脅迫状
「勇者様って人なら素直に領主様に伝えたら良いじゃないの」
お姉さんのお姉さんは出来る限りの情報を俺から聞き出そうとしてますぞ。
本来なら話さない方が良いのでしょうが……逆に素直に言うべきだと俺のお姉さんのお姉さんとの経験が教えてくれますぞ。
「言って信じて貰えますかな? 今現在ですらも信じて貰えない状況ですぞ?」
「あらー、だからと言ってお姉さんを脅すのはどうなのかしらー?」
「とりあえずに声を掛けたのですぞ。信じてもらえないなら次は領主に説明をしに行きますぞ。もちろん失敗したら波まで動かない様にするだけですぞ。話の続きとなりますが、俺が暴れた所為でメルロマルクの貴族連中に大義があると思われたくないので最終手段なのですぞ」
「そうねーあなたが仮に勇者だとしたらここの人達を処分しようと動いているように見えてしまうわね」
お姉さんのお姉さんが信じてはいないけれど話は合わせている。
そんな態度がヒシヒシと伝わってきますぞ。
ああ……お義父さん。お義父さんだったらどう交渉したら信じてくれるか教えて欲しいのですぞ。
『未来から来たと言って安易に信じる奴は居ないだろ。元より無理な頼みだ』
と、助けられなかった俺が傷つけてしまった最初の世界のお義父さんなら言いそうな言葉が浮かびますぞ。
『まあ……難しいよねーかといって諦める訳にもいかないし……元より説得は不可能かな』
優しいお義父さんも同様に困った態度でお答えしそうですぞ。
それでも諦めない俺を優しいお義父さんは褒めてくれている気がしますぞ。
ですが、記憶の中のお義父さん達が揃って教えて下さっている気がしますぞ。
お姉さんのお姉さんを説得しようとしているのは間違いは無いと。
例え失敗したとしても無意味ではないのですぞ。
「さっきあなたはお姉さんが二日酔いをしている振りをしたらいいと言ったけどー仮にお姉さんが動けなくても運ばれちゃうだけよー?」
くっ……確かにそこは漁師同士の連携で二日酔いが治るまで別の手立てで移動されてしまうだけという事なのですぞ。
「そこをどうにかして欲しいのですぞ」
「お姉さんに無理なお願いされても困っちゃうわーはっきり言って滅茶苦茶よー」
「そんなのわかり切っているのですぞ!」
『わー……逆切れー』
と、優しいお義父さんが仰っている気がしますが俺の考えなんてこの程度なのですぞ。
ですがお姉さんのお姉さんは先ほどよりも警戒度は下がっているような目をしてますな。
「あなた、随分と素直ねーお姉さんもびっくりするほどよ」
「下手な嘘は通じないので素直に言うのですぞ」
「素直すぎるわよーお姉さんが困っちゃうわ。抵抗しても密告してもお姉さん困っちゃうことになるし、どうしたらいいのかしら……」
うーん。とお姉さんのお姉さんは唸ってますぞ。
「強すぎる結束が悲劇を産むのですぞ」
元々エクレアの親と村の者たちの結束が強い所為で俺がこんなに困る事になっているのですぞ。
そのまま行ったらみんな死ぬのに団結するななのですぞ!
「こっちがどれだけ気を使って苦労しているのか理解してほしいのですぞ」
「本当、お姉さんが困っちゃうわよ」
冷や汗をお姉さんはしてますぞ。
「正直に言いますとお姉さん、どうにも未来での事も含めて普通の漁師と言うには強さが尋常ではないですし過去は大したことが無いと仰ってましたが何か隠しているような気さえするのですぞ」
「……あらー」
何故かお姉さんが俺の言葉にちょっとばかり笑って、自身の事を知らない事を喜んでいるように見えましたぞ。
いいえ、違いますな。
どことなく馬鹿にしているような視線さえ混じっているような気もします。
本当、何者なのですかな? 嘘でも吐いているのでしょうかな?
良いゾウやパンダ辺りに何も過去が無い事を誇っていたのが思い出されるのですぞ。
「脅迫で言うのならば言う事を聞かないならお姉さんの親代わりをしている方を人質にすると言ったら聞いてくれますかな?」
「……」
うお、滅茶苦茶お姉さんのお姉さんの視線がきつくなりましたぞ。
どうやら本当にお姉さん達一家を大事にしているのですな。
きっとお姉さんのお姉さんは路頭に迷っていた孤児とかでお姉さんの親が娘の様に大事に育てていたとかなのでしょう。
「義理の親で恩人なのでしょう。大事にしているのは分かっているからこその脅しですな」
「はぁ……本当に後二日、出航を遅らせれば良いのね?」
若干怒りの混じった口調でお姉さんのお姉さんは確認を取りますぞ。
「もちろんですぞ。何か方法があるのですかな?」
「穏便な手立てはないわねーお姉さんが出かけたくないと駄々をこねても村の漁師たちは行っちゃうでしょうし……もちろん、お姉さんが一番だけどね」
八方手ふさがりなのですぞ。
おのれ! エクレアの親! お前のカリスマの所為でどれだけ苦労するのか知って欲しいのですぞ!
「本当、お姉さんも困るのよ? ここまで素直に話した挙句脅してくる自称勇者様を相手にね」
「今後の活動もあるので俺が勇者だって事は伏せて欲しいですな」
「どこまで注文するのよあなたー……えーっと槍の勇者かしら?」
「名前は教えませんぞ」
記憶の中のお姉さんのお姉さんも困ったと言った顔ですぞ。
「そうねー……相談に乗ったって事でお姉さんも上手く行くかわからないけれど、こういう時に足止めするだけならこういう手があるんじゃないかしら?」
「何か手がありますかな?」
お義父さんならば閃きそうな名案をお姉さんのお姉さんは教えて下さいますかな?
脳内で誰かが人に考えを委ねるなと仰っていますがしょうがないのですぞ。
あんまりこういう策謀は苦手なのですぞ。
もちろん戦う手立てが無かったころは知恵を絞ったりしたのですが色々と出来るようになってからしなくなってブランクがあるのですぞ!
「あのね。貴方は村の漁師たちに漁に出て欲しくないんでしょ?」
「そうですな」
「本当だったらお姉さんがあなたを罠に掛ける為に誘導した方が良いのだけど……単純な戦闘力で難しいのが分かるからこうして答えているのよ? そこは分かってほしいわー……」
「罠に掛けたらこの領地の人々をみんな動けなくするだけなのですぞ」
「わかってるし、やめて欲しいから言ってるのよー? で、作戦はね……」
そんな訳でお姉さんのお姉さんを脅迫して案を捻って貰い、俺は次の作戦に出たのですぞ。
昔の勇者になる前の俺だったら考えたかもしれない手でしたな。
やっぱり脳筋になってない? と記憶の中にお義父さんに言われるような気もしました。
「お? サディナ、やっと帰って来たか」
お姉さんのお姉さんが秘密基地から村に帰って来てお姉さんの両親が声を掛けますぞ。
「ええ、帰って来たわ。それでなのだけどー……私の基地にこんな手紙があったのよ」
そう、お姉さんは俺に書かせた手紙をお姉さんの親に差し出しますぞ。
「手紙?」
サッと、お姉さんの親は手紙を受け取り広げて顔を強張らせましたぞ。
手紙の内容はこうですな。
拝啓、セーアエット領の者たちに告げる。
俺は船を沈没させた犯人だ。
漁に出ようとしているようだが、そうなったら人手が減った領内の者たちに何が起こるか保証は出来かねる。
こちらの要望はただ一つ、漁に出る事を禁ずる。
要望が受け入られる事を願うばかりだ。
どれだけ警備を厳重にしようと無駄だ。諦めろ。
とまあ、お姉さんのお姉さんの提案で脅迫状を書いてお姉さんのお姉さんに渡したのですぞ。




