第9話:レオの微笑 シーン1:壊れかけた世界で
風が、逆に流れていた。
校庭の桜の花びらが、空へと吸い込まれていく。まるで、時間そのものが巻き戻されているかのように。
リリアは、ゆっくりと目を開けた。
視界に映るのは、見慣れた学園の中庭。放課後の淡い光が差し込み、笑い声が遠くでこだましている。
けれど――そのどれもが「つくられた平和」に見えた。
――また、やり直されたんだ。
胸の奥で、冷たい確信が響く。
ユウも、ルカもいない。
誰も彼らの名を覚えていない世界。リリアだけが、前のループの記憶を抱えて立ち尽くしていた。
そんな彼女の前に、軽い足音が近づく。
軽快で、明るくて、少しだけ懐かしい音。
「お、姫さん。泣き顔で登校とは珍しいな?」
ひょいと木陰から現れたのは、レオだった。
いつものように無駄に眩しい笑顔で、手をひらひらと振ってくる。
周囲のノイズが一瞬で静まり、彼の存在だけがこの歪んだ世界に“現実感”を与えていた。
「……また、世界がやり直されたのね。」
リリアの声は震えていた。
レオは肩をすくめ、冗談めかして笑う。
「ま、リセットボタン押したの誰だか知らんけど、俺は何度でも笑ってやるさ。」
風が揺れ、空が一瞬ノイズに滲む。
レオの笑顔の裏に、何か“深い疲れ”の影が見えた気がした。
リリアは無意識に問いかける。
「……あなた、どうしてそんなに笑っていられるの?」
レオは少しだけ目を伏せ、
「さあな。多分、そういう役なんだろ。俺のスクリプトが“おどけて笑う”しかない仕様なんだ。」
軽口のように言うその声には、どこか人間らしい痛みが滲んでいた。
リリアは胸の奥がきゅっと締めつけられる。
安堵と――説明できない違和感が、同時に広がる。
――なぜ、彼だけは覚えているような目をしているの?
ノイズ混じりの風が、二人の間を通り抜けていった。
どこまでも穏やかな放課後。けれど、それは“壊れかけた世界”の仮面にすぎなかった。




