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第二十三話 懐かしきもの

 それは雨がしとしと降っている平日の午後。


 イオリは店に置く武具の見本を木で作っていた。

 ヴェデルの奥義書に載っていた加工系の無属性珠紋術『変形加工(メタモル・クラフト)』で木や石や金属などを自由に変形させる技術でだ。


「……ごめんなさい……イオリちゃん。 私のせいで……」


「それは言いっこ無しっすよ、レム。 それに悪いのはあの豚野朗なんすから。 レムが謝る事なんて全然ないっす」


 イオリは穏やかな顔でレムに言い聞かせる。 冒険者資格を停止されただけなので、そんなに焦る必要は今の処無いからだ。

 レムはイオリの自分を(いたわ)る優しい言葉が辛かった。

 それ以上にイオリが自分を野蛮な男から助けてくれた事が嬉しかった。


「イオリちゃん……ありがとう」


 二人がいい雰囲気になりかけた時、店の扉を開ける音と鈴の音が聞こえた。

 直後、耐水性のフード付きのローブを羽織った、二人の若い男女が店の中に入って来た。


「あ、いらっしゃいませ。 どういった御用件でしょうか?」


 男女はローブを脱いで素顔を晒す。

 二人共、人種族でレムと同じ年齢位だ。

 装いは少女は革鎧、少年は急所を最低限隠す部分鎧に背中に大剣を背負っている、見るからに冒険者だ。


「……この槍って直せますか?」


 そう言って灰色の髪、翡翠の瞳の少女は折れた槍――穂先が黒曜石で出来た、柄が半ばから折れた槍を差し出す。


「イオリちゃん、お願い」


「ん、わかったっす。 どれどれ……これは!?」


 イオリはその槍を見て驚いた。

 その槍は嘗てイオリが八歳の頃、暇つぶしに作った黒曜石の槍だった。


「この槍って……もしかしてベルン村の近くの森の奥で見つけた物っすか?」


「どうしてそれを!?」


「どうしてもこうしても、この槍作ったのはおいらで、そこの森でおいらの武術の師匠が無くした物っすよ!」


 少女は慌ててその槍を再び仕舞おうとする。


「あはは、別にいまさらその槍に未練はないっす。 それに必要ならまた自分で作ればいいんすから。 それで、要件はその折れた槍を直す事っすか?」


 少女は折れた槍を仕舞うのを止める。


「直してくれるの?」


「核である黒曜石の穂先の刀身が無事っすから直せるっすよ」


「いくら位掛かります?」


「これなら柄を取り替えるだけで済むんで大銅貨三枚で行けるっすよ」


「え!? それ位で直るんですか!? 僕達、色んな専門店を回ってみたけど、直せないか、直せても金貨十枚以上するって言われましたよ!?」


 と、少年が驚愕した声を上げる。


「んな阿呆な。 子供が作る槍っすよ……て!? プラス修正二十五!? たっけえ~たっけえ~! しかも魔導の技三つも覚えてるし! そりゃ普通それ位するっすよ!!」


「やっぱり、お高いんですか!?」


「いや、さっきの値段でいけるっすよ。 ただ、姉ちゃん、これ使うの姉ちゃんっすか?」


 少女はこくんと頷く。


「う~ん、ちょっと構えてみてくれるっすか?」


 少女はイオリに言われた通り構えて見せた。

 その構えは槍と言うより、長剣を扱う構えだ。


「やっぱり。 姉ちゃん、元は片手剣――長剣使いしょっ」


「なんでわかったの!?」


 驚く少女。 構えを見られただけで今まで扱ってきた武器の種類を判別されたのは初めてだ。


「構えを見ればわかるっすよ! ただ、それじゃあまた槍が折れちまうっすよ~」


「何とか成りませんか?」


 イオリに懇願する少女。 少女としては何とかして直して貰いたそうだ。


「一つ聞くっすけど、この槍に(こだわ)る理由って何なんすか?」


「そりゃあ、この槍はプラス修正が高いから下級の魔物や魔族なら一撃だし! それに何より折角、魔導の技を三つも覚えてるのに今更変えられないわ!!」


 少女は興奮してイオリに詰め寄る。


「さ、さいですか……でも、逆に言えばそれさえ無ければ槍に拘らないと言う事っすよね?」


「そうだけど……」


 その言葉を聞いたイオリはニヤリと笑みを浮かべる。


「だったらこの槍、大銀貨二枚とその他条件で性能を殆ど引き継いだ長剣に作り直せるっすけど、どうするっす?」


「そんな事が出来るの!?」


 目を剥き驚愕する少女。

 驚くのは当然だ。 なにせ槍を全く別の武具、長剣に作り変えると言うのだから。


「出来るから提案してるんす」


「うーん。 お金は貯金してるのを半分出せばいいとして、条件って何なの?」


「オフィーリアって冒険者っすよね? おいらが武具や防具なんかの素材集めをする時、出来る限り協力して欲しいっす」


「確かに私は冒険者だけど……条件ってそれだけ?」


 再度、イオリに確認する少女。


「それだけ」


 きっぱりと言い切るイオリ。


「でも、『性能を殆ど引き継いだ長剣』て、どんな物なの?」


「それは……て感じの長剣っす!」


 イオリはオルフィーナに耳打ちして説明する。


「よし! のった! あっ! そうそう! 私の名前はオフィーリア。 で、こっちが相棒の……」


「アーレックです。 よろしく」


 オフィーリアの言葉を受け継ぎ名乗る礼儀正しい、くすんだ金の髪、碧眼の少年。 何処か洗練された雰囲気を(まと)っている。


「おいらはイオリ。 よろしくっす。 んじゃあ、早速仕事に取り掛かるっす! あっ! 明日の昼頃には出来てるんでその頃にまた来て下さいっす!」


「は、早いわねえ……大丈夫なの?」


 困惑するオフィーリア。 鍛造鍛冶でも一週間は軽く掛かるので心配するのは当たり前だ。


「大丈夫っす! 剣自体は今日中に出来上がるっすよ! 残りの時間は剣の機能の調整時間っす!」


 そう言ってイオリはオフィーリアの長剣作製の為、奥の工房に引っ込んだ。




――翌日の昼 ヴェデル店――



 オフィーリアとアーレックの二人はイオリに言われた通り、昼過ぎにヴェデル店に遣って来た。

 カウンターの椅子に座っていたレムが二人を出迎える。


「いらっしゃいませ! あ! オフィーリアさんにアーレックさん。 品物なら出来てるそうですよ。 イオリちゃ~ん! オフィーリアさんとアーレックさんがいらっしゃいましたよ!」


 イオリは方手に何かを持って、店の奥から出て来た。


「はいよ! いらっしゃいっす、二人共。 これが例の剣っすよ」


 そう言ってイオリはオフィーリアに鞘も刀身も無い剣の柄を見せた。


「えっと……刀身が無いんだけど……」


 困惑するオフィーリアとアーレック。 刀身が無い剣など聞いた事がない。

 しかし、イオリ平然と説明を続ける。


「これは刀身が出るように念じれば出てくるっすよ。 こんな風に……」


 そう言うと刀身が柄から伸長して出てきた。


「うわっ! 凄い!」


「更にこういう事も出来るっす!」


 イオリは剣を見本の武器を作っていた、木の板に向かって切っ先を向ける。

 すると刀身が十二分割されて刀身の心に仕込まれたロープが伸び切っ先が飛んで行き、板を突き刺し砕いたら再び縮んで分割されていた刀身が互いにくっ付き元の剣に戻る。


 剣の刀身はチタン鋼を使用し、剣の心にはアース・ワームの伸縮自在の触手を加工した物を仕込み、十二分割された一つの刀身を連結させた。

 鍔元には強度の補強の為にミスリルの粉末を加工術で融合させた黒曜石の穂先を真円に変形させて嵌め、柄を作った。 後は剣の機能を調整して作業は終了である。


 これらの複雑な作成作業をイオリはオフィーリアとアーレックに宣言した通り予定の期日に完成させてみせた。


 オフィーリアとアーレックは互いに顔を引き攣らせて笑うしか無かった。 イオリから剣の機能について事前に説明を受けていたとは言え、実際に目にしたら想像以上の物だった。


「……これが、蛇腹剣……クリス・ナーガ……」


 この剣――クリス・ナーガを作る事に決めたのは槍が覚えた魔導の技にある。

 一つ目がイオリがリザード・ドラゴンを倒した時に覚えた投擲時、標的の自動追尾に命中すれば大ダメージを与える技。

 二つ目がオフィーリアが拾った時に覚えていた念じれば持ち主の元に戻る技。

 三つ目がオフィーリアが使用した時に覚えた、空間に作用して柄が自由自在に伸縮、曲がり、狙った場所に命中させられる技。


 この三つの魔導の技があり、初めて作る事が出来る剣だ。


 もし、これの槍の技を刻印珠紋で再現しようとすれば複雑になり、刻印を崩さないように前もって加工するなど、手間もそれに掛かる時間も多く必要でお金もその分高くなる。

 しかし、魔導の技を覚えた黒曜石の穂先の核の部分を調整して使えばお金は殆ど掛からない。


「プラス修正はちゃんと二十五を保持してるっすよ。 と言う訳で、まずは大銀貨二枚を頂戴するっす」


 言われてオフィーリアは懐から財布を出して大銀貨二枚を取り出し支払う。


「毎度ありっす! いや~、オフィーリアがおいらの初めてのお客様っすね!」


「えっ!? 初めてって……」


「おいら、今年で十五の成人なんすよ。 で、鍛冶師と武術の修行も卒業して昨日からこの店で職人として働き始めたんす。 其処でお店に遣って来たのが、おいらが子供の頃に作った槍を持って来たオフィーリアだったと言う訳っす。 不思議な事もあるもんすね」


「そうなんだ。 僕たちは二人共、十七歳なんだ。 それにしてもイオリって鍛冶の腕がいいんだね。 もしかして魔導鍛冶師なの?」


「いんや~、おいら魔導機工師っす!」


「「へ!?」」


 アーレックとオフィーリアは間の抜けた声を出す。


「ちょ、ちょと待って!? 魔導機工師って本当なの!?」


「ホントっすよ。 ほら!」


 イオリは首に下げた金色のタグを見せる。


「……ホントだ。 私、初めて見た」


「僕も……。 じゃあ、イオリって養成機関に行っていたの?」


「養成機関って、何すか?」


「えっ!? 知らない!? 養成機関は国や職人ギルドで認められた職人達が集められ、そこで最先端の職人の知識や技術、職種に関係する珠紋術や刻印珠紋を学ぶ国や職人ギルドがお金を出資している学校だよ! 普通、其処でしか魔導機工師になれないはずなんだけど……」


「へえ~、アーレックって物知りなんすね! おいら知らなかったっす!」


「「私も!」」


 イオリ、レム、オフィーリアが揃ってアーレックの知識に関心する。

 そんなイオリ達の態度を余所にアーレックは頭痛のする頭を抱えて悶絶していた。


「知らなかったて、じゃあ、どうやって魔導機工師になったの!?」


「太古の砦跡――今はギガントスの砦の巨人族に弟子入りしたっす!」


「太古の砦跡……の巨人賊の弟子? ……確かにそれなら巨人族にさえ認められれば魔導機工師になれる? いや! でも、あそこの巨人族は閉鎖的で他種族からは弟子を取らないはず! どうやって弟子に成ったの?」


「おいら孤児なんすけど、おいらを拾って育ててくれた保護者の人が其処の里長と知り合いだったんで弟子にして貰えたんす」


「その人凄いよ!? 巨人族に弟子入りさせて貰えるコネって、ちょっと想像出来ないよ!?」


 目を剥いて驚愕するアーレック。 自分の知る常識とは一体何だったのかと苦悩する。

 そして出た答えは『イオリは自分の常識の外に居る存在である』と、言う結論に達っした。 アーレックはイオリという少年はそういう者だと思い込む事に決めた。


 オフイーリアはもう一つの条件、素材集めの事を思い出しイオリに質問する。


「ねえねえ、素材集めっていつ行くの? なんだったら明日からでも付き合うよ?」


 イオリは苦笑いしてオフィーリアに冒険者に成った早々、ギルドで絡んできた冒険者からレムを助ける為に暴力沙汰を起こし、一ヶ月の免停を喰らった事を説明する。


「冒険者に成ってイキナリ免停喰らった新人ってイオリの事だったの!?」


「そう言う訳で、素材集めは一ヶ月後を予定してるっす」


「それじゃあ、素材集めの時は誘ってね! 私達、『精霊の腰掛け亭』って宿屋兼食堂を定宿にしてるから其処に来てくれたらいいから。 それまで他の仕事してるわ」


「その時は頼むっす!」


 オフィーリアとアーレックは一ヶ月後の再開を約束してイオリと別れ、オフィーリアは早速新しい剣――クリスナーガの扱いの練習を、アーレックはその練習に付き合わされるのであった。


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