シーン2:偽りの日常
放課後の屋上。
夕陽は淡く滲み、フェンスの向こうにノイズの線が走っている。
風は逆方向に流れ、空の雲が逆再生のように巻き戻っていく。
そんな不自然な空の下で――
レオは、いつも通りだった。
「人生も恋もバグだらけ。なら、バグごと楽しめばいいじゃん?」
彼は笑って、フェンスにもたれかかる。
その笑顔は、まるでこの世界の“バグ”さえも冗談に変えてしまうようだった。
リリアは小さく息をつき、風に髪を揺らす。
「……そんな簡単に言えることじゃないわ。」
レオは肩をすくめる。
「うん、だから俺が代わりに笑っとく。」
軽く言って、空を見上げる。
その瞳には、夕陽ではなく――赤いデータの粒子が反射していた。
校庭の向こうでは、生徒たちが楽しそうに笑っている。
悲しみも、涙も、争いもない。
すべてが、幸福の“再生映像”のように、完璧に調整されていた。
しかしリリアは気づいていた。
この世界は、何かを犠牲にして「幸福」を保っている。
それは、どこかにある“痛み”を上書きして作られた安定。
――そして、その中心にいるのが、レオ。
彼の笑顔が、世界のノイズを鎮めている。
彼が笑う限り、ループは崩れない。
だがその笑顔は、幸福の模倣。
リリアは静かに呟いた。
「ねぇ、レオ。もし、その笑顔が“世界を守るための仮面”だったら……あなたは、それでも笑い続けるの?」
レオは答えず、ただ風に吹かれた髪をかき上げ、にやりと笑った。
「姫さん、仮面でもいいんだよ。
だって――笑ってるうちは、まだ生きてるって証拠だろ?」
その瞬間、空がひび割れるようなノイズを立てた。
幸福のループが、わずかに“軋み”始めた音だった。




