第二十八話 バルデスの暗躍
お待たせしました。第二十八話を更新します。
――ケサラパサラ冒険者ギルド 支部長室――
イオリがケサラパサラの街に帰ってくるより少し前、冒険者ギルド支部長ホッポが戻って来ていた。
支部長室では副支部長のバロス・エンデがホッポを出迎える。
「お帰りなさいませ。 ホッポ支部長」
「やれやれ、老体には皇都ロマネスクまでの往復は骨身に沁みるわい。 処で儂の居らんかった間、何か問題は無かったか?」
「三つ御座います。 一つは問題と言うより以前からホッぽ様が頼まれていた例の少年の事です」
「ほう! そう言えばもう成人の年じゃったなあ……。 で、適性の方ほどうじゃった?」
「かなり高いですね。 能力に関しては上級――ヘタをすれば最上級の冒険者に匹敵します。 問題の二つ目に絡む事ですが、来た早々、ギルド登録前に街で暴れ回っていた指名手配の賊が魔道具専門店ヴェデルの店主レムネリアさんを拐おうとしてそれを阻止、一人を除き、他全員を生け捕りにして捕らえて見せましたから。 ただ、その一人だけ少年――イオリ君の話ではどうやら転移系魔道具で逃げられたらしいです」
「それは凄い! 今まで尻尾を掴ません連中じゃったからな! それも生け捕りとはのう。 しかも、レム嬢ちゃんを助けてくれたのか……。 冒険者登録しとるならその件、タグに記入して報酬も弾んで遣ってくれ」
「はっ! 承知しました! ……ですが、イオリ君は登録早々ギルド内でレムネリアさんが他の冒険者に絡まれたのを助ける為に暴力沙汰を起こしまして、一ヶ月間の冒険者資格の停止を受けました」
苦笑いしてホッポに話すバロス。
「ホッホッホッ! な~に、それ位元気でなければ冒険者は務まらんて。 それに理由が理由じゃ。 問題あるまい。 いやしかし、賊が街を暴れ回っとる時に運悪く定例報告会が開かれる時期じゃったからのう。 本来は儂がこの街に残るべきじゃったが、儂よりもその手の専門家のお主が残った方が上手く遣ってくれると思っておったが、やはり道中その事がずっと頭に引っかかておって心配しておったのじゃ。 ……で、逃した賊の行方は調べがついたか?」
「それが二つ目の問題です。 取り調べで吐かせた処、どうやら賊は闇ギルド『バルデス』の構成員でグローリア王国と関わりがあるようなのです」
「何! それはどういう事じゃ!」
「申し訳御座いません。 それ以上はそやつ等も知らされておらぬようで詳しくは分かりませんでした」
「そうか……もしかしたら十五年前のトリスヴァン公爵の御子息殺害とその御孫様の誘拐と何らかの関わりがあるのかも知れぬな……。 取り敢えずギルド本部に報告して指示を仰ごう。 で、三つ目の問題は何じゃ?」
「三日前、ベルン村付近の森に死の導きが顕れたとの報告が来たのでペルセオン教会の上級司祭二人の護衛に数人警護の冒険者を派遣しました」
「死の導きじゃと! 次から次へと厄介な問題が続くもんじゃ……。 もしかせんでもペルセオン教会の上級司祭とはあの二人の事か」
ホッポは顔をしかめ頭痛を堪えるように片手の親指と中指で両側の米噛みを抑える。
問題は死の導きだけでなく対応に当たる上級司祭の二人、ディクスンとミュラーにもあった。
「ディクスンは言わずもがな、ミュラーはどうも裏で何やらこそこそ動いておるようじゃからのう。 あ奴は元々ヒューペリオン大陸の出身じゃ。 グーロリア王国と関わりがあってもおかしくはない。 それにミュラーが数年前、この街に派遣されて来てからトラブルが頻繁に起こりよる。 バロスよ奴の監視は怠るなよ? 場合によっては今回の賊の一件、奴が絡んでおるかもしれんからのう」
「では引き続きミュラーの監視を続行致します」
「頼む」
――ケサラパサラの街 ヴェデル店――
イオリは冒険者ギルドに死の導きの討伐報告と闇の羽衣の提出はオフィーリア達に任せ自分はヴェデル店に先に帰らせてもらった。
死界の球は三つあったのでそれぞれ一つずつ分けた。 オフィーリアもアーレックもいずれこの球を使って武具を作るつもりだとか。
「ただいまーす」
イオリは扉を勢い良く開け扉の上方に設置された鈴の音が小気味良く響く。
「おかえりなさい! イオリちゃん」
店の奥からレムネア――レムが直ぐに出てくる。
「なにか変わったことは無かったすか?」
「ううん、特には……。 そうだ! イオリちゃんが出かける前に作った双眼鏡とレインボウっていうの?が売れたわよ」
双眼鏡は二個、レインボウは一丁、店に商品として置いていた。
「試打した冒険者の人達はレインボウは良く出来てて扱い易いて言っていたけれど、双眼鏡はもう少し小さく持ち運びに便利でダンジョンでも使えれば……て言ってたわよ」
「やっぱりそう言う感想が帰ってきたっすか……」
オフィーリアやアーレックにも聞いてみたが、屋外の開けた所では便利だが障害物が在ると見過ごしてしまう。 それと双眼鏡事態が大きくて嵩張るので荷物になる。 この二つの欠点を克服できればヒット商品になるとイオリは思っていた。 それに既にこの欠点を克服するアイデアは思いついていたので後は実際に作製するだけだ。
「イオリちゃんの方は大丈夫だった?」
死の導きの事は黙っておこうかとも思ったがいずれはバレルだろうから素直にレム話した。
最初死の導きについて何の魔族か分からなかったが、イオリの説明を受けて理解していく内に顔を真っ青にしていくレム。
「そ、それでイオリちゃん達大丈夫だったの!? 何処か怪我とかしなかった!?」
慌てて質問攻めにするレム。
「大丈夫っすよ! 怪我とかしなかったすから! ……ただ、あんな大物が出るとは思ってなかったすから準備が大変だったけどね」
「そう、良かった……」
安堵の溜め息を漏らすレム。
「さて、片付けたら双眼鏡の改良に早速取り掛かるっす!」
「休まなくていいの?」
「アイデアを忘れない内に形にしておきたいんす!」
「根を詰め過ぎないようにね、イオリちゃん」
「分かってるっす!」
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イオリは店の奥にある工房で早速、双眼鏡の改良に取り掛かる。
と、言っても双眼ではなく単眼、しかもポケットサイズの望遠鏡だ。 このレンズに刻印珠紋を使用し魔力感知やトラップ検知、暗視の術式を刻む。 オマケで紐を通す部分を作成してあっと言う間に完成させた。
作業が完了し、背伸びをして肩のコリをほぐしていると何だか店内が騒がしいのに気付く。
「ん? なんすか?」
気になって店に出ると人が店内一杯に入リ切らず外で出待ちの行列が出来ていた。
「なんすか!? この行列は!?」
「あ!イオリちゃん! 調度良かった!」
困惑しているレムが客らしき人達を宥めていた。
「お! お前さんが死の導きを倒した魔道具作った職人は! 俺にも武器を作ってくれよ!」
「俺は防具が欲しいんんだ!」
「レインボウっていう連射出来るボウガン売ってるのこの店でしょ! それ、私にも売って!」
どうやら死の導きをイオリの作った道具で倒した事を知った冒険者達が大挙して押し寄せて来たようだった。
「だーちょっと待ってくれっす! 順番に並んで欲しいっす!」
イオリは何とか冒険者達を並ばせ、今日中に出来ない仕事は番号と名前、連絡先を紙に控え、後日連絡して仕事を引き受けると約束した。
そして暫くの間、仕事地獄が一ヶ月以上続いた。




