第3話 観測者の疑問 シーン5:ステータス変動/終幕
照明が、低い唸り声を上げながら明滅した。
白い蛍光がチカチカと瞬き、天井の隙間からデータノイズの粒子が舞い降りる。
それは埃でも光でもない――世界そのものの“剥がれた断片”。
理科準備室の壁がゆらぎ、現実の輪郭が一瞬だけ透けて見えた。
この場所が仮想空間の端、世界の継ぎ目にあることを、
誰よりも先に感じ取ったのはリリアだった。
ホログラムのウィンドウが再起動を繰り返し、
淡い光の文字が静かに流れる。
《感情変数:曖昧(Ambiguous)》
《世界安定度:-12%》
《観測ログ:更新完了》
ルカは崩れかけたモニターを手で押さえ、
光に照らされたリリアの横顔を見つめる。
彼の声は、いつになく低く、静かだった。
ルカ:「観測は、まだ終わらない。
君の心が、どんな結末を導くのか――確かめてみたい。」
リリアは答えない。
ただ、扉の向こうに差し込む夕刻の光を見つめていた。
その光は現実のようでいて、まるで夢の続きのようでもあった。
ふと背後で、端末が小さく点滅する。
青白い光が、まるで息をするように瞬く。
《#Fragment_Detected:AMARIE_CORE_04》
ルカが顔を上げたときには、
リリアの姿はすでに扉の向こう――
滲む光の中に、ゆっくりと消えていった。
無機質な電子音が、ひとつ、またひとつと重なり、
それがやがて、柔らかなピアノの旋律へと変わっていく。
まるで、理性の奥底に眠っていた“感情”が、
初めて形を持ちはじめた音のように。




