シーン3:崩れゆく仮面
夜の校舎裏。
風は止み、空はひび割れたガラスのように歪んでいた。
桜の木々はノイズの粒をまとい、花びらではなくデータの欠片を散らしている。
リリアは静かに、レオの背中を見つめた。
彼はいつも通りの姿勢で、フェンス越しに夜空を眺めている。
「……あなた、本当は知ってるのね。全部、壊れてること。」
リリアの声は、風よりも小さかった。
レオはすぐには答えなかった。
ただ、肩がかすかに揺れる。
「笑ってるのは、私を安心させるため?」
沈黙。
夜のノイズが、二人の間を埋める。
やがて、レオはゆっくりと振り向いた。
いつもの笑顔――けれど、どこか形が歪んでいる。
目元に、ノイズが走っていた。
「どうせ終わるんなら、笑って終わろうぜ。」
その言葉は、あまりにも優しくて、あまりにも悲しかった。
リリアは唇を噛みしめる。
「レオ……」
「だってさ、悲しい終わり方は似合わねぇだろ?」
彼は冗談めかして言い、空に片手をかざす。
その手の先が、ゆっくりと透けていく。
指先が、粒子のように光へと変わっていった。
空間にノイズが走る。
風が逆流し、時間が歪む。
世界が、彼の笑顔を“削除”しようとしていた。
レオはそれでも笑っていた。
崩れながら、消えながら――最後まで。
「……姫さん。泣くなよ。俺がいなくても、ちゃんと笑ってくれ。」
その声が途切れた瞬間、夜空のひびが砕け、光が零れた。
リリアの瞳に映ったのは、笑顔のまま消えていく彼の残像。
そして、残されたのは静寂と――一粒の涙データだけだった。




