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第二十七話 ペルセオン教の上級司祭

 ずいぶん時間を開けてしまい申し訳ありません。

教会の見習い司祭やオフィーリアの叔父ライアンの頼みもあり、万が一に備えてイオリ達三人は交代で村の見回りを手伝う事になった。


 イオリはペルセオン教会に向かう前に死の導き(デス・ロード)を倒して得た素材類と一緒に対死霊用の弓矢も回収していた。

 が――対死霊用の弓矢の方は一本は地面に突き刺さった時に(やじり)に使用されていた刻印珠紋が罅割(ひびわ)れしていたらしく、地面から引っこ抜くと同時に砕けてしまい、無事だったのは死の導きに命中した一本だけだった。


 流石に一本だけでは死霊系の中、上級魔族に太刀打ちするのは難しい。

 もう一度、死霊系の上級魔族が出てこない事をイオリ達は祈りつつ、朝を迎える。

 そして早朝、待ちの望んでいた上級司祭が漸く到着。

 まずは旅の疲れを取って、それから死霊対策に乗り出すという。


 その間、村の見回りは村の自警団が行うので此処で漸く雑事から開放されたイオリ達ティターニア一行は宿屋で休養を取る事が出来た。

 本来なら用事も済んだし村を出る事も考えたがその時には既に昼を過ぎ。

 今から村を立つと半日もしない内に日が暮れる。

 その為、イオリ達は今日一日ベルン村に滞在し、明日の早朝に村を立つ事に決めた。


 なのでその半日、イオリは修行時代――太古の砦の改装中に作り出してからの愛用している片刃のバスタード・ソード『イクス・エッジ』の整備をする。

 死の導きを倒して回収した時に感じたイクス・エッジの違和感の正体を調べる為だ。


 イクス・エッジは刀身の両側面、皮鋼と呼ばれる部分の間に刃をスライド収納し、刃が破損しても直ぐに交換出来る機構をしている。

 珠紋や刻印珠紋を最大二つを予め装着しておいて任意で使い分ける事が出来る。


 珠紋の装着数は最大数を増やす事は可能だが一先ずイオリ自身が使える無属性と闇属性の二つに絞った。


 刀身の皮鋼はオリハルコンで棟と心鉄、柄はミスリルを使用。

 杖としても使えるように魔力伝導率の高い混じり気の無い純粋なミスリル、オリハルコンを贅沢に使っている。

 刃は露出している部分のみ使用すれば良いのだから稀少なレアメタルやレアアースの使用量は極少量で済む。


 ただ、見た目が派手で成金趣味に見えるのが欠点で普段は異次元倉庫に仕舞っている。


 そんなイクス・エッジの違和感の正体は直ぐに判明した。

 ダイアモンド製の刃の中にドス黒いモヤが嵐の時の海の波の様に激しくうねっていた。


 ダイアモンドは衝撃と高熱に弱い。 ハンマーで一、二回殴れば簡単に割れてしまう。 その理由はダイアモンドが余りに硬すぎて衝撃が中心に溜まり、やがて逃げ場を失ったその衝撃のエネルギーに耐え切れず崩壊――割れてしまうのだ。

 炎の熱に対しても強くなく、高熱に晒されるとダイアモンドは気化して消滅する。


 その対策として耐熱、耐衝撃の術を付与してあるのだが、このような現象が起こるとは流石のイオリも知らない。

 そう言えばと師であったクレオの話を思い出す。


『宝石類は強い力の影響を受け易いから気をつけな』


「もしかして死の導きを突き刺した時、影響を受けたっすかねぇ?」


 まさかと思い村の外、草原地帯で邪小人(イービル・リトラー)を探す。

 邪小人は直ぐに見つかる。


 その邪小人にイクス・エッジのドス黒く変色した刃で軽く斬りつける。 

 途端に邪小人は短い悲鳴を上げて直立したまま後ろに倒れてぴくりとも動かない。

 邪小人を調べてみると死んでいた。

 一見死因は心停止に見える。 もっと詳しく珠紋術を使用して調べて見ると肉体と魂の鎖が断ち切られたのが分かった。


 イオリはボソリと呟く。


「……『デス・ブリンガー』が出来ちゃった」


 デス・ブリンガーとはその名の通り死を招く魔剣でその刃に触れただけで命を落とすとても危険な剣だ。

 ちなみにデス・ブリンガーは禁忌指定されていない。

 理由は即死を防ぐ方法なら幾らでもあるから。

 武具のランクは最上級に位置する。


 それ以上は武具防具であれ道具であれ全て神器に分類される。


 もっと危険で禁忌指定されている邪剣の一つに『カラミティ・ソード』と呼ばれる物がある。

 この剣は持ち主の近親者をその身に宿す強力な呪いで次々に殺戮して行き、やがてその者の居る国の人々を殺戮し滅ぼす質の悪い剣である。

 だが現在この剣は行方知れずとなっている。

 ちなみにランクは神器。


 閑話休題。


イオリは直ぐ様宿泊している宿屋の部屋に戻る。


 イオリに取ってデス・ブリンガーなど使いにくい。

 なので早急に刃を交換する作業を行う。


 其処でふとある事を思いつく。 


 ダイアモンド製に次いで二番目に性能が良いアダマンタイト、ダマスカス、オリハルコン、ミスリルの四つの魔導金属の合金に更に竜鱗鋼を砕いて粉末にした物を加工系の無属性珠紋術『混合(ミキシング)』で混ぜ合わせる。


 だが、魔導金属同士の合金を作るには精錬するよりとても難しい。

 その為、ギガントスの砦の工作設備が必要となる。

 しかし、イオリにはその工作設備に加え自身が作り出した魔導工作機械マジック・クラフト・マシンの全てを纏めてコンパクトにしたガントレット状の万能小型ツール『創造の手クリエイション・ハンド』を使用する事で問題は全て解決。

 

 すると魔導合金はダイアモンド製の刃と同等の硬度でしかも靭性が高強度を持ち魔力伝導率の優れたとても軽い特性を持つ魔導金属が出来上がった。

 

「魔導合金の配合比は帰ってゆっくり調べるとして、今はこれで十分すね」


 イオリは早速出来上がった刃を交換し、作業を終える。


 ふぅーと溜め息を吐いて落ち着いた時、何やら外が騒がしい事に気付いた。

 

「ん? 何すか?」


 イオリは窓から外の様子を伺う。 其処にはオフィーリアとアーレックが白地に金の刺繍が施された服を身に纏った如何にも宗教関係者の二人の男性の内一人がオフィーリアに詰め寄り、もう一人の男性とアーレックが詰め寄っている男性を諌めている様だ。


 イオリはオフィーリアとアーレクの元に向かう。


 宿の入口の前では神官服を纏った年配で肥満体型の男がオフィーリアに怒声を飛ばし、オフィーリアはそれを涼しい顔をして受け流して男に何やら説明していた。


「どうしたっすか?」


 オフィーリアに話しかける。


「どうもこうもないわ。 今日到着した其処にいるペルセオン教会の上級司祭が私達が倒した死の導きの素材を渡せって言ってきたのよ……」


「何でまたそんな話になってるんす?」


 アーレックともう一人の上級司祭を押し退けて茶髪の年配で肥満体型の男がオフィーリアとイオリの間に割って入る。


「それはのぅ! 本来死の導きを倒し、その素材を手に入れるのは儂等だからだよ! だからサッサッと儂等ペルセオン教会に譲渡せんか小娘!!」


「へ?」


 イオリはこの上級司祭の言っている意味が分からなかった。


 そもそも魔物や魔族の素材はギルドで依頼でも受けていなければ倒した者の物だ。

 それは例え貴族や王族だろうと覆す事は出来無い。


「そんな理由で……。 て言うかそれって強請(ゆす)り、たかりじゃあないすか」


「そうとも言うわね。 だからこの件は冒険者ギルドに報告させて貰います。 いいですね? ディクスン上級司祭様」


「貴様ッ! 何様のつもりだ!」


「ディクスン上級司祭! もうおやめ下さい!」


 金髪糸目の二十代位の若い上級司祭がディクスンと呼んだ上級司祭を諌める。


「彼らの言い分は正しい! これ以上、騒ぎを大きくすれば教会本部に伝わりますよ!」


「ぐぬぅ! 良いかお前達! その素材を儂に寄進せよ! 良いな!」


 そう言ってディクスンはイオリ達の前から立ち去った。


「私はミュラーと言います。 彼と同じ上級司祭なのですが……すいません、皆様。 ディクスン上級司祭は死の導きと戦うという緊張と連日連夜馬車を飛ばしてベルン村に辿り着いた疲労で気が立っているのです。 どうかお許し下さい……」


「緊張で気が立っているねぇ……。 分かりました。 でも、ディクスン上級司祭は以前から我等冒険者と度々トラブルを起こしているのでギルドには報告させて頂きます」


 オフィーリアは眉を八の字にして不機嫌そうに言う。


「それは我等の不徳の致すところ。 致し方ありません……。 彼には後で良く言って聞かせます」


 ミュラーはイオリ達に頭を下げてディクスンの後を追う。

 

「……あのディクスンて言う上級司祭、そんなによく問題起こしているんすか?」


 オフィーリアが答える。


「ええ、冒険者だけでなく職人や商人の間でもトラブル・メーカーで有名よ。 イオリも気を付けてね」


「わかったっす。 それとあのミュラーって人は……」


 今度はアーレックが答える。


「ディクスン上級司祭のトラブルの尻拭いをさせられてる人だよ。 あの人も大変だね」


「……」


 イオリは黙ってミュラーをの後ろ姿を見つめる。

 ミュラーを見た時から底知れぬ恐怖を感じ、背筋から止めどなく冷や汗が流れ続けている。


「イオリどうかした? 顔色悪いよ」


 アーレックが訝しげにイオリに尋ねる。


「何でも無いっす! ちょっと疲れてるだけっすよ!」


「ならいいけど……。 今日は早めに休みなよ。 明日は朝一で村を出てケサラパサラの街に帰るからね」


「そうさせてもらうっす」


 イオリはアーレックの忠告通り夕食を食べたら直ぐに床について昼間の事について考えた。


(あのミュラーて人のあの感じ……ずっと昔に何処かで会った事があるような……気の所為かな。 うん! きっと気の所為っす!)


 イオリはそう結論付けてミュラーの事を忘れる事にした。

 そして此処数日の死の導き騒動で心身共に疲れていたこともあり直ぐに意識を手放して深い眠りについた。


 翌日、イオリ達ティターニアは帰還の為、ケサラパサラの街を目指してベルン村を旅立った。


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