第八話 「市場へ行ってみた」
今日は一つ上の兄、マヒト兄様の仕事場へ行くことになっている。
とっても楽しみだ!
「コンコンコーン! リヒト様、お着替えはすみましたでしょうか」
「今終わったとこですよ〜」
「失礼致します」
「どうですか? 可愛いでしょ〜私のリヒト様は」
す、すごい、可愛い…。
まずい、可愛すぎて直視できない…!
「——って、何が私のリヒト様、ですか」
「専属メイドだからって、独占は他のメイド、従者から反感を買いますよ」
「む〜、、」
「では、リヒト様、行きましょう」
「今日は、マヒト様が自身の仕事場を紹介したいということで、市場へ向かいます」
マヒト兄様は、歩く回復薬という二つ名があり、その名の通り回復系の魔法に長けている人だ。
回復系の魔法は自分だけじゃなく他者の傷も癒す。
そのため、自分とは違う体の作りだから他者を治癒するのはかなり難しいらしく、それ相応の技術がないと行けないらしい。
だけどマヒト兄様は、他者を一瞬で完全に癒せるほどの技量を持っている。
治癒の力は、実は一部のモンスターにも効く。
アンデットは死んだ身、死んでいる体として生きているわけだから、体の活力がない状態で体を動かしている。
だからその体の活力を蘇えさせるとその体は体の情報が更新され、元々の体に適応していた体は適応できず崩壊していく。
だからアンデットには効く。
人間の方には治癒やアンデットへの攻撃を得意とするものは聖職者と呼ばれているらしい。
こちらも同じ感じだが、人間側とは違い聖職者は聖典を媒体に魔法を出している。
だけど魔族はそんなものは必要なく、属性魔法と同じく手ぶらでも魔法を出せる。
正確には媒体がなくても魔法は出せるけど…。
「そろそろ市場ですよ、リヒト様」
「おぉ、もうすぐか!」
「ここは、私たちアークストン家の領地、その城下町にあたります」
「城下町の中のウワバ市場という場所です」
ウワバ市場、出店なり、レストランや宝石店などいろいろな店がたくさんあるな。
「この橋を渡った先にある大きな建物がマヒト様の仕事場です」
ひぇ〜、あの大きなやつか、若干神殿っぽい感じのする建物だな。
「着きましたよーリヒト様〜」
「降りましょう降りましょう!」
よっと。
ここがマヒト兄様の仕事場、アークストン領地の中で一番大きい病院だそうだ。
病床の数は85床あって、それなりに多くの数の人が入院できるけど、マヒト兄様の魔法が強すぎて入院する患者は一人もいないらしい。
「では、私が受付にて手続きてまいりますので、リヒト様はフランと共にここで少々待っていただきます」
「はい、わかりました」
「では、」
メイドさんはお辞儀をして、早歩きで病院内へ行ってしまった。
少し時間があるけど、出店とかをみているほどの時間はなさそうだよな。
フランと少し世間話でもしようかな?
「ねぇフラ——」
「ほらさっさと歩け!!」
おや? あれは、暴行か?!
「早く歩け! ノロマなのがバレたら価値が下がるじゃねぇか! ほらさっさと歩け!」
蹴った…?!
あんなにボロボロになって…ひどい虐待をされているな、あの子どもは。
「奴隷ですか…気味が悪い…」
「奴隷?」
「はい、あの子どもはおそらく親であるだろうあの人に、今から奴隷として売りに出されるんでしょうね…」
「奴隷は買い手が見つかるまでずっと手錠をつけられ、監禁され食料も最低限のみ」
「運良く買い手が見つかっても、奴隷の子が男なら労働か実験道具、女なら性的利用がほとんどです…」
つまりあの子も奴隷として今から監禁やら何やらをされるのか…。
考えただけでも恐ろしい…。
あの目…。
「あぁ? 何見てんだよ、見せもんじゃねぇぞ、しっしっ!」
「すみません、この子——」
「あぁ??」
ひぃい…怖ぁ…。
でも…。
「すみません、この子は奴隷なんですか?」
「あぁ? そうだよ、今から奴隷商会んとこ行って売るんだよ」
「子どもは大人よりも多少なりとも金になる、だから稼ぐ力もない俺の機嫌を損ねるだけのコイツはなぁ!」
「奴隷として売るんだよ! 売れれば俺に金が入る、金が入れば少しは親である俺への恩返しにもなるしな!」
うわぁ、なんで酷い…。
ろくに愛情なんか注いでいないんだろうな。
あの子の目は精気がないように見えるほど目に光がない。
きっとこの親に、生きる道も希望も全て支配されてきたんだろう…。
自分の欲望のために…!
「すみません、この子、いくらですか」
「はぁ?」
「え、ちょ、リヒト様? 買うんですか?!」
「テメェみたいなガキが買えるような値段じゃねぇよ、帰れ帰れ」
「いくらですか」
引かない、こんな子どもに、こんな人生があってたまるか。
せっかく会えたからこそ、このチャンスを俺は無駄にはしない…!
「いくらですか」
こ、コイツっ!
一歩も引く気がねぇ…!
でかい声だせばガキは大抵泣いてどっか行くのに…。
コイツは泣くどころか真顔で引く気が一切感じねぇ…!
「くっ、、」
「し、しかたねぇ、大金貨3枚だ…払えんのかぁ、あぁ!?」
「お金、ありますか?」
「は、はい…一応お小遣いはグラナト様から貰っていますので」
は、払えるのか?!
コイツ、メイドがいるからまさかとは思ったが、やっぱりいいとこの坊ちゃんか!
だとしたらこのチャンス、無駄にはしねぇ!
「いいや、大金貨5枚だ! コイツはプレミアもんでな!」
げっ、増やしたな?!
この人、どこまでも悪いな…。
でも…。
「はい、大金貨5枚ですね」
「——はぁ?」
「きっちり払いましたので、この子は僕のものですね」
こ、コイツ、本当に出しやがった…!
大金貨を5枚も即座に出せるなんて、かなりいいとこの坊ちゃんじゃねぇか?!
大金貨5枚なんて、そんな簡単に出されるほど安くはないはずなんだがな…。
「けっ、いいさ、好きにしろよ!」
まぁいいさ、あいつは何もできやしないダメなやつだからな。
買ったことを後悔しやがれ!
走って逃げたな。
さて、助けたいという衝動のまま勢いで買ってしまったが、どうするか…。
「………」




