第八十八話 「前世の既視感」
そして、もう一つのリヒト、リーブチームはというと。
「リヒト様〜、最近この通りに新しいお店ができたみたいですよ」
「え? そうなの?」
「はい、女子のクラスメイトから聞きました」
わざわざ性別を言う必要があるかっ! くそぅリーブめ、青春生活をエンジョイしやがってぇ…。
学校終わり、リヒトとリーブの二人は通学路であるいつもの大通りを歩いていた。
「クラスメイトが言うにはとても美味しいらしいです」
「へぇー」
しばらく大通りを歩いていくと、先導していたリーブが立ち止まった。 リーブの視線の先には煌びやかな外見のスイーツ屋だった。
おそらくはここが新しいお店なのだろうと、リヒトは直感した。
「巻物スイーツ屋? どういうお店なんだ」
「何やら王都の方から出店してきたようです、最新のスイーツらしいですよ」
「入ってみますか?」
「よし、入ってみようか」
二人は巻物スイーツ屋というお店に入ってみた。
大きな扉を開けて中に入ると、意外とこじんまりとした内装だった。
店の中に入るとすぐに甘い香りが漂ってきた。
新しくオープンしたお店だからかお店の中は人がたくさんいて、かなり繁盛していた。
「おぉ、綺麗な内装〜」
「新しくできたお店なので綺麗なのは当たり前ですよ〜リヒト様〜」
「いらっしゃい、ご注文はお決まりかな?」
目の前には大きなショーケースと一人の大柄かつ強面の男性。
ショーケースには、果物が見たことのない生地に巻かれていた。
だが、リヒトはこの生地で果物が巻かれたスイーツに見覚えがあった。
あれ、これ…クレープじゃぁ。
「リヒト様、このスイーツ、名前がクループと言うらしいですよ」
「クルースイープ、巻かれた果物という意味…ですね」
クレープじゃないんだ、でも見た目は完全にクレープだ、見覚えがある。
前世で、ターミナル駅には必ずと言ってもいいほどある! そしてその横にはなぜかパン屋が50%ぐらいの確率でセットで並んでいる!
そんなクレープ屋が、この世界にも…。
「ありがとうございまーす、あちらのお席でお食事なさってください」
リヒトはバナナのような果物が入ったクレープを、リーブはいちごのような果物が入ったクレープを選んだようだ。
「じゃあリヒト様、さっそく食べましょう!」
「うん、そうだね」
さて、味はいかがかな。
パクッ。
「お、おっ!」
これは…す、すごく。
「「美味しい!!」」
「リヒト様! すごく美味しいですね!」
「うん、これだよこれ〜」
「へ?」
はっ、しまった! つい前世でのクレープの味を思い出して、つい口に出してしまった!
「もしかしてリヒト様…」
「な、なにかな…?」
「僕に黙って既にここへ来ていたんですかぁ!?」
「——え?」
「僕とリヒト様の付き合いほどになると、リヒト様がはぐらかそうとしていても分かっちゃうんですよ〜」
「これだよこれ〜、これは絶対に僕とくる前に一度この店に来ている、ですよねリヒト様!」
「え、いや、違うけど…」
「え! 違うんですか!?」
「うん」
「そ、そんなぁ…」
なぜかリーブはショックを受けた。
何はともあれ転生者だってことがバレなくて良かった〜。
あ、でもこの世界の人達には転生っていう概念なさそうだな、だからバレない?
それっぽい理由をつけて解決しそうなんだよな、てことは別に無理にはぐらかす必要もないのかも?
* * *
「ブラハムよ、例の計画は順調か?」
「例の少年の件だろ? 順調だぞ」
「奴らの中の誰かとこの少年を対峙させれば確実に少年は飛躍的な成長するだろうな」
「期待が高まるなぁ」
「——失礼する」
「あっ、副隊長! お疲れ様です!」
「ローレンか、何の用だ?」
「ラハッポムさん…! 一応ローレンさんは副隊長なんですから、ちゃんと副隊長と呼ばないと」
「断る、副隊長呼びなんざ性に合わん」
「まったくもう…すみません、副隊長」
「ラハッポムはそういうやつだ、諦めろブラハム」
「——はい…」
「ラハッポムさん、自由人すぎますよぉ」
「それで、何の用でここへ来たんだ? 定期視察か何かか?」
「それもあるんだが、もう一つ用があるんだ」
「もう一つ? なんだ、言ってみろ」
「例の少年の動向について何だが」
「あぁ、なるほど」
ラハッポムは、机を蹴って飛んだ資料のうちの1枚をそのまま空中に浮かばせ、ローレンの手元に持って行った。
「これだ、全て記載してある」
「なるほど、では失礼する」
「あぁ、そうそう」
「他の期待している子達の資料もあるが、持ってくか?」
「あぁ、一応持って行こうか、なるべくここにくる回数は減らしたいからな」
「——まぁ…理由は聞かないでおこう」
ラハッポムは床に落ちた資料の中から、ギリギリ机の上に落ちた書類の中から計4枚の書類を浮かばせ、ローレンに渡した。
「書類は受け取った、それじゃあな」
「あぁ、また来いよ」
バタン。
「——副隊長、忙しそうですね」
「まぁ、トップがアレだしなぁ…実力が特筆しすぎていてそれ以外が平凡レベルなんだ」
「部下の俺たちや右腕であるローレンが補助していくしかねぇんだ」
「何でそんな面倒くさいことをするの?」
「ブラハム、お前も望みがあるだろう」
「あ、はい」
「俺らの望みがたまたま同じで、たまたまその望みのために協力関係になっているだけだ」
「お前はまだここに入ってから歴が浅い、もう少し経てばお前ももっともらしい男になるかもな」
「それ、どういうことだ…バカにしてる?」
「そう聞こえたか、すまない」
「しっかし、順調とは言ったが、順調なのは少年の方だけだ」
「例の件、囮作戦ですよね?」
「そうだな、”伝説魔法”を囮とした作戦だ」




