第六十四話 「軌跡の始まり」
「リヒト様が、お帰りになられたぞぉ〜!!」
「「なんですって!?」」
一人の従者の声を聞いた他のメイドや従者がいろんな部屋の扉から出てきたり、屋敷の奥から次々と姿を見せ始める、全員の行き先は同じだった。
「「リヒト様、お帰りなさいませっ!!」」
50を超えるメイドや従者、これが一瞬で集まってきたという。
「あ、あはは…」
すると、奥から一人のメイドが走ってきた。
「お帰りなさ〜い! リ〜ヒ〜ト〜様〜!!」
フランだ、リヒトに一番の信頼、愛情を向けている専属メイド。
「あぁフラン、ただいま」
「リヒト様! 試験、どうでした!?」
聞かれた瞬間、少し気が引けた、なぜなら目の前にはリヒトの結果を期待をしているフランと、その四方には他のメイドや従者も耳を傾けている。
こんな状況で不合格、なんて微塵も言えるわけないのだ。
「フランさん、リヒト様のお部屋でお話ししましょう、ここでは、ちょっと…」
リーブがフランに耳打ちしてくれた。
「わ、わかりました」
お互いに小声で話、結託する、その後リヒトの自部屋に移動した三人。
「それで、結果は! 結果はどうだったんですか!」
「——不合格でした、二次試験で…」
「そ、そうなんだ、、リヒト様でも二次試験で…」
残念そうにしていたが、フランはすぐに首を振って笑顔に戻った。
「リヒト様! 次の試験は4年後です! 次の試験までにもっと強くなりましょう!」
フランもすごいな、すぐに励ましの言葉を…。
「フランさん、夜も遅いですし、リヒト様を寝かせてあげましょう」
「そ、そうだね、じゃあリヒト様、また明日!」
「う、うん、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
やっぱり、もう少し考えよう、俺の今後のあり方を…。
—翌朝—
「リヒト様、突然どうしたんですか!」
「リヒト様〜、せめて私はご一緒にぃ〜!」
こうなったのは、少し前に遡る。
* * *
「おっはようございま〜すリヒト様〜!」
「——って、、おぉ! リヒト様が珍しく早起きしてる!」
「なにか予定があるんですか?」
「あぁ、ちょっとね」
フランはリヒトに近づいて理由を尋ねた。
「どこに行くんですか? 何をしに?」
「まぁ、ちょっとね」
「むぅ〜! 理由を教えてくださいよ〜!」
「——ちょっと、、旅に出ようかと…」
「——えぇ、旅!?」
* * *
「リヒト様〜! 絶対私は、私だけはご一緒にぃ〜!!」
泣きながらリヒトにしがみつき、訴えるフランと、リヒトの肩に手を置き、必死に説得しようとしているリーブ。
朝早く起きて誰にも気づかれることなく屋敷を出るつもりだったのに。
「わ、わかったわかったよ!」
「二人も一緒に、行く…?」
フランの目が輝き、リーブは戸惑いを浮かべている。
「そうこなくっちゃ! すぐ準備しますね〜」
「リ、リヒト様本気ですか!?」
そうして、三人はバレずに裏口から抜け出した。
屋敷の裏手の森を走り回り、大きな道に出る。
「大きな道に出ましたね、ここで食料品を買っていきましょうか」
「お金は?」
すると背中に抱えた大きなバッグを地面に置き、中から正方形の入れ物を取り出す。
「準備するときに少しくすねてきました」
——犯罪だろっ…。
大通り沿いの商店や露店にて色々と買い、フランの大きなバッグに全て入れようとするのだが、流石に全ては入り切らなかったらしい。
すると、リヒトはふととあることを思い出した。
あれ、そういや俺って…。
「あ、やっぱりだ」
「そ、それって…!」
「うん、アイテムボックスだよ」
「リヒト様アイテムボックスあったんですか〜? それならそうと早く言ってくださいよぉ…」
フランの大きなバッグも入り切らなかった物も全てアイテムボックスの中に入れる。
「これで準備完了ですね! では行きましょう!」
「おぉ〜!」
「——なんで言わないんですか、私だけとか」
「あ、ごめん」
「そういえばリヒト様、どこに行くつもりで?」
「それが、、実はまだ決まってないんだよね…」
「なんですと…!」
「そ、それでしたら、遠く離れたところに魔法の情報がほぼ全てある古書館があると聞いたことがあります」
「そこへ行けば、いろいろな魔法を知れたり、もっと強くなれるかも知れません!」
「すごいよリーブ! よし、そこへ行こう!」
「「おぉ〜!!」」
そうして、アークストン家の末っ子と、その専属人二人による旅が始まる。
その後、リヒトが旅に出たことを知ったグラナトは、[自立か…早いものだな…]と口にした。
だが夜、グラナトは誰も見ていないところで静かに泣いていた。
もちろんそれは我が子がこんなにも早く自立をしたからという、親バカすぎる思いだったからである。
「地図をもらいました、目的の古書館はここから北西、ハブリンという都市にあるようです」
「ここから最短経路で行くと、、いくつも森を抜け、山を越える必要があります」
「山ですか…」
「いいんじゃない? 山もゆっくり超えていこうよ」
俺はまだ若い、俺たちはまだ若い! 若いうちに色々とやっておくべきだ!
この旅の目標、それは[認識を正すこと]と[見識を広げること]、そして。
「それに、、きっとこの旅は、一生の思い出になると思うよ」
「——そうですね、きっといい思い出になりますね…」
「では、最短経路で古書館のあるハブリンへ行きましょう!」
「「おぉ〜!!」」
俺の[強さ]を磨くための旅…!
こうして、リヒト達の長い旅が本当に始まった。
いつ終わるか、いつ家に帰るかもわからない旅、全てはリヒトの掲げた3つの目標を達成するための旅。
旅の最初の目的地、ハブリンへ行くにはまず最初に大通りを外れ、すぐのところにある巨大な森を抜ける必要があった。




