第八十六話 「天災と天才達」
初めてフユウ隊長の戦いを見たけど、こんなレベルの高い氷魔法は初めて見た。
「よいしょっと」
蔦を生やして巻きつけた…。
あんな強固な蔦を作れるのもすごい、無詠唱であれだけの高いレベルの魔法を撃てるなんて。
無詠唱は、メリットもあるけどデメリットが目立つからほとんど誰も無詠唱はしない。
奇襲ができる、詠唱を省いた方が早く魔法を撃てるなどのメリットがある。
デメリットは詠唱時に比べて若干魔法の威力が下がる。
威力が下がるのは魔法戦闘において削ってはならない項目の一つ。
格下との戦闘なら威力は多少下がってもいいが、隊長は常に強敵と戦う、被害を最小限にするためにも、なるべく早く倒さなければいけない、そのためには魔法の威力を下げてはいけない。
フユウ隊長は無詠唱でもあれだけレベルの高い魔法を撃てる…第二隊長だけある、実力が桁違いだ。
「よっと、足止め完了!」
「おーい! 数秒しか足止めできないから早く早く〜!」
「フユウが何か言ってる、おそらく急かしている」
「今から2秒後に一斉に撃つぞ、できるだけ魔力を溜めろ!」
「「はい!」」
お、魔力を溜め始めた。
数秒って言ったし、意外とすぐ撃って来そうだな〜。
「2秒経ったぞ! 撃てぇぇえ!!」
「「はい!!」」
「「うおぉぉぉぉ!!」」
お、やべぇ。
ドカーン!
フユウの足止めと、グラナト、バルザ(シラトリ)、リフォン達によって放たれた魔法は、インフェルノドラゴンの胴体を貫通し。
——トドメを刺した。
「よ、よし…やったぞ」
「やったのか?」
「あぁ、やったぞ、倒したんだ、インフェルノドラゴンを」
「んー」
不穏な空気、やけに静かな環境音、これは…。
「みんなー、まだ終わってないよ〜」
「「え?」」
「い、いやいや、フユウよ、我ら3人の一斉攻撃でインフェルノドラゴンの胴体を貫通した、その後の爆発時にインフェルノドラゴンの鳴き声がしなかった」
「そうですよ! つまりは倒せたってことなんですよ」
「ん〜、でもねぇ、それだったらこの気配は…」
インフェルノドラゴンを倒した。
——と思っていたのだが。
「グルルルル…」
「え、えぇ…うそぉ」
胴体に大きな風穴を開けたが、まだ立っている、まだ倒れていないインフェルノドラゴンが。
「魔力はまだあるかっ! 我はまだ残ってるぞ!」
天災の名を冠したドラゴンは、この程度では収まらなかった。
「こ、これが最上位のドラゴンの、強さ…」
「グルルルル…」
確実にダメージは負っている、後一息ではあった。
だが、あれだけの攻撃を喰らってもなお倒れないインフェルノドラゴンを前にして、3名の心は折れかけていた。
「グオ」
たった一人を除いて。
「グオォォ——」
「「——っ!?」」
「やれやれ〜、ほら、足止めしたよ」
「この間に早くまたさっきの撃って、ほら」
「ふぅ…そうだな、感謝するよフユウ」
フユウ隊長、まだ諦めてない! 俺も見習わないと!
「やりましょう! もう合体の時間も少ないです!」
「もう一度、いや、今度は全力で撃ちましょう!」
「「はあぁぁぁぁ!!」」
うまく立ち直ってくれてよかった。
彼らのような天才は、心が脆い人が多い。
数々の場を乗り越えて来た人は心が鍛えられる、グラナトは場数は踏んでいるがまだ心が脆い。
リフォンとバルザ、シラトリはまだまだ新米だ、バルザとシラトリなんか体調に着任してからまだ一年しか経っていない。
第二隊長である僕がしっかり後輩を鍛えないと。
——あっ、グラナトは先輩か。
「そろそろいけるか?」
「「はい!!」」
「よし! じゃあもう一度、撃てぇぇぇ!!」
「グオォ——」
バゴーン。
巨大な爆発音と共に凍ったインフェルノドラゴンに強大な光線がそれぞれ額、腹部、尾に当たり、貫通させた。
再び土煙が地を覆った。
「はぁはぁはぁ…どうだ? フユウ」
「——うーむ…」
やがて視界が開けて状況が確認できるようになった。
インフェルノドラゴンの体には5つの貫通箇所があり、流血もしていた。
正真正銘、インフェルノドラゴンは死んでいた。
「息は、してないね」
「と、ということは…」
「倒せた、僕らの勝ちだ」
「や、やっ——」
「「やったー!!」」
「倒せた! 倒せました!」
「リフォン! 今夜は飲もうぜ!」
「いいですねー! 飲みましょう、バルザ隊長!」
「あぁ…疲れたぁ…」
「お疲れグラナト」
「お前がいてよかったよ、フユウ」
「足止めをしてくれなかったら、きっと倒せていなかった」
「礼を言う、ありがとう」
「いいよいいよ〜お礼なんて〜」
「さて、後片付けをしないとな」
「そうだね〜、二人は本部に帰ってていいよ〜報告忘れないでね〜?」
「「は、はい!」」
静かになったこの戦地は、グラナトとフユウの二人だけになった。
すぐそばには、先ほど死闘を繰り広げていたインフェルノドラゴンの死体がある。
「さて、傷口から切っていくか」
「冷凍は任せて〜」
* * *
その頃、魔防軍本部内では、本部に帰宅途中のバルザからの通信が届いた。
内容はインフェルノドラゴンを討伐した、という内容だ。
「「うおぉぉぉ!!」」
魔防軍本部では、どこもかしこも歓声がおきていた。
そこにいるだけで災害を起こす天災級のモンスター。
ドラゴンの最上位種の一角、インフェルノドラゴンを討伐した。
討伐者は魔防軍所属、第二隊長[ユメラギ・フユウ]、第四隊長[ラープトング・バルザ(ラープトング・シラトリ)]、第五隊長[リフォン・ユ二コロイ]、第六隊長[アークストン・グラナト]の計4名である。
この出来事はしばらくの間、王都にも情報が回った。
* * *
「号外! 号外です!」
「辺境の山にて出現したインフェルノドラゴンを、魔防軍の4名の隊長達が討伐!」
ワイワイ、ガヤガヤ、ザワザワ。




