第二十一話 住まい探し
新年あけましておめでとうございます。
今年も宜しくお願いします。
イオリは、ケサラパサラの街の手前の森に降りた。
フェリアールが人目に触れて騒ぎにならないようにだ。
一応、フェリアールには盗難防止措置としてイオリの持つ起動キーを使用しなければ動かないようにしてあるが、最悪の場合、フェリアールに仕込んだ刻印珠紋を利用した遠隔自爆装置で木っ端微塵に吹き飛ばす事も可能なようにしてある。
ただ、自爆装置の起動は飽く迄も最終手段であるが……。
フェリアールから降りたイオリは、フェリアールを異次元倉庫に収納する。
この異次元倉庫を利用した住居を作ろうとしたが、この中には生存に必要な空気が無く、中に居続けると酸欠でやがて窒息死してまう。
その上、この中でも時は普通に流れるので食料の保存にもあまり適さない。
大きくて、大量な荷物を手軽に持ち運び出来る『倉庫』としての役割しか現状では果たせない魔道具だ。
それでも十分便利ではあるが。
この異次元倉庫は首飾りに冒険者が身につけるようなタグ状の板に偽装してあり、ぱっと見区別がつかないようにしてある。
盗難予防と人に注目されるのを避ける為だ。
これでケサラパサラの街に入る準備が整ったイオリは森から街の正門に通じる街道に向かって歩き出した。
――ケサラパサラの街――
ケサラパサラの街の正門に着いた。
シャーランに連れられて二人で潜ってきたが、今日は初めて一人で潜る。
イオリは街の門を守る守衛小屋の前を見ると顔見知りの冒険者を見かけたので声を掛ける事にした。
「おっちゃん! 久しぶり! 元気だったすか!」
「よう! イオリじゃねえか! 久しぶりだなあ! 俺は少々疲れ気味だ……」
冒険者は目の下に隈が出来ている顔で苦笑いしながら言った。
「どうかしたっすか?」
「つい最近、この街に指名手配の賊が侵入してな。 強盗、殺人、女を誘拐、果ては放火までしやがって、やりたい放題なんだが犯人が中々捕まらないんだわ。 それで俺達、治安維持専門の冒険者が駆り出されてな。 四六時中目を光らせてんだけど、そのお蔭で仕事が忙しくてな。 家に中々帰れんのだわ」
「大変なんすね」
「処でイオリ、今日は一人でどうした? ヴェデル店のレムネリアん所に行くのか?」
「それもあるっすけど、おいら今日で丁度十五歳の成人なんす! だから、この街に住んで、冒険者しながら鍛冶師職人として働きに来たんす! で、今日から下宿屋のフレデリックさんってとこでお世話になる事になったんす!」
「下宿屋のフレデリックって……確か一昨日、強盗にあって放火された隣の家の貰い火で下宿屋は全焼しちまってるぜ!!」
「なっ! なんですって! ホントっすか!?」
冒険者の親父は苦虫を噛み潰した顔になり話しを続ける。
「ああ、 本当だ! 下宿人達はなんとか全員逃げ出せたんだが……フレデリックの老夫婦だけが逃げ遅れてな。 ……焼死しちまったんだ」
「なあーーーーーーっ!?」
頭を抱えて絶叫するイオリ。 目出度い門出の想定外のトラブルに困惑する。
「……それって、さっき言ってた賊の仕業っすか?」
「多分な。 なんせ男、年寄りは殺されてて、若い女は行方しれずの上、犯行現場に火を放って逃走。 手口が一緒だ」
なんて碌でもない事をしてくれたんだとその賊を恨むイオリ。
お陰でイキナリ今日から宿無し。
「で、どうすんだ? イオリ」
「……まずはシャーランさんのお祖父さん、冒険者ギルド支部長のホッポさんに会いに行って相談するっす。 『何か困ったことがあったら力になる』って言ってくれてるそうっすから」
困った時のコネ頼み。 こういう時、非常に助かる顔が広い偉い人。
「あっ! そのホッポギルド支部長な。 今、皇都で年に一度の冒険者ギルド定例報告会議に出ててしばらく留守なんだわ」
「ガ~~~~ン!?」
何という事でしょう! コネが吹き飛びました。 これではイオリもどうしようもありません。
「しかも今の時期、お前とおんなじ理由で街に若い奴らが押し掛けてるからな。 宿屋も一杯だろうから多分、部屋取れんぞ」
冒険者の親父はイオリの精神に痛恨の一撃を与えた。
「ガガ~~~~ン!? お、おいら、どうすればいいっすか!?」
動揺して右往左往するイオリ。 流石に想定外の不幸な事態が続きすぎて『疫病神でも取り付いたか!』と自身を疑ってしまう程である。
「まあ、僅かな希望に縋って宿屋で空いてる部屋を探すか、知り合いに訳を話して泊めてもらうかだな」
肩を竦めて正論を言う冒険者の親父。
「ちなみに、俺ん処にゃ部屋はないからな」
無慈悲な一言で止めを刺す親父。
「ガガガガ~~~~ン!? 会話の先回りされたっす!?」
こうなれば目の前に居る人物を頼ろうとしたがその考えが読まれてしまっていた。
「まあ、頑張って探せや」
「うわ~~~~ん! 人でなし~~~~!」
と、冒険者の親父に向かって叫びながら街中に駆けて行き、あっと言う間に姿を消すイオリ。
「誤解されるような事叫ぶんじゃねえ! て、速えな、おい!!」
冒険者の親父はイオリの消えって行った街中を呆気にとられて見つめていた。
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イオリはどうしようかとしばらく思案していたが、取り敢えず街中の宿泊施設を全て当たってみた。
が、結果は予想通りの空振り。 空いている部屋は一つも無かった。
そうこうしている内にいつの間にやら夜の帳が下り、深夜になっていた。
「どうするっすかね……今夜は何処かで野宿をするか、もしくはシュルツさんの処に訳を話して泊めてもらうか……。 でも、親しき中にも礼儀ありっす。 こんな夜中に訪れるなんて相手に失礼だし迷惑っす。 でもでも、腹減ったー!」
と、言いつつもいつの間にかシュルツとレムネリアが住んでいる店、ヴェデルに足が向いていた。
いかんいかんと思い、来た道を引き返そうとしたその時、
「いやーーーーーーっ!!」
店の中から少女の叫び声が聞こえた。
「この声は!?」
イオリは慌ててヴェデルに駆け込んだ。
すると其処には、服を引きちぎられて上半身裸のエルフの少女が男達に押さえつけられ、布を猿轡代わりに口に入れられ喋れなくされ、ロープで両腕を縛られたエルフの少女の姿があった。
「!?」
その光景を見たイオリは、頭の中のスイッチが切り替わり、戦闘態勢に入った。
まず、押さえ付け少女を縛り上げている男達を闇属性の珠紋術『影の拘束』で動きを封じる。
「なっ!? 何だ、一体!?」
「じゅ、珠紋術だ!!」
次に男達に闇属性の珠紋術『麻痺』を打ち込む。
「「「ぴぎぃっ!?」」」
男達は豚のような鳴き声の悲鳴を上げて、泡を吹いて倒れる。 だが、その中に一つ蠢く影があった。
「まさか!?」
そう! 一人だけイオリの行使した珠紋術から逃れた男が居たのだ。
男は素早くエルフの少女に走り寄る。
しかし、そうはさせまいとイオリは男に腰に差していた短剣を回転させて投げ付けた。
男はそれを鞘から抜いた短剣で弾こうとするが、
「ぐわあ!?」
イオリが投げた短剣は男の短剣を叩き割り、そのまま男の片腕を切断した。
「くおうぅうう!!」
「観念するんすね。 その傷じゃあ、もう戦えないっすよ。 今なら治療すれば腕はくっ付くっす。 ただし、今までの犯罪行為で死刑は確実っすけどね」
イオリは冷めた目で男を見つめた。
だが男は、切断された腕から血を流しながら尚もイオリに向かってくる。
イオリはそれを蹴りで応戦しようとしたが、男の体が突如、強い光りを放つ。
「なっ!? 目眩ましか!」
イオリは咄嗟に感覚を総動員して男の気配を追った。 しかし、男の気配は光が収まるのと同時に消えた。
直ぐに無属性の珠紋術『探査』で追ったが、捉えることは出来なかった。
男がさっきまで、居た場所を調べると、何と血痕が途中で途切れていた。
「転送系の術? ……いや、消えた時間を考えると刻印珠紋か魔道具関係っぽいっすね」
「ん~~~~~~っ!!」
「おっと、いけない! 女の子を放ったらかしだったっす! 大丈夫っすか!!」
イオリはエルフ少女の口の布を取り除いた。
「助けてくれてありがとうございます!! ……て、あれ? もしかして……イオリちゃん?」
「そういう君はレムネリア!?」
イオリはビックリ仰天して飛び退る。
今のレムネリアは第二次成長期を終え、見事な大輪を咲かせていた。
短髪だった白金の髪は腰まで伸びており、紫の濡れた瞳は星のような輝きを宿し、白い肌は子供の頃より尚一層白く、その美貌は何処か妖艶さを秘めており、体の線は服の上からでもわかる見事な曲線を描いている。 特に特筆すべきは胸! 胸の形はロケット型と呼ばれ、とても十七歳のものとは思えぬ大きさだ!
イオリは慌てて短剣を回収し、レムネリアのロープを断ち切る。
「だ、大丈夫っすか!? 何かされてないっすか!?」
「大丈夫! 服を破かれただ…け……」
そしてて初めて上半身が裸である事を思い出したレムネリアは顔を真っ赤に染めてイオリから慌てて背を向ける。
そうしている内に騒ぎを聞きつけた人々が店の周辺に集まってくる。
イオリは野次馬に賊を捕らえた事を話し治安維持専門の冒険者を呼んでくれるように頼む。
その間にレムネリアは破れた服を着替えに部屋に戻った。
やがて治安維持の冒険者が遣って来て事情をイオリと被害者のレムネリアで説明する。
「で、イオリ、お前がこいつら捕まえたのか!? 凄いな!? こいつら高額の賞金が掛けられてんだぜ!!」
今朝、門番をしていた冒険者の親父『ベン』が感嘆の声をあげた。
「いや、一人逃したっす。 しかも、転移系の刻印珠紋か魔道具を使ったみたいっす」
イオリは切断された腕と血痕を指差し説明した。
「おいおい!? だとしたら連れ去られた女達は!」
「とっくに昔に何処かに移送済み……て、とこっすね。 まあ、後はおっちゃん達の仕事っす」
「そうだが、イオリ。 以前から言おう言おうと思ってたんだがな……俺はまだ二十六だ」
「「「えっ!? 嘘っ!!」」」
イオリとベンの同僚は一緒になって驚く。
「ちょと待てい!? 何でお前らまで驚く!?」
ベンは同僚達に向かって怒鳴り付ける。
「そりゃあ、だってなあ……」
「その顔じゃあ、てっきり四十路はいってるものと思いますよ……」
「うるせえ! 老け顔なんだよ! ほっとけ! オラ! こいつらしょっ引くぞ!!」
「「「はいよ!」」」
賊達はベンとその同僚達がギルド所有の留置場に連れて行き、逃げた賊の残した腕は回収されていった。
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深夜、イオリはレムネリアの住まいであるヴェデル店の一階、居間で食事を摂っていた。
「むぐむぐ、美味いっす! 今日一日、昼からなんも食ってなかったから助かったす! ありがとうっす!!」
レムネリア――レムは丸眼鏡を掛け、髪を後ろで縛ってポニーテールにして、苦笑いしながらイオリに食事を提供する。
「そうなんだ。 ……でも、お金持ってなかったんですか?」
「おいら、レムを襲ったあいつらのせいで下宿の予定先だった処が燃えちゃったんす。 お陰で昼も夜も飯を食わずに宿屋めぐりをする羽目になったんすよ! しかも、宿屋は皆何処も一杯。 空き部屋が無かったんで途方に暮れてたら、いつの間にか足がこの店に向いてて……で、レムが連れ去られそうになった処に出くわしたって訳っす! ……そう言えば、シュルツさんはどうしたっすか? 留守か何かで居ないんすか?」
レムは悲しそうな顔をして俯き加減でイオリに語る。
「……御祖父様は、先月無くなったんです。 老衰でした……」
「そうだったんすか…….。 おいら、此処二、三年、忙しくて会いにこれなかったから知らなかったっす……」
「そうそう! どうして、忙しかったんですか! 私、イオリちゃんが会いに来てくれなくて寂しかったんですよ!!」
レムは唇を尖らせ頬をプクーと膨らませて拗ねる。
「あはははは……。 ちょっと鍛冶師の修行先で大仕事が立て込んでて会いに行く暇がなかったんす……。 でも! おいら、その甲斐あって、鍛冶師の上級職、魔導機工師に成れたっす!」
目を見開き驚くレム。
「凄い! 魔導機工師なんて千人に一人なれるかどうかなのに! 本当なんですか!?」
「えっへん! これが目に入らぬかっ!」
イオリは首に掛けてある金色のタグをレムに見せる。
それは紛れもない、魔導機工師の証だった。
「本当だ!? 凄い凄い! 本物の金色のタグ、初めて見ました!!」
「そう言えば、レムは今、何してるんすか?」
「私? 私は御祖父様の後を次いで、この店を経営してるんですけど……中々、上手く行かなくて……。 そしたら、今日、イキナリ誘拐されそうになったんです。 もう、ふんだり蹴ったりです!!」
不貞腐れるレム。
イオリは苦笑いしながら、
「お互い、大変すねえ」
と、互いの労を労う。
「そう言えばイオリちゃん、住む所が無いんでしょ? なら、家に住みませんか? 家なら部屋も空いてるし、機工魔道具の工房もあるし、作った作品や商品を私が引き取って、この店で売りますよ?」
さり気なくイオリを勧誘するレム。
祖父が無くなってから、祖父の伝を頼りに腕の良い職人を探していたのだがこれが中々見つからない。 見つかっても、自分の体をイヤラシイ目で見て性的関係を強要する輩ばかりだ。
それが偶然、幼馴染が腕の良い職人、しかも、魔導機工師として戻ってきた。
その上、凶悪な賊を一瞬で倒してしまう強さを身に付けて。
それにイオリになら関係を迫られてもいいかな……とか、ちょっと思ってみたりもするレムであった。
「それは助かるっすけど……ホントにいいんすか?」
「はい! 構いません! 遠慮しないで下さい!」
少し思案したイオリはレムの家、ヴェデル店に厄介になる事に決めたのであった。
第二章の開幕です。
イオリのトラブルまだまだ続きます。




