シーン4① 導入 ― 春の再生
――風が、逆さに吹いていた。
桜の花びらがふわりと舞い上がり、枝へと帰っていく。
まるで時間そのものが、後ろ向きに歩いているみたいだった。
学園の中庭。
あの日と同じ景色――けれど、どこか違う。
笑い声も、鐘の音も、すべてが**“巻き戻し”**の中に沈んでいく。
リリアは静かに立ち尽くしていた。
淡い風に髪をなびかせながら、遠くに滲む桜雲を見上げる。
「戻ってきた……」
小さく呟いた声が、空に吸い込まれる。
その響きに、彼女自身の心臓の鼓動が重なった。
「ここが、最初で――最後のループ。」
足元の芝生がざわめき、ノイズの粒子が弾ける。
データの断片が草の間から湧き出し、やがて風に溶けていく。
空の彼方には、光の糸が幾重にも走っていた。
青と白の境界がひび割れ、そこからコードの流線が伸びていく。
世界が、壊れながら再生している。
それでも、リリアの表情は穏やかだった。
胸の奥に、確かな予感があった。
――これは“終わり”じゃない。
ここから始まる、最後の選択。
桜の花が一輪、逆再生を止めて、彼女の肩にそっと落ちた。
それは、時間の流れの中で唯一前に進んだ花びらだった。
リリアは微笑み、そっとそれを掌に受け止める。
「……待ってて。今度こそ、終わらせるから。」
空が低く唸り、遠くで光が瞬く。
――そして、再び物語が動き出した。




