素直な脅迫
ああ、やはり気づきましたな。
お姉さんのお姉さんならあり得る話ですな。
なので俺はスッと闇から出るように隠ぺいを解除して現れるのですな。
ですが素顔などはまだ明かさないようにフードを深く羽織っておきますぞ。
「あら、本当に居たのねーいるような気はしたけれど」
「元より話をするつもりだったのですぞ」
「あらあら……私に何か御用?」
気楽な調子ですが警戒度が非常に高いのはこれまでのループからお姉さんのお姉さんの事を知ればわかるのですぞ。
お姉さんと言う陽気な一人称が抜けているのが証拠ですぞ。
どう答えるのが良いでしょうな。
事前に考えてはいましたが一番、成功しそうな態度で行きましょう。
「そうですな……荒唐無稽な話にはなりますが単刀直入に言うと遠洋に漁に出ないで欲しいですな」
出来る限りに穏便に、且つ虚言はほぼ混ぜずに真摯に答える。
お姉さんのお姉さんは演技を見抜くのがとても上手なので嘘より素直な態度の方が受け入られると踏みましたぞ。
「それは何故かしら?」
「死ぬほど後悔する未来が待っていると……言うと脅しになってしまいますな。素直に白状すると村と町の船を沈めたのは俺ですぞ」
「そうでしょうねー、とは薄々思っているわ。なんでこんな事をしたのかしら、教えてくれるのかしらね?」
「お姉さんのお姉さんは、波と呼ばれる災害を知ってますかな?」
「津波……かしら?」
やはり直面しないと過去の伝承程度でピンと来ない状況なのですな。
「この世界で語られる予言、世界の危機の波と呼ばれる出来事ですぞ」
「あら、そうなの」
「ですぞ」
「それがどうしたのかしら?」
「約三日後、いえ、もう二日に差し掛かりましたな。それがこの地域を襲いますぞ。であると同時に波の影響で海が荒れに荒れますぞ」
お姉さんのお姉さんは俺の話を聞いて何度も瞬きしてますぞ。
この反応は間違いなく、何を言っているんだ? と言う顔ですな。
「そして予言の通り、波から魔物が現れて溢れこの地域の人々に襲い掛かり多大な犠牲者が出るのですぞ」
俺も召喚前の波に関しては聞いた話と被災場所のこの村と町しか知りません。
どんな魔物が出現したのかは聞きましたがな。
ゲームの知識と同じ魔物だったとは思いますぞ。
「大変ねー」
「その現場にお姉さんのお姉さんは、漁に出たら居合わせられませんぞ? そうして、一緒に漁に出た者たちを含めて大事な方々が亡くなって、とても後悔することになります」
「あらー」
少しばかり反応が薄い、いえ……信じがたいという態度でしょう。
もちろんこの程度で挫ける俺ではありません。
「どうもお姉さんのお姉さんはとても大切な方々がいるご様子。守るためにも漁には出ないで欲しいと素直にお願いに来たのですな」
「ふーん……どうしようかしらね」
「もちろん、船を破壊した事に関して謝罪はしますぞ。事が終わった際には賠償もしましょう」
「ここでお姉さんがあなたを捕らえるって事は?」
「出来ますかな?」
サッとお姉さんが銛を片手に構えたので俺も槍を出して構えますぞ。
「……」
ジリ、ジリ……とすり足で見つめ合いますな。
思いますがお姉さんのお姉さんって本当に普通の漁師なのでしょうか?
それほどに腕が立ちますし、並みの冒険者や傭兵よりも強い方ですぞ。
何かありそうなのですが、何もわかってないですぞ。
「中々骨が折れそうね。あなた」
「誉め言葉ですな」
サッと、お姉さんのお姉さんが俺の実力を察したみたいですぞ。
少なくともこの時のお姉さんは限界突破はしていないので40程度、それでも相当の能力値をした方ですぞ。
「漁に出て欲しくないと言ってもねー……お姉さん達の都合ってものもあるのよ?」
「エクレアの親……確かセーアエットでしたかな? メルロマルク内の立場が危ういという話でしたな」
「そうそう。お魚を持って来れないと大変らしいわよ?」
「その件に関してはまだ猶予があるのではないですかな? あか……ぶ……王女が帰還するまでまだ時間があるはずなので猶予は十分なはず。そもそも目当ての魚を持って帰る期日までしっかりとあるのですかな?」
「生き物だからそこまで決めていないわね」
そもそも赤豚の帰還は無いので猶予は無限にありますぞ?
波が発生したらそれ所では無いですぞ。おそらく叶ってないのではないですかな? どのループでもこの魚の調達は。
「ならば後二日程、何か理由を付けて先延ばしにするのは難しくないのではないですかな?」
「例えば?」
「そうですな。この後、お姉さんが出発前に酒を飲んで強引に漁師たちを全員二日酔いにしてしまい……後日に延期にするとかですな」
お姉さんのお姉さんならば容易い事でしょう。
それほどまでにお姉さんのお姉さんは酔い潰す事が出来る人材ですぞ。
「あらー……さすがに自粛しようとしていることをヤレというのねー」
この反応はあまりよくないと感じますぞ。
お姉さんのお姉さんの人となりをある程度知っているからこそですな。
「周囲に止められるだろうとの考えもありますが、そのまま飲み続け、出発直前にお姉さんが二日酔いで辛いと言えばある程度は時間稼ぎは出来ると思いますな」
「そんな事をしたらお姉さん怒られちゃうわー」
いやんと悪乗りをするお姉さんのお姉さんですが目が笑ってませんぞ。
……やはりお義父さんじゃないと交渉は難しいですぞ。
第二段階をチラつかせますな。
「……俺は今回の交渉に関して信じて貰えない事を前提に動いてますぞ。なのでこれは実質、忠告であり命令に近い自覚は十分ありますな」
「従わなかったらどうするのかしら?」
サッとお姉さんのお姉さんの間合いに一瞬で入り込んで目の前に槍を突き出しますぞ。
本能的に体を反らそうとするお姉さんのお姉さんはLv差はあってもやはり相当の達人であるとこれだけでもわかりますな。
お姉さんのお姉さんの目が細く睨みを効かせる眼光のまま距離を取ろうとしましたが俺の速度に追いきれないのですぞ。
もちろんこれは警告ですな。
「わかりましたかな? 警告なのですぞ」
「……あらー」
どうしたものかとお姉さんのお姉さんが考えこんでますぞ。
「この槍に仕込まれた毒で時間まで眠って貰う……という事になりますぞ。ああもちろん信じたふりをして村の者たちに報告しても結構ですぞ。そうなったら村の者たち、いえ……この領地の者たちすべてを同様に処理するだけなのですぞ」
俺の力ならば騒ぎは大きくなるでしょうが出来なくはないはずなのですぞ。
それほどまでに勇者としての力は強大ですからな。
「なんでそこまでするのか教えてくれるかしら?」
警戒度を最大値まで上げたお姉さんのお姉さんが尋ねて来ますぞ。
信じることは出来ない。けれど理由は知りたいという顔ですな。
これまでのループで俺が未来から来たと事件が起こる前に素直に言って成功した事はありませんぞ。
未来から来たというのはそれだけ信じがたい出来事なのでしょうが、敢えて言う他ありませんな。
「未来から来たからと言って信じないのは分かってますが、それでも言いますぞ。未来から来たのですぞ」
「あらー……じゃああなたは一体何者なのかしらね? 違うわね。その槍を持ってお姉さんよりも遥かに強いその様子、伝説の勇者って事かしら?」
「否定はしませんぞ」
槍を突き付けられたお姉さんのお姉さんは警戒の目をしながら俺を見つめてますぞ。
「お姉さんは未来でこの事を酷く後悔し続けていた。もしもあの時、あの場所に居たらと……その機会を俺は幸運にも得たからこうして妨害をしているのですぞ」
じーっと俺とお姉さんのお姉さんとで視線が交差し続けるのですぞ。
体格の大きなお姉さんのお姉さんですが組み伏す事は容易いのですぞ。
「あなたはどうやら……お姉さんが対処できるような相手じゃないわねー」
降参とばかりにお姉さんのお姉さんは両手を上げますぞ。
だからと言って油断はできませんぞ。
諦めが悪いのがお姉さんのお姉さんでもあるのですからな。




