第5話 季節の巻き戻り シーン1:朝 ― 「戻った季節」
(BGM:淡いピアノのアルペジオ。窓の外で鳥のさえずり)
リリアはまぶたの奥に光を感じ、ゆっくりと目を開けた。
柔らかな春の匂い。――なのに、胸の奥が冷たく沈んでいる。
「……嘘、でしょ。」
カーテンの隙間から差し込む光が、
机の上のノートを照らす。
窓の外には、満開の桜。
薄桃色の花びらが風に舞い、教室の窓をくすぐるように揺れていた。
けれど、昨日まで――たしかに蝉が鳴いていた。
制服も、夏服だった。
それなのに今は、みんな長袖のまま。
「おはよー、リリア!」
「ねぇ見た? 今日の昼、購買に新メニュー出るんだって!」
生徒たちは笑いながら、まるで昨日をなぞるように同じ会話を交わしている。
誰も異変に気づいていない。
リリアは震える指で腕時計を見る。
秒針は滑らかに進んでいる。止まってはいない。
ただ――日付が違っていた。
「……4月10日。」
教科書の間に挟まっていたメモにも、同じ日付が書かれている。
昨日までの痕跡は、跡形もなく消えていた。
――第1話、あの“王子ルート”が始まった日。
心臓が、どくりと鳴る。
胸の奥で、昨日の“白い空”と“レオの笑顔”が重なった。
(昨日……あの屋上で、レオは消えたはず。
なのに、どうして――桜?)
リリアは机の下で手を握りしめる。
爪が掌に食い込み、痛みで意識をつなぎとめた。
その瞬間――教室の空間に、
電子ノイズのような微かな“音”が走った。
窓の外、空の端。
光の粒が細かく跳ね、目には見えないデータの残滓が漂っている。
そして、誰も見ていない“空間の上部”に、
赤いシステム文字が一瞬だけ浮かび上がった。
《#Loop_Cycle: 01 → 02》
《#Temporal_Rollback=Complete》
リリアだけがそれを見た。
その意味を理解する前に、花びらが一枚――静かに彼女のノートに落ちた。
まるで、再演の幕開けを告げる合図のように。
(BGMフェードアウト、花びらがスローモーションで舞う)




