第二十四話 「森の住民」
「毒の矢だと、」
「いったい誰が…」
「武器を捨てろ!」
「貴様らは完全に包囲された!」
「もう一度言う、武器を捨てろ!」
これは…。
この森の住民か。
こんな寒い森にも住民はいるのか。
「私たちは其方達に危害を加えるつもりはない」
「その言葉、信用なるか」
「貴様らは誰だ、ここは私たちの領域だ」
この森に住民がいたとは…。
見たところどこかの民族か何かか。
「我は隣の領地を統べる当主であり、アークストン家の夫でもある」
「我はアークストン・グラナトという者だ」
「アークストン? なんだ有名なのか?」
「誰なのかさっぱりだ」
この人たちは、アークストン家を知らないのか…?!
隣国であるシルビア家領地の人なら全員知ってるはずの超常識!
義務教育レベルのことだぞ?!
ということはこの人たち、いやこの民族は外部の情報を得ていない、遮断しているタイプか。
「私たちは其方達でいうところの長にあたる者だ」
「なんと! それは失礼なことをした」
「長ほどの者ならばこっちへ来い、長に会わせてやる」
上からだが、ここで従わないと後々面倒なことになりそうだ。
幸い予定の日、時間まで少しの猶予がある。
この一件を素早く片付けてシルビア皇国へ向かおう。
「わかった、案内を頼む」
「いいんですか、兄さん?」
「あぁ、一旦はついて行ったほうが後々いいと判断した」
「でも情報にない民族ですよ? 何が待ってるか未知数です…」
「まぁ、そんときゃ私らで何とかするさ!」
「そこらの民族で私らに敵う奴なんか、いないんだからさ!」
「ついたぞ、ここだ」
「ここは私たちの住処だ、ここからまた少し歩くと長の家がある」
大樹が何本も…そこに住居が複数ある。
これが噂に聞いたツリーハウスというものなのか?
実物は初めて見るな…。
「長、なにやら長と同じ位の者たちがここはやってきました」
「ふむ、入れ」
「失礼致します」
長の家、の中は意外と質素だな。
少し豪華なイスとテーブルの上に果物がいくつかあるくらいだな。
ここへ来る途中、いくつか家の中を見てみたが、それとほとんど変わりはない。
民族だけあって、一番上とそうでない者の差は少ない。
だからか少しの変化さえあれば、簡単に位が逆転してしまう。
この長も、そんな感じなんだろうな。
「私たちは隣の国の領地を統べるアークストン家の人でございます」
「ふむ、儂の名はニベル・グロール」
「このヒャコヤ民族の長をしている者だ」
ヒャコヤ民族?
「儂らは古くから、他のと関係を絶って他からくる穢れ、悪しき情報、脅威となる存在を寄せ付けなくしてきた」
「だからか儂らヒャコヤ民族は、いまや文献にもならない名も無き民族に成り下がってしまったんじゃ…」
いまや? それって。
「かつては名のある民族だったということですか?」
「あぁ、今でこそこの地を拠点として生きているからこの名になっただけで、かつて儂らは複数の民族が集まってできた、多勢民族だったんじゃ」
「その当時の名前はおそらく其方達も知っているであろう、ナユタ民族じゃ」
ナユタ、ナユタって…。
「あのナユタ民族か…?!」
「あぁ…」
ナユタ民族って、はるか昔に滅んだとされている伝説の民族、人の数での人海戦術を得意としていた民族。
戦闘派も多く、選りすぐりの精鋭を集めたチームは民族の中でも最強らしく、チーム全体の実力は大魔族に匹敵すると聞いたことがある…。
なんてことだ、まさか生き残りがいたとは…。
「さぁ、この話を聞いて其方達は黙ってこの地を去るわけには行かなくなったな」
「そうだな…まさか生き残りがいたとはね」
これは、まずいかもしれないな。
ここで魔法を使って被害を出せば、この領地はシルビア家だから後々請求書が来て面倒くなる。
それに賠償金も払わされることになる…。
こちらとしては抵抗されずに保護、その後色々と聞きたいところだが…。
「——抵抗はするのか?」
「あぁもちろん、全身全霊で抵抗するよ」
「私たちは大魔族に匹敵するほどの実力者だ」
「儂ら民族の中で、大魔族の存在を知っているのは皆年老いた者だけ…」
「じゃが、儂らはたとえ大魔族が相手でも抵抗するぞ」
「なぜそこまでして抵抗する、私たちが保護すれば、身の安全は保障されるのだぞ」
「——それでも、儂らには引けないものがあるんじゃ」
なぜそこまでして…。
「簡潔に説明してくれないか? なぜそこまでしてこの場所に拘るのかを」
「長話になるから控えるが、其方達はヒャコヤ民族の歴史をどのくらい知っているのかい?」
「——大まかには…文献で見た情報しか」
「ナユタ民族には壮大な歴史がある、その歴史の終着点はここ、ヒコヤ大森林だ」
「儂らは歴史ある者の終着点から離れることはできん」
「簡潔に言うとこんな感じじゃ」
なるほど、そう言う理由が…。
だが、どんな理由があったとしても私たちはこの価値あるものを保護しなければならない!
「もう一度聞くが、無抵抗に保護はされてくれないか?
「——あぁ、儂らは抵抗するぞ」
「どうやって?」
「フッ、魔法で!!」
「ウィンディア!」
なるほど、竜巻を起こして体の自由を奪い、その隙に下にいる大勢の魔法で一気にやるつもりか。
だがこっちには…!
「タイムズ」
そう口にした瞬間、周りの物、動き、何もかも、全ての動きが限りなく遅くなった。
大魔族が一人、時間、動きを操れる魔法を持つ男。
アークストン・グラナト、今彼が使った魔法は時間や動きを限りなく遅くする魔法であり、使った瞬間半径800mいないにいるものは全て遅くなる。
それは呼吸や皮膚の動き、脳の思考速度までも全てが対象だ。
ただ、その中で普段通り動ける者が一人、魔法を使った本人、そして本人が触れたもののみ通常に戻る仕組みだ。




