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シーン1-1 「静かな朝」 ― 第5章『No Route, True Love』
朝の光はやわらかく、どこか遠い。
校庭には淡い靄がかかり、散り終えた桜の木々が、枝先だけを青空へと伸ばしていた。
春のはずなのに――どこか、冬の終わりのような静けさがあった。
リリアは、ひとりで歩いていた。
足音は確かに響いているのに、誰の耳にも届かない。
グラウンドの向こうでは、部活動の掛け声が聞こえる。
けれど、それは水の底から聞こえてくるように、濁っていた。
リリア(心の声):「……声が、届かない。」
彼女の肩を、走り抜けた誰かの腕がかすめた。
驚いて振り向いても、誰もいない。
制服の裾が、風に揺れるだけ。
ためらいながら、すれ違う生徒の肩へと手を伸ばす。
――だが、その指先は何も掴めず、空気を切り裂くようにすり抜けた。
まるで、彼女だけが世界から一歩だけずれて存在しているようだった。
音も、風も、人のぬくもりも――全部が遠い。
リリア(囁く):「私は……まだ、ここにいるのに。」
桜の枝が風に揺れ、散りきれなかった花びらが空を舞った。
だが、その花びらでさえ、彼女の頬には触れなかった。
春の朝は美しく、そして――あまりにも冷たかった。




