第2章 第3話 観測者の疑問 シーン1:理科準備室・観測者の視線
夕刻の理科準備室。
窓の外では茜色の光が沈みかけ、部屋の奥にはひんやりとした静寂が漂っていた。
金属の机の上に、ホログラム式の端末が宙に浮かぶ。青白い光が天井を照らし、壁一面に数式と観測ログが投影されていた。
ルカはひとり、その光の中心に立っていた。
細い指先でディスプレイを操作しながら、淡い虹色のコードをスクロールする。
数列の中で、ひときわ不穏な赤い文字が点滅していた。
《#Lilia.Override=Active》
ルカ(独白):「……また干渉が発生した。恋愛進行値が下がるたびに、空間構造が歪んでいる。」
画面の右端に、波形グラフが乱れる。
恋愛イベント発動率、好感度変化、環境安定度――それらが一瞬ずつズレ、再計算を繰り返していた。
ルカは小さく息を吐く。
冷たい空気の中で、彼の声だけが機械的に響いた。
ルカ:「干渉因子……リリア・アマリエ。君は何者だ?」
ホログラムが切り替わり、教室の映像が投影される。
そこには、階段で少年に支えられるリリアの姿――つい数時間前の映像。
彼女の周囲には、淡く揺らめくノイズの輪が見えた。
まるで、世界そのものが彼女の存在を**“観測対象”**として固定しようとするかのように。
ルカは手を伸ばし、ノイズの波を止めようとするが、映像が砂のように崩れた。
それでも、彼の瞳はわずかに輝きを増していた。
ルカ(小声で):「恋愛フラグの抑制、感情データの干渉……。
もしこれが意図的な行動なら――君は、この世界の数式を塗り替えられる。」
ホログラムの光が彼の頬を照らす。
その表情は、科学者の好奇心と、ほんの少しの“恐れ”が入り混じったものだった。
やがて端末が静かに音を立て、赤い警告文を表示する。
《#System.Alert:観測対象リリア 接近中》
ルカは顔を上げた。
扉の向こう、足音がひとつ――。
ルカ(心中):「……来たな、干渉者。」
理科準備室の空気が、静かに張り詰めた。




