第十九話 「強者を求める強者」
「なんですかこの穴ボコは…」
「不自然に道の真ん中に…」
何かあったのかな?
だとしてもこんな平和な場所で、あんな穴ボコができるほどの戦闘が起きるとは考えられないしな…。
ちょうどそこに人がいるな、話を聞いてみるか。
「すみません、ここで何かあったんですか?」
「私は、見たんです」
「黒衣の男が、ものすごいスピードで走っていく際に、衝撃で道のレンガが壊れて、あんなに大きな穴ボコができたことを…」
黒衣の男?
「その黒衣の男…はどこへ走っていったか、わかりますか?」
「え、えぇ、屋敷の方へ…」
屋敷の方だと…!?
「こんな状態だと馬は歩けないし、走って戻ろう!」
「え、は、はい」
「急いで!」
「は、はい!」
「きゅ、急にどうしたんですかリヒト様?」
「あの穴ボコを作った犯人が屋敷の方へ走って行ったらしい!」
「それに、大臣を倒していったらしい」
それってもしかして…。
「もしかしなくとも、その黒衣の男は…」
「敵だ…!」
* * *
「はぁ、たくよぅ…なんで弱っちいやつしか来ないんだ」
——おっ? あれはもしや…。
「武器を下せ」
「はっ!」
「ほぉ〜、あんたは中々に強そうじゃねぇか」
「あんた、名前はなんだ?」
「クランだ」
クラン、、アークストン・クランか。
アークストン家の長男にして近接戦闘の天才。
「へっ、あんたまさかの俺と、同じ戦い方か」
「君は何用でこんなことをした」
「俺はただ、天才と闘いだけだ、天才さんよ」
これは素直に戦うしかないか。
立っているだけで隙がない、厄介な相手になりそうだな。
「では勝負…」
何もないところから剣が出てきたな。
あの剣は、自分のリーチ内でしか出せないのか、それとも自由自在に出せるのか。
前者なら問題なし。
後者なら少し、めんどいかな。
「ふぅー…」
「脚力増強…」
いくぜ天才!
来たか…!
「防戦一方かぁ天才?」
この男、速い…!
魔法の中で身体強化魔法はあれど、ここまで速くはならないぞ…!
「一体どんな魔法を使っているんだか!」
「簡単なことさ」
「普通にしていたらある程度のところで成長は止まっちまう」
「だが俺の肉体は少し特別でな、そのある程度の壁をぶち破ってさらに上の段階へ行けるんだ」
それってまさか…。
「今の一戦で分かった」
「あんたは強いが、まぁ今のままだと俺の勝ちかな」
「何か魔法を使えよ、他にタネがないならあんたは次の一撃でゲームオーバーだ」
挑発か…?
だが、今のでこちらもわかった。
近接ではあいつに勝てるか怪しい…。
ならば…!
「では剣に加えて、魔法も使わせてもらおうか」
「いいねぇ、面白そうじゃねぇか」
「君たちはここを離れなさい」
「は、はい」
兵を離した、てことは範囲のデカい魔法を使うな。
ほらな。
「エンテイ」
ふぅ…少しは傷を負ってくれればいいが。
「やれやれ、さっきの男といい、みんな最初はこの魔法を使うのが定番なのか?」
「俺はそっち側じゃないからわからんな」
ダメージなしか、避けたかそれとも…。
「あがっ…!」
一瞬で、距離を詰めたのか!?
そして今、俺は首を掴まれている…。
「はい捕まえた、反応できなかったか」
「本当、何者だ…君は…」
「俺が何者か、か」
「ぐっ…! あが、、」
「俺はただ、戦いの天才、強者を求めているだけだ」
それに理由なんて。
理由なんて、いらないんだ…。
「グラナト様! クラン様が黒衣の男にやられました!」
「なに!?」
クランが負けたのか…?
クランが負けると言うことはあと勝てそうなのはラナカッテかラムドか…。
クランが負けるほどの実力ならマヒトは無理だ。
とにかく今は民の安全を…!
「リヒトはどうした!」
「はっ! リヒト様はまだ帰っては来ていません」
心配だ…。
もし黒衣の男と対峙していたら、、。
「私は妻と一緒に屋敷の奥へ行く、ラナカッテとラムド、あとは最悪の事態の場合…」
「最悪の時は、エリス様を、頑張って呼んでくれ」
「は、はい!」
妻だけは守らなくては。
今、妻のお腹の中には、もう一つの命があるんだ。
守らなくては…!
「次はあんたか、あんたの名前はなんだ?」
父様から聞いて急いで駆けつけたけど、これが兄さんを倒したのか?
今わかる情報は男ってくらいか。
あのローブの内側、何か隠し持っているとかか?
「俺はラムド、君の名前はなんだ?」
「それと、兄さんを倒したって本当なのか?」
ラムド、へぇそうか。
アークストン・ラムド、アークストン家の次男。
「俺の名前?」
「そうだ、名乗ったんだからそちらも名乗るのがテンプレさ」
テンプレ、か。
「——そうだな、ベガプトだな」
「この名が気にってんだ」
ベガプト、聞いたことないな。
兄さんを倒すほどの実力ならかなり名の知れた人だと思ったが。
「まさか人間か?」
「いいや、俺はれっきとした魔族さ」
「角は邪魔だから消したんだ」
角を消した?
そんなことできるのか?
「どうやって消したんだ」
「消し方? そんなこと聞いてどうすんだ」
「ただ純粋に、気になっただけだ」
よし、いけてる。
このまま時間を稼いで、ラナカッテ姉様が来るまでの時間を、稼ぐんだ。
「ただ純粋に抜いたんだ」
「抜いた時はクソ痛かったがな」
「壊しても、抜いても何度でも生えてくるぞ」
「あぁ、だからその度に抜いてるんだ、もう痛みには慣れちまったからな」
嘘だろ、そんなん拷問だぞ?
狂ってやがるこの男…。
「なんで角を何回も何回も抜くんだ」
「抜く理由なんて、邪魔だから以外の理由があるか?」
クソこいつ、全部うっすい返答しかこねぇ…!
だがもう少し、もう少しで姉様が来る!
「もういいだろ」
「——っ! ゾウルア!」
吹き飛ばされた…。
そしてしばらく体を痺れされる効果もあるな…。
「いいねぇ、頑張ってくれよ? 天才」




