第二十六話 死の導き
――ベルン村――
イオリ達冒険者パーティ――ティターニアは無事ベルンの村に着いた。
休む間も無くイオリ達はオフィーリアの叔父であるライアンに上級魔族死の導きの事を知らせに向かう。
「叔父さん! ライアン叔父さん居る!?」
オフィーリアは叔父が商う店、ライアン商店の扉を乱暴に開け放ち店の中に飛び込む。
「オフィーリア! 無事だったか! 心配したぞ!!」
ライアンはオフィーリアの姿を見るなり駆け寄って抱き付く。
「どっ、どうしたの叔父さん!?」
叔父の行動に面食らうオフィーリア。
アイアンは深呼吸して落ち着くと事の次第をイオリ達に話す。
「実はお前たちが森に入ったのと入れ違いで一人の冒険者が駆け込んで来てな。 森で死霊系の魔族に遭遇してそいつ以外のパーティ・メンバーが全滅したと村に知らせに来たんだ。 そいつは川に水を汲みに行っていた時に仲間の悲鳴を聞いたんで急いで戻って来たら死霊系の魔族に仲間が襲われていたらしいんだがその魔族の特徴が『大きな黒い玉』ってこと位しか見とらんそうだ」
イオリ達三人は顔を見合わせ頷く。 特徴から言って間違いなく死の導きだろう。
「叔父さん、実は……」
オフィーリアはライアンに森で遭遇した死の導きについて話す。
死の導きについてオフィーリアから話を聞いたライアンの顔色はみるみる青くなる。
「そいつは不味いな……。 わかった! 村長と話を付けてケサラパサラの街からペルセオン教の上級司祭に来てもらうよう教会に依頼しよう!」
ペルセオン教は太陽と光を司る神ペルセオンを信仰しているので、司祭は全員光の属性持ちである。
従って死霊関係はペルセオン教の司祭に対処を任せる。
ベルン村にあるペルセオン教会に居る司祭は修行中のまだ見習いである。 とても死の導きには対処出来無い。
其処で今回の様な案件は街や都市に常駐する上級司祭クラスに依頼するしか無いのだ。
「オフィーリア、司祭が到着するのにどれ位掛かるんすか?」
「そうね……。 まず、今からケサラパサラの街に連絡するにしても早馬を飛ばして二日は掛かるから、司祭が来るのに四、五日位かしら」
「死の導きによる被害が四日前だから奴が発生したのは極最近だろうね。 ペルセオン教の上級司祭様が来るまでにこの村に死の導きが来ないと良いけれど……」
「……一応、死の導きが襲撃してきた時の為の切り札を用意しておくっす」
「そんな物があるの?」
「まあ、数はそんなに用意できないんすけど……」
イオリは切り札についてオフィーリア、アーレックの」二人に話す。
「!? 確かにそれならいけるかも!」
「でも出来うるなら死の導きとの戦闘は極力避けたいね」
「これは飽く迄も最後の手段。 それを忘れないで欲しいっす」
イオリ達は宿を取り、死の導きの襲撃に備える。
「それじゃあ、おいらは早速作業に取り掛かるっすね」
「私達は交代で休ませてもらうわ。 あんまり根を詰めすぎないようにね、イオリ」
「わかってるっす!」
そう言ってイオリは一人宿の個室で切り札の作製索作業に没頭する。
だが、三日目の深夜――外が俄に殺気立つ。
「来たぞ! 死の導きが村の中に入って来た!」
「全員、ペルセオン教会に避難しろ!!」
ペルセオン教会の建物には結界が張ってあり、上級の魔物や魔族にも耐えられる様になっている。
最も更に上の混沌の女神ファリスの眷属である魔神や魔獣には効かないが。
イオリは作業を一段落終えてから暫く仮眠を取っていた。
其処に死の導きが侵入した知らせが外から聞こえた途端、起き上がる。
「死の導きは何処っすか!」
「村の広場よ!」
「イオリ! 例の物は!?」
イオリは苦虫を噛み潰したような顔になり、
「……二本が限界だったっす」
そう言ってオフィーリア、アーレックに差し出す。
それは鏃が刻印珠紋製の弓矢だ。
刻まれている術式は対死霊用光属性上級珠紋術『浄霊』
「二本か……厳しいわね。 問題は誰がコレを使うかだけれど……」
「ボウガンによる狙撃ならこのメンツの中ではアーレックが一番すね」
「え!? 僕が!?」
「おいらの見立てじゃあ、おいらやオフィーリアよりも弓やボウガンの扱いは上っすよ」
「でも確実に当てるには死の導きの動きを止めない事には流石に……」
アーレックの懸念にオフィーリアは断言して答える。
「それは私が引き付けるわ! 死の導きに間合いを開けた中距離攻撃を仕掛けるなら私のクリスナーガが最適だもの!」
「万が一の時はおいらの珠紋術でオフィーリアを援護するっすよ!」
アーレックは俯いて逡巡していたが二人の言葉に後押しされ、やがて顔を上げて二人に向かって頷く。
「わかった! やろう!」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
三人は村の広場にいる死の導きに気づかれぬようそれぞれ配置についた。
作戦はまずオフィーリアが死の導きに対して先制攻撃を仕掛けて動きを止め、アーレックが対死霊用の弓矢で仕留める。 イオリは珠紋術で二人のサーポートをする。
それぞれが配置に着いた合図を送り合う。
それを確認したオフィーリアがアーレックとイオリに作戦開始の合図を送ると同時に死の導きの前に踊りでた。
「行くわよ! 黒玉野朗!」
オフィーリアはクリスナーガを鞭にして死の導きに攻撃を仕掛ける。
イオリは防御系珠紋術『闇の鎧』『闇の加護』をオフィーリアに掛けて死の導きの即死攻撃を防ぐ。
魔物や魔族、魔獣や魔神は全て混沌属性である。
例え他属性の特徴を持っているように見えても、それは全ての属性を内包する混沌属性が可能にする技である。
相手によって各属性の効きの良し悪しはあっても全く聞かないという事は無い。
死の導きも一見、闇属性の特徴を持っている様に見えるが実際には混沌属性なので闇属性の珠紋術でも効きは今一つだが効果は発揮してくれる。
「ヒュゴオオオォォォオオオーーー!」
死の導きはオフィーリアによる攻撃が効いているようで苦悶の声を上げる。
順調に死の導きの足止めが出来ている。
そろそろ頃合いだ。 そう思いアーレックは死の導きに対死霊用の弓矢を装填したレインボウを構え照準を合わせる。
死の導きの動きが完全に止まった! その機会を逃さずアーレックは死の導きに矢を打ち込む――が、
「何!?」
「しまった!?」
オフィーリアの猛攻に堪らず、死の導きは近くに在る建物の壁を通り抜けて避難する。
矢は死の導きから逸れて地面に突き刺さり術式が発動する。
辺りは一面、真っ白な光に包まれる。
「くそっ! 透過能力だ!!」
実態を持たない魔族の特殊能力『透過能力』。 壁や扉等の物体を通り抜ける能力だ。
困惑し動揺しているオフィーリアの背後からいつの間にか死の導きが背後から忍び寄る。
そして死の導きの攻撃『死の吐息』が全周囲に撒き散らされる。
「オフィーリア!?」
死の吐息に包まれるオフィーリア。 イオリが即死攻撃を防ぐ珠紋術をオフィーリアに掛けているとはいえ長時間死の吐息に晒されては効果時間が削られやがて完全に効力を失う。
状況としては最悪である。
オフィーリアの生存をアーレックが諦め絶望した時、死の吐息のドス黒い霧が急速に晴れていく。
「あれは!?」
いつの間にか死の導きの前に立ちはだかり、イオリがオフィーリアの盾となっていた。
そればかりか二人の周辺の死の吐息が何かに吸い込まれるように急速に消えていく。
イオリは異次元倉庫発動して死の吐息を吸収し、収納したのだ。
今度は死の導きが動揺する。 間髪入れずイオリは機械的な見た目のする片刃のバスタード・ソードを異次元倉庫から取り出し死の導きに投げつける。
見事バスタード・ソードは死の導きを貫通し、地面に縫い付ける。
どうやらバスタード・ソードは強力な魔導の武器のようでその為、死の導きに対しこのような真似を可能にしたようだ。
「アーレック!」
イオリの呼びかけに我を取り戻したアーレックが死の導きに矢を射る。 その矢は必中の矢となり今度こそ死の導きに命中した。
矢が命中した途端、死の導きの体は膨張し、内側から光が漏れだし破裂した。
辺りは真っ白な光に包まれやがて静寂が訪れる。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
「や、殺ったの?」
「そうみたいっすね……」
アーレックは二人に走り寄り無事を確認する。
「二人共、大丈夫!? 怪我とかしてない!?」
「ええ、私達は大丈夫」
イオリは地面に突き刺さったままの自分の剣をj回収する為、バスタード・ソードに歩み寄る。
「ん? これは……」
其処の地面には三つの黄色く明滅する球と 黒い布様な物が地面に落ちていた。
「どうしたの? イオリ」
「こんな物が落ちてたっす」
アーレックは目を丸くして驚く。
「それは! 死界の球と闇の羽衣!」
「へーこれが死界の球と闇の羽衣っすか……」
イオリはそれらを拾い上げる。
「素手で触って大丈夫なの、それ?」
「うん、それは大丈夫。 呪われた類の物じゃあ無いから」
死界の球はそのままでも強力な魔力動力源にもなるが、とある素材を組み合わせる事で死者を生き返らせ、死霊ですら生者に換える凄まじい能力を持つ、魔導の道具と言うより神器と呼ぶに相応しい道具となる。
闇の羽衣は壁や扉等の物質のみならず、上級結界すら通り抜け出来る布である。
ただしこの闇の羽衣、素材や魔導の道具等では禁忌指定されているので持っているだけで犯罪者となる。
その為、手に入れた場合は直ちに冒険者ギルドもしくは職人ギルドに提出する必要がある。
その代わり、莫大な懸賞金が渡されるので損をする事も無い。
今回の場合は死の導きの討伐で手に入れたので冒険者ギルドに提出する必要がある。
まあ、結局は保管管理を行うのは職人ギルドの役目なので冒険者ギルドから職人ギルドに引き渡されるだけの話なのだが。
その事をアーレックはオフィーリアとイオリに説明する。
「ちなみに懸賞金は大金貨六枚だよ」
「大金貨六枚!? すっ、凄いわね……。 三十年は遊んで暮らせるわ……」
「三等分しても大金貨二枚。 僕達の冒険者経歴だと破格だね」
「何に使おうかしら!」
「その前に村の皆に死の導きを討伐した事を伝えるのが先っすよ! オフィーリア」
「そ、そうね! それじゃあ教会に行きましょう!」
三人は連れ立って教会に向かい、死の導きを倒した事を知らせた。
最初は避難していた村の住人はイオリ達を疑っていたが、教会の神官とライアンに死の導きの討伐部位を見せると両者は村人達に真実である事を声高に宣言して其処で初めて村人達に信じて貰えた。
そして、漸くベルン村は平穏な日常を取り戻した。
イオリ愛用の剣。まだ名前は決めてません。




