第8話:真実の理系ルート シーン1:理論の果てで
夜の研究室。
無数のホログラムが宙に浮かび、青白い光が壁一面を照らしていた。モニターには途切れ途切れの数式と、脈打つように点滅する文字。
《恋愛アルゴリズム解析進行率:87%》
ルカは机に片肘をつき、指先で光のラインをなぞる。
スクリーンの奥で、数千のデータが心拍のように鼓動していた。
「感情の起点は因果。因果の総和は選択……そして選択の結果が、“恋”だ。」
低く、淡々とした声が研究室の静寂を切り裂く。
その声には、熱も躊躇もない。ただ“真実”だけを追う者の音色だった。
彼の視線の先には、一枚のホログラフ。
そこには微笑むリリアのデータ映像が映し出されていた。
柔らかく揺れる髪。まばたきの一つまで完璧に再現されたその存在は、もはや人間の域を超えている。
だが、ルカの指先は震えていた。
冷徹に見えるその瞳の奥に、確かに揺らぐ“何か”がある。
「リリア……君は、どうしてこんなにも、論理を壊す。」
彼は目を閉じた。
思考回路の奥で、因果と感情がせめぎ合う。
リリアを救いたいという願い。それを可能にするための理論。
しかし、解析を進めるほどに、彼はこの世界の残酷な真理へと近づいていった。
恋愛――それは、この世界を動かすシステムの中に組み込まれた“錯覚”。
人が誰かを想うたびに、プログラムは新たな因果を生成し、幸福と絶望を演算する。
愛など、設計された数式の産物に過ぎない。
「ならば……愛とは、誰かの設計した幻か。」
その呟きは、静かな夜に溶けていった。
ホログラムの光が一瞬揺らぎ、まるでリリアが寂しげに微笑んだように見えた。
ルカは白衣の裾を握りしめ、目を伏せる。
恋という現象を解体しようとするたびに、彼自身の心が、確かに“恋”という熱に蝕まれていく。
理論の果てで、彼は気づき始めていた。
真実を知ることと、誰かを想うことは、決して両立しないということに。




