シーン1-3 「愛を覚えている唯一の人間」 ― 第5章『No Route, True Love』
屋上の扉を開けると、
朝の風が一気に吹き抜けた。
制服のスカートがふわりと揺れ、
リリアの髪が淡い光を受けて流れる。
世界は静かだった。
鳥の鳴き声がひとつ――それきり、音は消える。
校庭を見下ろせば、生徒たちが小さな点のように動いている。
けれど、誰も彼女の姿を見上げることはない。
この世界に、リリアという存在はもう記録されていないのだ。
それでも、彼女の瞳には確かな色があった。
淡い桜色。
すべての色を失ったモノクロの景色の中で、
その瞳だけが“春”の記憶を宿していた。
リリア(独白):「みんなが忘れてもいい。
あの瞬間、確かに“好き”だった――
それだけで、私はここにいる。」
風が彼女の頬を撫でる。
その冷たさの中に、ほんのわずかな温もりを感じる。
――誰かに触れられたような錯覚。
けれど振り返っても、そこには誰もいない。
リリアは手すりにそっと触れ、
眼下の桜並木を見つめた。
枝だけになった桜が、
まるで再生を待つように、空へと手を伸ばしている。
彼女は小さく息を吐き、目を閉じた。
静寂が世界を包み込む。
そして、その沈黙の中で――
リリアだけが、“愛”を覚えている唯一の人間として、
確かに、そこに生きていた。
(演出)
・BGM:無音に近く、遠くで鳥の鳴き声が一度だけ。
・画面トーン:モノクロ。リリアの瞳のみ淡い桜色で描写。
・最後のフレーム:瞳の桜色が、微かに光として揺らめく。




