第4話 自由人の舞台シーン2:語り ― 「恋を演じること」
風が強くなった。
舞台布がばさりと空へ舞い上がり、夕陽を裂くように翻る。
レオはそれを目で追いながら、どこか遠い世界を見つめるように呟いた。
「俺さ、恋を演じるのが得意なんだ。」
軽く笑いながら、フェンスの上で足をぶらつかせる。
その笑顔には余裕と諦めが同居していた。
「台詞も、間も、全部完璧。
観客が泣くタイミングだって、わかる。
でもさ――」
レオはゆっくりと手を伸ばし、空を掴むような仕草をした。
風がその指の間をすり抜ける。
「観客がいなきゃ、芝居も恋も成立しない。」
その一言に、リリアの胸がわずかに震えた。
「……観客?」
問い返す声がかすれる。
レオは頷き、リリアの方を見ないまま続けた。
「そう。相手の“心”を動かして、初めて恋は意味を持つ。
誰も泣かない恋も、誰も笑わない芝居も、ただの幻だろ?」
その言葉が、まるで鋭い刃のようにリリアの内側を突き刺す。
彼女は“恋を壊す”ことでしか存在できない。
誰かの感情を、無にすることが自分の役割――。
だが、今のレオの言葉は、その“使命”を静かに否定していた。
「……この世界は虚構よ。」
「全部、台本どおりの恋。」
リリアの声は冷たいが、どこか揺れていた。
「だったら、お前は何のために“壊す役”をやってるんだ?」
レオの問いが、風よりも鋭く胸を貫いた。
リリアは唇を開きかけ、けれど声にならなかった。
――答えられない。
自分でも、その理由がもう分からない。
風がまた吹いた。
舞台布が揺れ、夕陽がフェンスの向こうに沈んでいく。
沈黙が、屋上を包み込んだ。




