2-2-2 拒絶と既視感
リリアは反射的に手を掲げた。
空中に、淡い青のウィンドウが開く。
現実と重なるように浮かぶUI――それは、彼女だけに見える世界の裏側だった。
指先が震える。
でも、迷ってはいけない。
彼女はコードを打ち込み始める。
《Command: 恋愛フラグ削除》
《Process: 進行中……》
《警告:処理遅延検出》
世界の描画が一瞬だけ歪む。
夕陽が割れ、階段の影がノイズのように二重に重なった。
BGMがわずかに遅れ、テンポを外したように響く。
ユウが、そんな異変に気づく様子もなく、彼女を見つめていた。
その瞳には、心配と――理解できない不安が浮かんでいる。
「……リリア、何言ってるんだよ。」
彼女は小さく息を吸い、声を押し出すように言った。
「あなたたちが恋をすれば、世界が壊れるのよ。」
言葉を吐いた瞬間、空気が凍った。
ノイズが走り、彼の輪郭が一瞬だけぶれた。
プログラムの応答が乱れている――そんな感覚。
「……世界が、壊れる?」
ユウの眉がわずかに動く。
夕陽の光が彼の瞳の奥に反射し、そこに微かな“ノイズ”が走った。
金色の粒子がチラチラと浮かび、見覚えのない記憶が再生される。
「なんでそんなに逃げるんだよ、リリア。
……前にも、同じことを言ってた気がする。」
その言葉に、リリアの手が止まる。
彼が“覚えている”。
ありえないはずの、リセット前の断片を。
夕陽が揺れ、廊下が静かに軋んだ。
UIウィンドウの文字が乱れる。
《Process: 削除失敗》
《理由:対象データに“記憶残留”を検出》
リリアの心臓が跳ねた。
――世界の“修正”が、効かなくなり始めている。




