シーン1-2 「存在の消失」 ― 第5章『No Route, True Love』
リリアは、いつもの教室の扉を開けた。
朝の光が窓から差し込み、埃がきらめいている。
――変わらないはずの風景。けれど、そこにあった“彼女の席”だけが違っていた。
そこには、別の少女が座っていた。
明るい笑顔。友人たちと楽しげに話す声。
その光景は、まるで「最初からそうだった」かのように自然だった。
誰もリリアに気づかない。
視線を向けることも、名前を呼ぶこともない。
リリア(心の声):「……わたしの、席……?」
黒板には、昨日まで自分が書いた文字があったはずだ。
だがそこは、すでに真っ白に消されている。
チョークの粉すら残っていない。
リリアは自分の机に手を伸ばす。
――冷たい。
その上にあったはずのペンダントも消えていた。
あの“選択の証”は、もうどこにもない。
静かにノートを開く。
けれど、ページに書かれていた文字が一瞬、ざらつくように崩れ始めた。
まるでデータが破損していくように、文字がノイズと化して消えていく。
《#Character_Data: Unknown》
《#Route_Record: None》
教室の照明が一瞬だけちらつき、
世界そのものが“リリアという存在”を削除していくように見えた。
彼女はページの白紙を見つめながら、微笑を浮かべる。
リリア(独白):「……私の物語は、もう誰の記録にも残っていない。」
窓の外では、春風がやさしくカーテンを揺らしていた。
その風だけが、まだリリアの髪を撫でてくれる。
そして、教室の空気にふっと淡いノイズが走る。
視界の端に、薄く消えていくウィンドウが浮かんだ。
《#Game_System: Shutdown Sequence Initiated》
世界が、ゆっくりと終わり始めていた。




