第十一話 「初の言葉は」
「………」
リーブはゆっくりと目の前にあるスプーンを持ち、料理の端っこをほんの少し削って口の中へと運んだ。
「………」
どうだ、どうなんだ…?
「………!」
リーブは食べる手を止めることはなく、むしろ手はどんどん早く動いていく。
みるみるうちに減っていく料理に、隣で見ているリヒトはびっくり仰天だった。
「すごい食べっぷり、余程お腹が空いていたのか、余程美味しいのか…」
「………!」
そして更に時間が経ち、リヒトが料理を半分ほど食べ進めた時には、リーブの皿には料理の姿はなく、全て食べ切っていたのだった。
その時のリーブの瞳には、僅かだが光があった。
それに一番近くにいたリヒトは料理に夢中で気づけずにいた。
「ごちそうさまでした〜!」
「いやぁ美味しかった〜」
「では、私はこれで、何かあれば駆けつけますので」
「うん! おやすみ〜」
「おやすみなさいませ、リヒト様!」
さてと、リーブのベッドは急いで僕の部屋に作ってもらったけど…あ、あれか。
結構いい出来なんじゃないのかな?
デザインもいいしフカフカそうだし!
「さ、リーブ! 寝転がってみて!」
「………」
ベッドにぎこちなく寝転ぶリーブ。
だがその直後、リヒトは思ってもみないことが起こった。
ね、寝ている…。
こんな一瞬で寝るとは、正直びっくりした…。
でも、そんなすぐに寝れるってことは、それだけこの場所が落ち着ける場所だってことだよな。
もっとリーブが落ち着ける環境を作らないとな。
「おやすみ、リーブ」
「………」
さてと、俺は寝るまでもう少し時間があるし、魔道書の続きでも見ますかね。
そうして俺は、毎日毎日、リーブのそばに居続け、触れ合い続けた。
本当に常に一緒に居続けさせたから3日くらい経つとフランからの視線が痛くなってきたけど…。
でも俺は、少しずつでもいいからリーブの間大きな穴が塞がって、話せるように、そうなるように努力した。
そんなある日、事件が起こった。
「………」
「今日の夕飯はなんだろうね〜?」
「………」
なんだかリーブ、楽しそう…?
「お待たせいたしました。 こちらが本日のお夕飯のお料理でございます」
こ、これは…?!
まんまカレーじゃねぇか?!
茶色のルーの下に米がある、そこに野菜と肉のコラボレーションが生み出す奇跡の相性!
まさかこの世界にカレーがあるとは…。
「あむ……」
「………」
「「——?!!」」
口に含んだ瞬間、二人に電撃が走った。
お、美味しい…うますぎる…。
前世でたまに食っていたレトルトカレーの何倍もうまい…。
「………」
リーブも、心なしか嬉しそうだ。
「………お」
え、? リーブ、今…。
聞き間違いか?
いやいや、聞き間違いなら何かしら声は出ている…つまりは…。
「………あ、あり…がとう…」
「「——?!!」」
リ、リーブが、喋った、喋ったぁ?!!
なんと?! リーブが喋ったぁ?!
リーブが今、喋ったよな?
「リーブ! 今の言葉…」
「………あ、あり…がとう…」
笑ってくれた…。
それに初めて声を聞いた…。
これほど嬉しいことはないよ…。
「こちらこそ、、ありがとう」
「うぅ。。ありがとう…本当にありがとう…」
リヒト様、泣いていらっしゃる…。
それだけリーブのことを気にかけていたんですね。
私もいつも近くで見ていたからその気持ちはわかります。
「………?」
その日の夕食の時、この家の偉い人たちは皆、涙を流した。
リーブは、皆から慕われている。
それは決してリヒトが関与しているからではない。
ただ純粋に皆は、リーブのことを気にかけ、気さくに話しかけてくれていた。
今回のリーブの初声の話は、その日のうちにアークストン家のほぼ全員が知るほど、瞬く間に広がった。
だがリーブは、そのことに対して自分のことで大騒ぎしているとは思っていなく、終始どうして皆は騒いでいるのか、よく分かっていなかったのだ。
「リーブ! おやすみ!」
「………」
初めて声を聞けた…!
まだ自分の思ったことだけしか出せないのかもしれないけど…。
対話や返答とかは難しいかもだけど。
少しずつでもいいから、この言葉の返事を聞きたいな…。
おやすみ、リーブ。
* * *
大雨の森の中を歩く一人の人物。
彼は泥だらけの地面を気にすることはなく、まっすぐ森の中を歩いている。
見た目は真っ黒の服で、フードを被っているため、顔は認識できないようになっている。
そんな彼が歩く方向の遥か先には、とある大きな都市があった。
* * *
「………」
「………お…おは…」
ん? 何か声が…。
フランがまた勝手に部屋に入ってきているのか?
「………おは、よう…ご——」
いや違う、フランの声じゃない。
とすると他のメイドさんか?
とりあえず起きるか…。
「よいしょっと」
「………?!」
んん? リーブ?
「………」
「あぁリーブ…おはよう…」
さっきの声はなんだったんだ?
まさかリーブ、、な訳ないか。
「………おは、よう…ご、ございます…」
「——っ?!」
「リーブ…今なんて…」
「………」
今、おはようって、言ったよな?
夢じゃないよな? 俺ちゃんと目覚めたよな?
つねってみよう。
「…!!」
いてぇ…ってことは現実か…。
「………リ…リヒト…様」
おいおい、名前まで呼んでくれたよ…。




