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第十七話 「リーブの過去-2」


 ホームレスになってからは、毎日僕が大通りに出て、人からものを分けて欲しいと物乞いをしていた。

 その間お父さんは寝てるか盗みの計画を練っているかだった。


 何度も盗みはダメだと伝えたが、その分暴力を振るわれる。


 ついに僕も盗みを、犯罪に加担するようになってしまった。

 断れば暴力、お父さんからの暴力は受けたくなかった。

 ダメだとわかっていても、従わなきゃいけなかった。

 そんな日々がずっと続いていた。


 正直僕は、お父さんから暴力を振るわれるようになった時から、ずっと死にたいと、この苦しみから逃れたいとずっと思っていた。


 でも、死ななかった。


 死のうとしたら、周りの大人が助けに来て、死なない。

 夜は、お父さんのお世話をしているから出歩けず。


 死にたいのに死なない。

 死にたくても周りが死なせてくれない。


 僕は毎日、仕事をし、時には盗み、そして夜はストレス発散に付き合う日々。


 毎日毎日毎日毎日毎日。

 ずっと同じ日々を過ごしてきた。


 ある日お父さんは、僕にこう言った。


「もう限界だ、お前がいなくなればよかったのに、どうして今までこれをしなかったんだ!」

「そうだ! お前を売ればいいんだ!」

「そうすれば少しは父さんの役に立つだろ!」


 そう言ってお父さんは、僕の両手を縄で縛り、殴って、家を飛び出した。



 その時の僕は、すでに思考をほとんど放棄していて、ただ自分の本能のまま生きていた状態だった。


 食べることは生きる上での生存本能。

 動くことは生きていく上ですべき本能の行動。


 常にお腹が空いていた。

 体なんかずっと痛い。

 痣なんか体にいくつあるかもわからない。

 傷だらけ、声帯が消えかけている。


 生きる気力すら微塵もないほど、僕の魂は消えかけていた。


 縄で引っ張られながら、城下町の中心部にある奴隷商会へ行くべく連れられた。

 正直誰がこの状況を見て、何を思おうと、助けてくれようと別にどうでも良かった。


 この地獄から解放されても、また新しい地獄が待っているはず。

 地獄じゃなかったら、死んで天国に行けるはず…。


 ——でも僕は盗みをしているからどっちにしろ地獄か…。


 奴隷になったらどう生きよう。


 ずっと死にたいと思っているのに死なないこの苦痛をわかってくれる人なんていない。


 みんな死なさず生かそうとする。

 みんな何かしらの目的を持って、死なさずに生かす。


 これからどうなっていくんだろう、と思っていた矢先。

 僕に人生最大の転機が訪れた。


「あぁ? 何見てんだよ、見せもんじゃねぇぞ、しっしっ!」


 ん…? 誰…?


「すみません…この子——」

「あぁ??」


 可哀想…この子、お父さんに殴られそう…。


「すみません、この子は奴隷なんですか?」

「あぁ? そうだよ、今から奴隷商会んとこ行って売るんだよ」

「子どもは大人よりも多少なりとも金になる、だから稼ぐ力もない俺の機嫌を損ねるだけのコイツはなぁ!」

「奴隷として売るんだよ! 売れれば俺に金が入る、金が入れば少しは親である俺への恩返しにもなるしな!」


「すみません、この子、いくらですか」

「はぁ?」


 この子…もしかして僕を…?

 よく見たら…この子…シルビアと同じ模様の…。


「テメェみたいなガキが買えるような値段じゃねぇよ、帰れ帰れ」

「いくらですか」


「くっ、、」

「し、しかたねぇ、大金貨3枚だ…払えんのかぁ、あぁ!?」

「お金、ありますか?」

「は、はい…一応お小遣いはグラナト様から貰っていますので」


 この人たち、本当に僕を買う気なの…?

 買ってどうするんだ、貴族ってことは一生働かせる気なのか?


 ——まぁ、それでも今の生活よりは何倍かマシか…。

 むしろ買って欲しいくらいだ、暴力は多少振られてもいい。

 この生活から抜け出せるなら、そして最後には死なせてこの苦しみから解放してくれるなら、どんな人に買われても…。


「はい、大金貨5枚ですね」

「——はぁ?」


「きっちり払いましたので、この子は僕のものですね」


 本当に払った…。

 この生活から解放された…。

 でも、この人たちは僕にどんなことをさせるつもりなんだ。


 そこから病院へまず連れられた。

 様子を見られた。

 こんな怪我じゃそりゃ病院へ行かされるか。

 少しは良心がある人だった。


「さて、まずはこの子に名前をつけてあげるのはどうかな?」

「名前…」

「ねぇ、君はどんな名前がいい? それか元の名前って何かな?」

「………」


 名前…声なんてもう最後にいつ発生したかなんて覚えていないくらい昔だし…。


「………」


 そういえば、買ったこの子、僕よりも小さい子だ…。

 最近の貴族って小さい子でもこんなことができるんだ。


「うーん……」

「リ、リーブ、とかは?」

「リーブ、ですか…いいと思います!」


「僕もいいと思うよ」

「君はどうかな? 気に入ってくれたかな?」


 リーブ、か。

 言葉の意味は今の僕には全く当てはまらないけど、名前自体は気に入ったな。


「今日からよろしくね、リーブ!」


 この子がどんなことをしてくるのかわかんないけど。

 この子は、僕をこの苦痛から解放してくれる、死なせてくれるいい人だといいな。


 ところがこの子は、僕を死なせるどころか、介抱してくれた。

 僕の生活を全て保証するどころか、未来まで保証する気だ。


「………」


 こんなことして何になるんだ…。

 早くこの苦痛から解放されたい…。

 その方が時間の金もかからない、僕がいない方がいいはずなのに…。


 でも違った。


 この子は僕の面倒をずっと見てくれた。

 表情も変わらず、瞳に光など全くない僕を一日中ずっとそばにいてくれて、面倒を見てくれた。

 メイドや従者の人も、気さくに話しかけてくれた。

 返事などする気力がない。

 言葉など発せられない僕を、ずっと…。


 夕食を食べた、その時、僕の中で何かが壊れた。


 僕は涙をし、久しぶりに言葉が自然と口から出た。

 ただ感謝の言葉が、神経を伝って脳へといく過程を無視し、一瞬にして口から言葉がでた。


「………お」

「………あ、あり…がとう…」


 ただ君に感謝、僕はほんの少しだけ…。

 ほんの少しだけ生きようと思えるようになった。


 この方となら、死になくなるようなこの世界で、一緒に過ごせるかもしれないと、そう思った…。


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