シーン2:感情データの実験
白い実験室。
壁一面に広がるモニターが、リリアの姿を何重にも映し出していた。
空気は微かに震え、装置の稼働音が静かな脈動のように響く。
中央のプラットフォームに、リリアが立っていた。
背後には幾本もの光のコード。彼女の呼吸一つで、淡い粒子が漂い、まるで心の温度までが目に見えるようだ。
「ねぇ、ルカ……これ、本当に必要なの?」
その声はかすかに震えていた。
ルカは無表情のまま、指先で端末を操作する。
ホログラムが開き、彼の前に無数のデータラインが走る。
「君を守るためだ。感情を数値化し、“恋”というウイルスを無害化する。」
静かな声。だが、その言葉には異様な冷たさが宿っていた。
モニターには、リリアの心拍、瞳孔の反応、涙の温度までがリアルタイムで表示される。
ひと筋の涙が頬を伝う。
その瞬間、ホログラムのグラフが大きく波打った。
桜色の線が乱れ、淡い光の粒が天井に舞い上がる。
「……それが、私の“心”なの?」
リリアの問いに、ルカは短く答える。
「ああ。だが、数式にできるということは、壊すこともできるという意味だ。」
その言葉が、刃のように空気を裂く。
ルカの瞳に映るリリアは、まるで解析対象のサンプルのようだった。
けれど――その指先が、微かに震えているのをリリアは見逃さなかった。
「ルカ……そんな目で、私を見ないで。」
彼女の声が、冷たい実験室の中に小さく揺れる。
ホログラムの桜色の波形が、まるで心臓の鼓動のように脈を打った。
ルカは黙ってモニターを見つめる。
光の粒が、彼女の輪郭を淡く包み、世界と彼女の境界を曖昧にしていく。
その美しさに――彼は、理性を保つのがやっとだった。




