第十二話 「幸せのひととき」
「あい……うえ…お」
「か…き…くけ…こ」
リーブは夕食の出来事からわずか一晩で、急に話されるようになった。
ということで急ピッチで言葉の勉強をしてもらっている。
もちろん本人にちゃんと勉強する意思はあるか聞いた。
「さし…す……せそ」
「た……ち…つて…と」
しばらく喋っていなかったせいか、発音の仕方などを体が忘れてしまっていたようだった。
そのため、最初から言語を覚えさせている。
でも、それならどうして、あの言葉は言えたんだろう?
「あ、リヒト様! どうされましたか?」
「少し様子を見にきただけだよ」
「勉強は順調ですか?」
「は、はい……!」
おぉ…! 答えてくれた!
「この通り、順調でございます!」
「よかった〜。 じゃあこのままお願いします」
「お任せくださいませ!」
嬉しいな…。
なんか親になった気分だよ…まだ3歳なんだけどね…。
少しずつ、少しずつだ。
少しずつ慣れていけばいい。
俺もリーブもまだ子どもなんだ。
時間はたくさんある、少しずつこの環境、この理に慣れていけばいいんだ。
* * *
「ふぅ…この先か」
「にしても酷い大雨だな」
この時の時刻は昼間だが、この森は奇妙なことに大雨だ。
この森から離れた平原などは晴れている。
つまりはこの森は局所的な大雨に見舞われているということになる。
そしてこの森に怪しい人物が一人、この先にある大きな都市へ向かおうとしている。
「確かあそこにいるんだよな」
「——天才が」
大魔族の中でも優秀な人が多いと噂だ。
あそこにいけば、俺の求める天才がいるはずだ。
絶対に見つける。
そして、見つけて俺の目的を果たすんだ。
* * *
「リヒト様〜」
「私とお出かけしませんか?」
「フランと? いいけど急にどうしたの?」
珍しいな。
いつもならただそばにいるだけだったのに。
俺も暇だからお出かけはしたいが…。
「ちょっと買いたい物がありまして、、」
「どうせならリヒト様と一緒に行きたいので!」
「——わかった。 行こっか」
よっしゃぁ! リヒト様とのお出かけだぁ!!
ふっふっふっ、、今日のこの時間から夕食まではエリス様の授業もない、完全に暇な時間だということを把握していましたからね!
ということでリヒト様との楽しい楽しいお出かけタイム〜!
もしやこれって…リヒト様とのデ、デートになったりして〜!
えへ、えへへ、、。
フランのやつ、なんで顔に手を当てて変な笑みをうかべてるんだ?
何かよからぬことを考えていそうだな…。
「さぁさぁ! それでは行きましょうか!」
何か買いたいものがあるって言っていたな。
フラン、何を買うつもりなんだろう?
「どこに向かっているの?」
「内緒ですよ〜♪」
はぁ〜幸せ!
リヒト様を誰にも邪魔されなく、私の手を握って隣にいらっしゃる!
なんて幸せなんでしょう…。
はぁ〜もうこのまま昇天してもいいかも〜、、。
「フラン、、フラン…!」
「は、はい…! どうしましたかリヒト様?」
「道の突き当たりだよ。 どっちに曲がるの?」
しまった! 幸せな気分に浸っていたら目的のお店を過ぎてしまった…!
急いで戻らないと…!
「すみませんリヒト様、お店を通り過ぎてしまったようで…」
なるほど理解した。
今も、少し前のお出かけするって言った時と同じ変な笑みをしていた。
やっぱり何か、よからぬ変なことを考えているんじゃ…。
「ここですね」
「宝石店?」
宝石か、フランってそんなものに興味があったんだな。
「いらっしゃいませ〜」
いや、女の子は宝石とか、そういうものが大半の人は好きだと聞いたことがあるし、プランも例外ではないということか。
「どれにしましょうかね〜?」
「種類が多くて悩ましいです〜」
アクセサリーか、ペンダントやら指輪やらブレスレットやら。
いろいろ種類があるし、色も複数あるときた。
俺も即決はできないなぁ…。
「う〜ん…」
かれこれ1時間ほど悩んでいる。
俺はそろそろ眠くて眠くて限界だ。
「フラン…そろそろ決めて……眠いよ…」
「あぁ…すみません…!」
フランは最後まで撮るのを躊躇していた。
結局最後の俺に急かされるまで、どれにするか決めきれなかったっぽいな。
「これをください」
「こちらですね。 金貨15枚となります」
「はい、これで丁度です」
フランは何を買ったんだろうか…?
商品をとってからフランはすぐにレジに向かっていったから、何をとったのか視認できなかった。
「フラン、何を買ったの?」
「これですか?」
フランが綺麗に包装された小さな箱から取り出したのは、銀色の指輪だった。
「こちら、リヒト様にプレゼントしたいんです」
「受け取って、くれませんか?」
これは驚いた。
専属のメイドで、生まれた時からずっと一緒にいる人とは言え、フランも一人の女性だ。
俺は3歳の子どもだが、中身は前世で中年のおっさんだぞ。
一人の綺麗で可愛い女性からのプレゼントとなると、とても嬉しいが、それと同時にかなり恥ずかしいな…。
「リヒト様…?」
「あ、うん、ありがとう」
このプレゼント、いつか絶対に返さないとな。
プレゼントはきちんとプレゼントで返すこと!
俺はまだ3歳だ。
大人になったら、ちゃんとしたプレゼントを渡すから、それまで待っていて欲しいな。
「つけてみて、欲しいです」
「うん…」
サイズピッタリだ…。
「実は数日前にたまたまここのお店に立ち寄った時、とてもリヒト様に似合いそうな指輪を見かけまして…」
「それで特注品を作ってもらえるようここの店員さんに頼んでいたんです」
「もしかすると、他のものに興味をもられるかもしれないので、一応商品を一通り見れるようぐるっと店内を回りましたが…」
特に何も言わなかったからそのままレジに行ったと…。
でも、じゃああの時俺に急かされてとったものはなんだ?
「実は…リヒト様のとは別に、先ほど私のものも、買ってみたんです」
「お揃いですね…」
「——っ!」
そういうことか。
全部、このひと時のために…。
「——ありがとう、フラン。 今日もらったこの指輪、大切にするね」
「はい…! 今日は私のお出掛けに付き合ってくださり、本当にありがとうございます」
こちらこそ、本当にありがとう、フラン。




