シーン4:データの崩壊
世界が、音もなく軋んでいた。
中庭を包む空気が歪み、風が逆流する。
目の前に立つレオの輪郭が、ノイズの波に溶けていく。
その笑顔は、まるで壊れたホログラムのように――笑うたび、光の粒がこぼれ落ちた。
――《#Emotion_File: Corrupted》
――《#Loop Stability: Critical》
機械的な声が空間に響く。
けれど、それはこの世界の“悲鳴”のようでもあった。
リリアはただ、手を伸ばすことしかできなかった。
「……やめて、レオ!」
彼は微笑んだまま、首を横に振る。
その表情には、もう涙も恐れもなかった。
「泣くなよ……その涙、世界を巻き戻すぞ……」
声が、断片となって宙に散る。
残ったのは、微かに笑いの形を保った光の粒だけ。
レオの姿が完全に崩壊する直前、
リリアの頬を一筋の涙が伝った。
それは“感情データ”として認識され、床に落ちる。
瞬間、白い光が世界を包み込んだ。
――《#Emotion_Overflow=True》
――《#Loop_Trigger=Manual Override Detected》
リリアの叫びが光の渦に呑まれる。
「レオ――!」
音も、色も、全てが反転していく。
笑顔の世界が、沈むように崩れていった。
そして最後に残ったのは、
壊れたオルゴールのような笑い声の残響だけ。
それが消えた瞬間、再起動音が静寂を裂く。
――《System Reboot : Phase_4 Initiated》
桜の花びらが一枚、逆再生のように空へと舞い戻った。




