第3話 観測者の疑問 シーン3:感情の実験
ホログラムの光が、二人の間にゆらめいていた。
無機質な理科準備室――その静寂を破るように、ルカが一歩、リリアへと近づく。
彼の指が伸び、リリアの手首をそっと掴む。
冷たい金属の感触のように正確な動作。
その瞬間、机の上の端末に波形データが浮かび上がった。
脈拍のラインが、不規則に跳ねる。
赤い波が、リリアの動揺を可視化していた。
ルカ:「君の“心拍”が異常値を示している。
恋を否定しながら、恋しているんだ。」
リリア:「……そんなはず、ない。」
声が震えた。
それを彼は逃さない。だが、勝ち誇るような表情は見せなかった。
ただ、科学者のように冷静に――そして、どこか優しく――見つめていた。
ルカ:「観測者として言うよ。
君の中で、“愛”という数式が再起動している。」
リリアの瞳が揺れる。
愛。
それはこの世界で最も不安定で、最も危険なワード。
リリア(心中):「愛……? そんな不安定なデータ、私には必要ない。」
拒絶の言葉とは裏腹に、彼女の心拍はさらに上昇していく。
ホログラムの光が強くなり、数式の列が乱れて流れ出す。
《Emotion_Signal: Overdrive》
《Cognitive_Interference: Detected》
赤い警告が、二人の間を裂くように点滅した。
ルカは端末に視線を戻すが、その表情にはわずかな迷いが見えた。
ルカ:「……理屈では説明できない。君を見ていると、僕の数式までも乱れていく。」
リリアはその言葉に、息を詰まらせる。
胸の奥――痛みとも熱ともつかない感覚が広がっていく。
ホログラムが消えると同時に、
二人の間に残ったのは、触れた手首のぬくもりだけだった。




