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病で死んだら時間が巻き戻ったので、王女殿下ばかりを優先する婚約者を詰問することにした  作者: 日向 風花


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断罪

 ジェラールは二つの指紋が並ぶ紙を覗き込むように俯いて、しばらくの間沈黙していた。


「納得いただけないのであれば、魔道具を使って類似している割合を計算しましょうか?」


シリルが気遣い半分、あきれ半分に問いかけると、ようやくジェラールは言葉を発した。


「いや……よい。そなたが魔道具まで用意したのだ、否定する余地はないのだろう」


そこで王は顔を上げた。不気味なほど穏やかな笑みを浮かべてカルロのほうを見る。


「そう……そうなのか、そなたは本当に、私の子なのだな」


先ほどまで偽物と決めつけてかかっていたカルロへ、ご機嫌取りのような笑顔で手を伸ばす。


「私は王妃に騙されていたのだ。そなたの母に唆されて、リュシアンを身代わりにしてしまった。生きて、いたのだな……」


「気持ち悪っ」


生き別れた息子との感動の再会みたいな顔をする生物学上の父親に対して、カルロは吐き捨てた。


「俺が生きとると知らんかった?俺が死んだほうが都合ええから生死を確認せんかった、の間違いやろ。俺の父ちゃんはお前やない。今更父親ヅラせんといてくれ」


嫌悪に満ちた明確な拒絶に、ジェラールは傷ついたような顔で目を見張った。その表情に、カルロはなおのこと苛立つ。


「そもそもこの状況で真っ先に心配することが、異母兄殿の進退か?レオノールがボロボロな理由とか、王妃が捕縛されたわけとか、気にするところたくさんあるやろ」


そう言われて、初めて王は妻と娘に目をやった。王妃が捕らえられているのは悪事が露見したのだろうとしか思っていなかったし、レオノールに至っては全く興味がなかった。


「わたくしどもが王妃陛下を捕縛した直接の理由は、レオノール姫を保護するためです」


そんな彼の心境を知ってか知らずか、ディアナが説明する。妻の言葉を引き継いで、シリルが続けた。


「王妃陛下は姫君に対して精神的、肉体的虐待を繰り返しておられました」


そんな馬鹿な、王妃はレオノールを甘やかしていたはずだ、と狼狽える王の前に証拠となる調査結果が積みあがる。


こんなもの捏造だと叫びたいのに、王女の体に古傷があることを直接確認した者のサインを見て黙らざるを得なかった。


そこにはローランとセギュール、二人の公爵夫人のサインが並んでいたのだ。


レオノールの味方をするなど、ディアナだけではなく妹にまで裏切られた気分だった。


「王妃陛下の罪はそれだけではございません。ご実家と結託して我が国の血統魔法を略取するために、姫君を使って――」


愕然とするジェラールに向かって、シリルは淡々と王妃の悪行を明かしていった。


時戻しの魔法を手に入れるために、カルロを影武者にしてレオノールを幼いころから洗脳していたこと。


社交界に君臨するために行われた脅迫と贈賄、国家機密の横流し。


果ては未成年の娘の体を使ってローラン家の派閥の貴族たちに裏切りを持ち掛けていたこと。


売国奴としか言いようのない悪逆の証拠が積みあがっていく。


「もはや言い逃れの余地はないでしょうが、被疑者の反論も聞かぬは法治国家の恥でございます。一応、王妃陛下の言い分も聞いてみましょうか」


シリルに促されてディアナが王妃の口元から防音の布を外した瞬間、会議室中に耳をつんざくような金切り声が響き渡った。


エウラリアは怒りと恥辱に目を見開き、己以外のありとあらゆるものに対して罵詈雑言の限りを叫んだ。


「お前たち、かつての大飢饉を救ってやったのは誰だと思っておる!?この恩知らずども!!わらわの子が王太子でなかったと知れば、お父様が黙っていないわ!お前たちに待っているのは破滅だ!今にリケッツアが総力を挙げてこの国を滅ぼしに来るだろう!それとも滅ぼされるのはあちらのほうかしら?わが祖国は小国だもの。別にそれでも良いわ、わらわを虚仮にしたあんな国、滅びればよい!マグノリアとて、ただではすまぬ!共倒れになればいいわ、あはは、あはははは!!!」


憎悪と怨嗟をまき散らす王妃の言葉を聞いても、シリルは冷静だった。


「いいえ、そのようなことにはなりませんよ、王妃陛下。残念ながらお父上は失脚されました」


代わりにリケッツア首長の座に就いた嫡子の名前を聞いて、エウラリアは言葉を失った。


新首長の座についた異母兄は厳しく冷酷で合理的な男だったが、ものの道理を弁えた人物でもある。


「元々リケッツア国内でも、お父上の強引なやり方は反発を買っていたようですね。代替わりは滞りなく行われたそうですよ」


「そ、んな、噓、よ……」


「本来であれば、救援の見返りにあなた様を王妃とし、御子を次期王とする契約を破った咎はマグノリアにございました。ですが、王妃陛下の悪行があまりにも度を過ぎていたこと、何より御子の入れ替えはあなた様も承知の上であったことを鑑みて、新首長殿より契約不履行は不問に付すとのお墨付きをいただいております」


無論、新首長もただで許してくれたわけではなく、今後十年にわたって最新の魔道具や技術をリケッツアに提供することが決まっている。魔法卿としては痛手であるが、国家の安寧と娘の命がかかっていると思えば安いものだ。


「ふっ、無様なものだな、エウラリア」


もはや逆転の目はないのだと思い知って泣きわめく王妃を見て、ジェラールは徐々に顔色を取り戻していった。


リュシアンが王妃の子ではないと露見してしまった時は痛恨の極みと思ったが、このような悪女の血をひいていない事実はむしろ好都合。


そんな王の心中を知ってか、シリルが冷ややかに問いかけた。


「王妃様のことを誹謗できたお立場ですか、国王陛下」


「シリル……?何を言っているのだ、私は何も知らず騙されていた被害者だぞ?」


「何も知らなかった?国王ともあろう方が、知らなかったで済むと本当にお思いか?」


とはいえ、証拠集めに関してはシリルもあまり貢献できた立場ではない。


ローラン家は根回しや情報収集があまり得意な家柄ではなく、途中でセギュール家の協力は得たものの、国内勢力だけではここまでの展開に持っていくには無理があった。


この一か月間、リケッツアの首長を代替わりさせるために暗躍し、新首長との協力体制を築き、王妃の悪行の決定的な証拠を集める決定打となったのは、カルロと彼の養父であった。


それを知ったエウラリアは、血走った目で双子の子供たちを睨みつけた。


「お前たち!よくもかわいそうなお母さまを裏切ったわね!?親不孝者、親を売った悪魔ども!!お前たちなど、産むのではなかっ」


パシン、と音を立てて頬を打たれた後に口の中へ防音の布をねじ込まれ、エウラリアは強制的に黙らされた。


王妃を平手打ちしたディアナは、厳しい顔で怒鳴りつける。


「一国の王妃ともあろうものが、恥を知りなさい!……王妃陛下。ここまで証拠がそろっていれば、あなた様を処刑するくらい本当は可能でした。助命の機会を懇願なさったのは、レオノール姫ですよ?」


レオノールの説得にエウラリアが応じれば、できる限り処刑は回避するとシリルたちは約束していた。その約束も、無用のものとなってしまったが。


「カルロ殿もあなた様の死までは望んでいなかったから、妹君を止めなかった。二人がどんな思いで、我々に協力したと思っていて?よくも自分がかわいそうだなんて言えたものね」


同じ母親として軽蔑するわ、とディアナは吐き捨てた。


「クズの夫なんか放っておけばよかったのよ。あの子たちのために生きるだけであなたは幸せになれたし、復讐にだってなったでしょう」


「おい、ローラン公爵夫人、聞き捨てならんぞ」


さりげなくクズ呼ばわりされたジェラールが抗議するが、二家の公爵家全員から冷たい目で見られて押し黙った。


「陛下、わたくしはかつて親交のあったアンリエット様の護衛候補でした。エウラリア様のお輿入れが決まった時、アンリエット様と親しいわたくしが護衛では心が休まらないだろうと王妃様の護衛を辞退いたしましたが、今思えば失敗でしたわ」


ディアナはため息をついて、調査の中でわかったことを思い出していた。


当時、エウラリアにつけられたのはアンリエットに心酔していた娘ばかりだった。そんな人員配置を良しとしたのは、ほかならぬジェラールだ。


「王妃陛下は被害者意識の強い、偏屈な女性ではあったのでしょう。けれど常にアンリエット様と比べられ、陰口をたたかれては、清廉な方でも嫌気がさして当然です。陛下御自身は粗略に扱ったつもりはなかったのでしょうが、こんな差配をしておいて、ご自身に一片の非もないとお考えですか?」


国王は反論できずに、がっくりと肩を落とした。そんなジェラールに、シリルが苦笑を漏らす。


「そう気を落とさず、陛下。散々偉そうな口を叩いてしまいましたが、我らとて無実ではないのです」


レオノールに淫らな行いをしたのはローラン家の寄子である。知らなかったでは済まされないのは、シリル達も同じだ。


ローラン家が完全に潔白な身ではないからこそ、セギュール家の面々に立ち会ってもらったのだ。


「待たせてすまなかったね、トリスタン。さて、そちらの言い分も聞いてみよう」


シリルが愛娘の婚約者に視線を向ける。王女暴行の実行犯を捕えていたトリスタンは、魔法で拘束していた男の顔から防音の布をはぎ取った。


「……なぜだ、ダミアン」


布の下から出てきた顔は、トリスタンの従僕だった。


リシャール家に代々仕えた子爵家の次男で、トリスタンは幼いころからもう一人の兄のように慕っていた男だった。


クロエの覚えている時戻しの前の世界でも、レオノールを優先するトリスタンに代わってローラン一家に頭を下げ、詫びの品を届けるなどして、いかにも忠臣のように見えていた。


「なぜって。俺の出自もどーせ調査済みなんでしょ?無能で浅はかなお坊ちゃん」


トリスタンから憎悪の眼差しで睨みつけられても、ダミアンはどこ吹く風とせせら笑った。




 密偵を本業とするカルロの協力があっても難航したのが、ローラン家側の裏切り者の調査だった。


マグノリアの子孫の血の秘密を王妃に売り渡し、一族虐殺を招いた張本人の正体である。


一応、候補はいた。レオノールの体をもてあそんだ血族の下級貴族どもだ。


彼らは証拠を押さえてすでに捕縛しているが、簡単に主家を裏切るだけあって、一族の秘事を知るものは一人もいなかった。


そもそも、マグノリアの血族の生血が血統魔法の触媒になるなど知られたら、情報を提供した本人が危ない。


そのため今度はトリスタンの兄嫁のように、マグノリアの血を持たない他家から婿入り、嫁入りした者へと調査が移った。


該当者のひとりがダミアンの母親だった。彼女も子爵家に他家から嫁入りした身だったのだ。


子爵自身は他家出身の妻に一族の秘密を教えるような人物ではなかったが、妻のほうは夫に対してひどい裏切りを働いていた。


ダミアンは母親がよその男と作った、托卵の子だったのだ。つまりダミアン自身には、魔女マグノリアの血が一滴も流れていないことになる。


浮気がばれた妻は必死に許しを請い、子爵は渋々再構築を選択した。


生まれてきたダミアンに罪はないので養育もしたが、さすがに家の重要なポストにつけるわけにはいかず、あてがわれたのがトリスタンの従僕という役目だった。


このような温情をかけたのが、間違いのもとであった。


子爵家の自分が伯爵家の次男の使用人。それも成人前の社会勉強程度ではなく、一生の仕事にしなくてはならないことに、ダミアンは密かに不満をため込んでいた。


公爵家に婿入りするトリスタンについていたダミアンには、血の秘密を知る機会などいくらでもあった。


王女の秋波をものともしないトリスタンにいら立ってもいたので、さっくり主家を王妃に売って、王女をわがものとする機会を窺っていたのだ。


「公爵家のお嬢様が婚約者で、家族仲もよくて、魔力が豊富で、王女様にまで愛されて。苦労もせずに何もかも手に入れたクソガキが、転落するのが楽しみだったんだけどなぁ」


残念そうに嘯くダミアンは、もはや自分の命運にすら頓着していないようだった。

実は第一話に真の裏切り者が登場済みだった、という展開をやってみたかった。


エリオット「この話の登場人物って、俺たちがモデルなんっすよね?」

アーサー 「らしいね」

エリオット「俺をモデルに作られたのが、ダミアン?」

アーサー 「僕がトリスタン氏らしいから、配役的にはそうなっちゃうね」

エリオット「いーやーだー!主を裏切る従者役なんて風評被害だ!」

アーサー 「どんまい。エリオットがいいやつだって、僕はわかってるよ」

エリオット「坊ちゃん……!」

アーサー 「まぁ、小さいころの感じのまま育ってたらダミアン氏みたいになったかもしれないけど」

エリオット「あげてから落とすのひでぇ!!!」

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