第3話 観測者の疑問 シーン2:邂逅 ― 破壊者か救済者か
理科準備室の扉が、静かに開いた。
軋む音とともに、淡い光の粒が室内に流れ込む。
蛍光灯の明滅が一瞬遅れて反応し、空気に静電気のようなざらつきが走った。
リリアが立っていた。
制服の裾が微かに揺れ、瞳には冷えた光。
だが、その背後――彼女の輪郭だけが、わずかにノイズを帯びていた。
ルカ:「……君か。システムのノイズ源。」
リリア:「ノイズ?」
ルカ:「この世界に“観測不能域”を作る存在。――君のことだ。」
ホログラムの光が二人の間を照らす。
机の上に浮かぶ端末には、赤いコードが滲んでいた。
《ID_002:LILIA》
《Override Authority:Active》
《Emotion_Process:不安定》
ルカは腕を組み、ディスプレイ越しに彼女を見据える。
その瞳には冷たい理性――そして、微かに混じる“人間的な興味”。
ルカ:「お前は、この世界の破壊者か?」
リリア:「……違う。私は、断罪を防ぎたいだけ。」
ルカ:「だが、君が恋を壊すたび、この世界の数式が崩れていく。」
その言葉に、リリアの肩がわずかに揺れた。
彼女の瞳に、ほんの一瞬だけ迷いの色が浮かぶ。
ルカは机の端に手を置き、静かに続けた。
ルカ:「この世界は“恋”を動力にしている。
フラグの成立が幸福の演算を生み、幸福の総和が空間を安定させる。
君の干渉は、その根本式を壊しているんだ。」
リリア:「……そんなもの、ただの偽りの幸福よ。
誰かが傷ついて断罪されるために設計された、残酷なシステム。」
ルカは一瞬、目を細める。
彼女の声の奥に、かすかな“痛み”を感じ取った。
ルカ:「理論上、感情の発露は演算の一種だ。
だが君のそれは……式に還元できない。」
彼の指先が、彼女の心拍グラフを示すホログラムに触れる。
赤いラインが跳ね上がり、異常値を記録した。
ルカ:「君の“心拍”が異常値を示している。
恋を否定しながら、恋しているんだ。」
リリアは息を呑んだ。
その言葉が、静寂の中に深く突き刺さる。
ホログラムの光が、二人の影を歪める。
冷たい理性と、壊れかけた感情――その境界が、静かに溶けていくようだった。




