。覚えた魔法が厄介だったんだよ」

「厄介?」

「人の心の声を聞く魔法」


 人の心の声を聞く魔法。……それって、テレパシーだよな?

世界を崩壊させるとか言ってたからどんな凄い魔法かと思ってたから、ちょっとガッカリだ。


「それが世界を崩壊させるって?」

「うん。自分だけならまだ良かったけど、その魔法は半径100m以内の人間にも伝染したからね。結果、城の人間は本音を隠せなくなって、小さなイザコザが止まらなくなった。お父さんとお母さんも例に漏れず喧嘩してさ、国は壊滅したの。崩れるときは一瞬だったよ」


 水沢の顔は寂しそうで、何も言う事が出来なかった。


「今宵は居るだけで人を不幸にするの、だから私が責任を取って始末する」


 水沢の意志は固そうだ。

俺に止める事が出来るのか? つーか止める権利はあるのか?


「前にも言ったけどさ、今宵が居なくなっても白井君に問題は無いよね? 私も無駄な犠牲は出したくないから帰ってほしいな」 


 水沢は手を俺の顔に目掛けてかざし、最後の忠告をしているようだ。

でも水沢の提案を呑むことは出来ない。俺の中では答えが決まっているからだ。


「問題はある」

「えっ?」

「つまんねえんだよ。そいつが居ないと俺はぼっちだし、そいつもぼっち。俺はコミュ障ぼっち同士の傷の舐めあいが嫌いじゃねぇんだ。だからそいつが居なくなる事は嫌だ」


 気絶している九条今宵を指差す。

我ながらカッコつけた台詞だと思うが、これが本心だ。嫌々付き合わされているが、本当に嫌な訳ではない。ちょっとシャイなだけだ。


「だから自分以外の事は関係ないって? 随分わがままだね」

「あぁ、我が強いのはぼっちの特権だからな。俺のしたいようにする」


 水沢は軽蔑した目で俺を見ている。

憧れの存在だった人にそういう目で見られるのは辛いが、思った事を言ったまでだ。


「強行手段は取りたくなかったけど仕方ないね。白井君、さよなら」


 水沢のかざした手からは、刃物を模した霧が弾丸の様に飛んできた。

……これは避けれない。単純に速すぎるし、俺の運動能力だとわかっていても身体が動かない。スローモーションに見えるのは死ぬ間際の走馬灯ってやつか。


「先輩っ!」


 呆けていると、目の前に水がうねる様に出現し、霧の刃を受け止めた。


「詩乃っ、ナイスタイミング」

「私が食い止めるので先輩は九条今宵をっ」


 詩乃は水沢から九条今宵を遠ざける様に襲いかかり、そう言った。

俺は九条今宵の元へ走り、椅子に繋がれた縄を九条今宵からほどいた。


「おい! 大丈夫か!」


 九条今宵の身体を横に揺さぶる。


「んにゃ……後五分」


 何だ、寝てるだけか。心配かけやがって。


「後五分じゃない! 今すぐ起きろ!!」

「何よ……このムカつく声……少しぐらいはいいじゃないのよ……って優紀!?」


 九条今宵は慌てて飛び起きた。

そして足下に落ちている縄と、椅子に結ばれた縄を交互に見て、ジト目で見てきた。


「あんたって最低だとは思ってたけど、こんな事する人じゃないと思ってた。この性犯罪者」

「誤解だ!!」


 目が覚めて自分の周りに椅子と縄があったら、そう判断するのもわからなくはないが、助けにきたのに性犯罪者呼ばわりは酷すぎだ。


「ほら、あれを見ろ」


 派手な爆発音を鳴らして戦闘している詩乃と水沢を指差す。


「詩乃ちゃんと……水沢さん!? 何で二人が戦ってるの!? 凄そうな技とか使ってるし……というかここはどこよ! 私、自分の家に居たんだけど! でかい城とかあるしっ!」


 九条今宵は気が動転しているみたい。

大きく口を開け、あたふたと現状に驚いている。

 

「落ち着け」

「はぁ? 落ち着けるわけないじゃないの! あんたも何か知ってるなら説明しなさいよ!!」

「そうだな……俺もよくわかってないが、まずお前を連れてきたのは水沢。ここは水沢の魔法で作られた世界で、水沢はお前を始末したいらしい。で、俺と詩乃が助けにきた」

「水沢さんが私を始末? どうして?」


 九条今宵は首を傾げた。

魔法とかの単語には一切つっこまないあたり、こいつらしいと言えばこいつらしいが、水沢がお前を狙う理由は魔女だからとは言いたくない。俺がそれを言うと確実に調子に乗るからだ。しかしそう伝える以外に説明できないわけで……。


「……お前が世界を崩壊させる魔女だからだ」

「私が世界を崩壊させる魔女?」


 意外と九条今宵は落ち込んでいる様で、力無く俯いた。

おっ、まさかの調子に乗らないパターンか。中二病真っ盛りの奴だから喜ぶかと思ったけど、流石に世界を崩壊させる魔女呼ばわりはショックか。だが俺の中で九条今宵の評価を少し上がったのは言うまでもない。意外と普通の感性はあったんだな。


「ふふっ、ふふふっ、最高じゃない! やっぱり私は魔女だったんだわ! しかも世界を崩壊させる程の圧倒的な力を持つ魔女! 自分の内に眠るスピリチュアルを信じていて良かったわ!」


 うわ……落ち込んでるかと思ったら笑いを堪えていただけかよ。ある意味予想通りだけど。


「お前は命を狙われてるのに楽観的な奴だな。怖くないのか?」

「私は最強の魔女なのよ? 怖いものなんてないわ! それで、私の能力はどんな最強魔法なの? 惑星の一つ二つを消滅させるレベルの物だと思ってるのだけど」 


 九条今宵はこれでもかと言うぐらい調子に乗っていた。

お前の脳内では最強だろうが、残念ながらお前の魔法は惑星を消すほどの大層なものではない。それどころか戦闘にはあまり役に立たないかもしれない代物だ。


「テレパシーだってよ」

「テレパシー? 人の考えを読み取る能力ね、中々有能じゃない。でも私が知りたいのはサポート系の能力じゃなくて、戦闘で使える能力よ」

「無い」

「?」

「多分だけど、お前はテレパシー以外使えない」

「はぁ!? それじゃ全然最強でも何でもないじゃないのよ! 世界を崩壊させる能力はないの!?」


 九条今宵は地面に足をバタバタと叩き、石を蹴飛ばし八つ当たりしてきた。

んなことを俺に言われても知らんとしか言いようがない。正直、俺も話についていけていないのだから。


「後、水沢とお前は姉妹らしいぞ」

「何それ初耳」

「そんで姫様だったんだってさ」


 リアクションが薄いな。けっこう衝撃的な事だと思うんだが。

おばちゃん達が井戸端会議してるぐらいのノリだ。九条今宵よりも俺の方が驚いているんじゃないか?


「おい! そっちは危ないぞ」


 九条今宵が戦闘中の二人の方へ行こうとしてたので、注意する。

テレパシー以外に能力が無い九条今宵と、一般人の俺では戦闘に参加するだけで詩乃の邪魔になるだろう。今の俺に出来るのは、足手まといにならないために九条今宵を連れて逃げる事だけだ。


「水沢さんと話してくる」


 九条今宵はそう言い、足を止める事はなかった。


「待てよ!」


 呼び止めるも無視される。いつもの事だ。

どんな時でも自己中。俺の言うことは当然のように聞かない。まぁ、こいつらしい。

 水沢と話した時に、九条今宵に巻き込まれるのが嫌じゃないと言った手前、一人で逃げるのは違う気がする。いいぜ、そのワガママに巻き込まれてやろうじゃねぇか……


『『バゴォン!!!!!!』』


 水沢と詩乃が戦闘している方から爆発音が耳を破裂する様に響く。

……やっぱり九条今宵を見捨てて、一人で逃げようかな。


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