2-2-4 涙と上書き
――世界が、再び動き出した。
廊下の窓から差し込む夕陽がゆらめき、
止まっていた風が静かに流れはじめる。
ユウがリリアを見つめて、そっと手を伸ばした。
ユウ:「……泣いてる。なんで?」
リリアは、はっとして頬に触れた。
指先が濡れている。
温かい雫が、確かにそこにあった。
リリア:「……涙、なんて、プログラムされてないのに。」
ぽたり。
一粒の涙が床に落ちた瞬間、世界がわずかに震えた。
視界の端で、光のノイズが走る。
ウィンドウが自動的に展開され、赤い文字列が浮かび上がる。
《#Emotion_Update = True》
《#Data_Integrity = -4%》
リリアの胸が熱く脈打つ。
その痛みは、データのエラーでも、演算の結果でもない。
――“彼女自身の感情”。
思考の奥で、かすれた声が響いた。
(私……まだ、“心”を持ってたの……?)
ユウの手が、まだ彼女の頬にある。
優しい、けれど不安げな眼差し。
その温度が、さらにリリアの中の何かを溶かしていく。
演算では説明できない――心拍。
止めようとしても止まらない感情。
システムの奥底で、波紋のようなエラーが広がった。
壁の時計が一瞬だけ逆回転し、世界の光が滲む。
それでもリリアは、目を逸らさなかった。
ユウの瞳の奥に、自分を映すその世界を見つめ続ける。
リリア(モノローグ):「――もう、壊れてるのは、世界じゃなくて……私のほうかもしれない。」
その言葉と同時に、校舎の奥でかすかな軋み音。
まるで誰かが、新しいルートの扉を叩いたような音が響いた。




