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第九話 「奴隷」


 この子、身体中が傷だらけだな…。

 相当あの親から暴力を振るわれてきたんだろう…。

 それに服もボロボロで所々穴も空いてる…。


「………」


 喋れない…。

 違う…喋る気力すらないんだ…。


「お待たせいたしました。 準備ができましたのでマヒト様のところ、へ……」

「あの…そちらの方は…?」

「あぁ、僕が買いました」

「へ?」


 メイドさんに、事の経緯を全て説明した。

 するとメイドさんは、[でしたら、マヒト様に診てもらいましょう]と提案をしてくれた。


 たしかにマヒト兄様ならこの傷を一瞬で治せるまろうし、もしかすると活力とかも復活させてくれるかも…!


 そう願ってまひと兄様のところへ向かった。


「やぁリヒト! 僕だよ! 一つ上のお兄ちゃん!」

「こ、こんにちはリヒト様」

「こんにちは、ベルファさん」

「礼儀正しくていいですね〜」

「ふふーん!」


 あなたが威張る事じゃないでしょうよ。

 まったくフランは…。


「では、私たちは外で待機していますので、どうぞごゆっくり…」

「うん、お迎えありがとう〜!」


「さて、と…リヒトと色々話したいこととかあったんだけど、まず先に。その後ろにいる傷だらけな子のことについて話してくれないかな?」

「はい、実はこの子…」


 事の経緯をマヒト兄様にも全て話した。

 親から虐待を受けていること。

 奴隷として売りに出されそうだったこと。


「そう言うことがついさっきあったんだね…気の毒に…」

「それで、僕はその子に何をしてあげればいいのかな? 傷を治せばいいのかな?」

「はい、それもあるんですけど、」

「傷の治すのともう一つ、この子の活力、精神の方にも治癒はできませんか?」

「うーん、精神の方は残念ながら僕でもできないね」


 まじか…。

 てことはこの子はもうずっとこのままなのか?

 こんな廃人一歩手前くらいまで精神が削れてしまってるのに…。


「でも一つだけ精神を治せる方法があるよ」

「ほ、本当ですか?!」

「それはね、ゆっくり時間をかけてその子と一緒に生活をすることだ」

「男女に好意があれば、ゆっくりと時間をかけていって思いが高まり、やがて愛を誓うように」

「この子と一緒に生活をしていって、楽しいことを積み重ねていって精神の空いた穴を埋めるんだ」


 なるほど、そう言う手があったな…。

 でも、どんなことをすればこの子は楽しくなるんだ…。

 幸せだと感じられるんだ…。


「何が幸せで何が幸せじゃないかなんて人それぞれなんだ、だからまずは些細なことから地道にその人にとっての幸せを見つけていくんだよ」

「ヒール」


 光ったと思ったら、一瞬で消えて…。

 この子の怪我も治ってる…。

 本当に異次元のスピードで治癒した…すごい…!


「さて、まずはこの子に名前をつけてあげるのはどうかな?」

「名前…」

「ねぇ、君はどんな名前がいい? それか元の名前って何かな?」

「………」


 喋らない…。

 口すら開かないのか…これは相当精神が削れているな…。


「無理やり口を開かせるのはこの子にとって実に苦なことだよ」

「だからこの子が口を開けるようになるまでの仮の名前をつけてあげよう」


 名案だが、どんな名前にしたらいいのか…。

 ここはやっぱり見た目で決めた方がいいのか?

 紺色の髪に青色の瞳…それにところだから髪が紺色じゃなくて朱色っぽい色の髪もあるな…。


 ネーミングセンスがないからか、まったくいい名前が思いつかない…!


「うーん……」

「リ、リーブ、とかは?」

「リーブ、ですか…いいと思います!」

「………」


 リーブ、単語の意味としては今後のこの子の生き方になぞらえている…いいね。


「僕もいいと思うよ」

「君はどうかな? 気に入ってくれたかな?」

「………」


 返事はなし、表情も変わらない…か。

 まぁいいさ、これからどんどん心の空いた穴を埋めていって、喋れるようになった時に、名前についてもう一度聞けばいい。


 ひとまず、この子の名前は。


「今日からよろしくね、リーブ!」

「………」


 常に下を見て、目に光が一切なく服は汚れさせ細っていて靴なども履いていない。

  奴隷として売りに出される一歩手前でリヒトに買われた幼き少年、リーブ。

 彼はこれからどのような人生を送るのであろうか。




 * * *




「なんと…! リヒトがなんと…」

「奴隷を買っただと?!」

「リヒトめ、なんて…なんて…」


 さすがの親バカなグラナト様でもお怒りか?


「なんて優しい子なんだ……泣いてしまうぞ…」


 違った、もっと親バカだった。

 これはもう救いようのないほどの親バカですね。


 奴隷なんて買っても意味はないでしょうに…。

 身の回りの世話ならすべて私たちメイドや従者たちがやっているんですから。


 まぁでも、心優しいリヒト様のことですから、きっと何か深い事情があるのでしょうね。


「とりあえず、リヒトとその買ったという奴隷の子を連れてきなさい」

「承知いたしました」


 リヒト、奴隷を買うとはな、奴隷を買うことには別に思わんが、奴隷商会という穢らわしい所へ行ったことには一つ文句でも言うとするか。


「お待たせいたしましたグラナト様」

「リヒト様と、例の奴隷の子を連れて参りました」

「うむ、中へ入れ」


「失礼します」


 さて、どんな子か…。

 強い子か、忠誠心のある子か…。

 はたまた予想もしないような子か…。


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